103本目「映画検閲」【ややネタバレ】
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公開日:2024/9/6
監督:プラノ・ベイリー=ボンド(イギリス)
まえがき
「表現の自由」という人権は、いつも人権をめぐる闘いの最前線である。
軍国主義の時代は軍や政府と、それが終わったら犯罪の原因を安易な他人に求める民衆、わずかの不快感にも耐えられない輩と…。
日本でも、かの悪名高き宮崎勤事件が長い影を落とし続けている。
彼の自宅にあった大量のビデオテープを槍玉にあげ、スプラッタ映画やアニメが理不尽に叩かれた。今もその頃の体験を忘れられない連中がオタク叩きを続けている。私は直撃世代ではないが、それでも「宮崎勤」の名前はしょっちゅう引き合いに出されたのを覚えている。形見は狭かった。
見かけにわかりやすい「原因」を見つけたときの民衆の暴力性はすさまじい。そして多分、本人たちには快感なのだろう。終わらない。
ところで、本作はそんな民衆の圧力によって生じた「検閲」がテーマの作品である。時代背景は現代よりもっと過激だった時代だが、テーマ的には今に通じるものがあるはず。それをホラーにするというのはどういう感じなのか。
感想など
陰惨ではあるが、痛快な一作であった。
時代背景は1980年代、表現弾圧の勢いが今よりずっと強かった時代。
その時代の狂気、今に通じる「検閲」の狂気そのものをホラーの種として見事に描いているのは素晴らしい。
「ビデオと同じシチュエーションの犯罪が起きた」ことすらも検閲官(作者ですらない!)のせいにする狂った時代の中で、主人公がどんどん精神の均衡を失っていく…。のだが、いったい何が原因か、それを明らかにするまでの流れが明快で美しい。所々で画角が(VHSのように)狭くなるのは何を意味してるのか。現実と妄想の境目か、あるいは主人公の視野か。
そしてラストの展開。あれこそ、「検閲」の狂気をキッチリと描き切った名シーンだと言える。物理的に「カット」するとは。
あのラストに向かう一連のシーンで、我々は自分たちが「妹」として扱われていること、「守るべき」という大義名分のもとで奪われてきたもの、その独り善がりの幻想のおぞましさを見せつけられる。
我々はもう一度ハッキリ宣言しておくべきだろう。
「私はお前の妹ではない」と。
ペーパーお勧め度
★5。
露悪的なビジュアルに反して、かなり真面目に「検閲」というテーマに向き合った傑作。暗い絵面や視覚的な不愉快さで人は選ぶだろうが、それでも観るべき作品には変わりない。
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