事業会社のデジタルマーケティング担当者にとって「サイト運用の最適なカタチは何か?」
今回は、事業会社のデジタルマーケティング担当者にとって「WEBサイト運用の最適なカタチは何か?」をまとめます。
この文章は、WEBサイト制作業界にいた、内部プレイヤーとしての声を記述したものです。客観性や網羅性を目指したものではありません。むしろ、内部で作業してきた者として、実感を10個リストアップした記事です。
事業会社のデジタルマーケティング担当者に「WEBサイト制作会社が置かれた状況」が、臨場感とともに伝われば幸いです。
WEBサイト制作会社の課題が分かれば、WEBサイト制作に関する依頼内容の精度も高められるずだからです。
簡単な自己紹介
私は現在、株式会社Besoにてマーケティングを担当しています。
経歴としては、大学を卒業後、アルゼンチンへスペイン語留学→飲食店店長→アクセサリーショップ店長→Web業界にてtoBマーケティング(SEO記事作成/SNS運用/取材記事/サイト再設計/サイト戦略立案/事業理解)→現在の事業会社(株式会社Beso)にて税務SaaSのマーケティングなどを担当。
コーヒーが好きで、喫茶店を開業したかったのですが、ヘルニアになったことをきっかけに「店舗の後方支援・インフラとしてのWEBサイト運用」「事業理解-マーケティングの最適化」にキャリアをシフトしてきました。
この記事の結論
WEBサイト制作サービスの課題
・WEBサイト制作の周辺サービスの増加
・WEBサイト制作の価値が相対的に低下
・結果、発注先である事業会社において「WEBサイト運用最適化」の負荷が高まる
結論
WEBサイト制作は「プロダクト単位の制作サービス」から
・ワークショップ形式の社内人材育成
・WEBサイト運用も含む事業戦略を協業形式で行う戦略運用サービス
へと移行していく
WEBサイト制作サービスの未来
・「狭義のWEBサイト制作」は、周辺サービスと並列になり、一部となる
・「WEBサイト制作のディレクション業務」は取り換え可能な作業となる
・「信頼関係」が基盤となる
・WEBサイト制作後も継続する「協業型チーム運用」に価値が置かれる
・「上流の商材理解からサイト設計への落とし込み」が重要視される
・「サイト公開後の導線設計と改善」を含むことが当たり前になる
・「長期戦略の立案部隊と実行部隊」がより求められる
・提供されるサービスは、より専門性が高く、具体的に細分化される
「狭義のWEBサイト制作サービス」の価値領域が狭まる10の理由
あくまで私見ですが、「いわゆる狭義のWEBサイト制作サービス」の価値領域は、現在、少しづつ他のサービスから奪われているように感じます。
その原因は何か、ずっと気になっており、今回、主観的に、実感として感じてきたことをリストアップしました。
1.ノーコードサービスによる誤認識
非WEBサイト制作者の認知が「ノーコードサービスでひとりで無料でサイト作れるよね」と変化してきました。
高品質のWEBサイトを期日に合わせて作りたいのであれば、実績あるプロ集団に頼んだほうが、明らかによいにも関わらず。
その理由は、
無料でノーコードで誰でも作れる条件が整ったとしても、WEBサイトの導線設計がなければ、まるで「設計図なしの建築物」のように、機能しないWEBサイトを作ることになること
その現象を
・ロジカルに提示できてこなかったこと
・あるいは納得感をもって伝えられなかったこと
が想定されます。
2.マーケティングは含まれない
ほとんどの「狭義のWEBサイト制作」の作業項目には、マーケティングという欄はありません。あるいは、あってもオプションで高額になるため、選択されません。
そのため、「狭義のWEBサイト制作」サービスは、売上に寄与したことを証明できないまま、社会に普及することになりました。
マーケティングの定義
①特定の課題領域を設定し、課題の認知を作る
②そこで、商談化から成約まで導線、売上を作る
狭義のWEBサイト制作に関する課題
同時に「狭義のWEBサイト制作」の課題として、
が挙げられます。
上記をコントロールするには、いずれも「一定以上のディレクション経験」あるいは、WEBサイト制作会社としての「論理的な説明資料」が必要です。
3.ブランディングは含まれない
「狭義のWEBサイト制作」の作業項目には、ブランディングという作業項目はありません。あるいは、あってもオプションで高額になり、かつ費用対効果が明示しにくいため、ほとんど選択されません。
ブランディングの定義
①サービスと企業が保有する価値の定義。表現の最大化
②①が口コミで自然に伝わる状態を作ること
4.付加価値サービスの増加
WEBサイト制作会社を、以下の3つのカテゴリーに分類されると仮定します。
ここで「継続顧客化」できるサービスは、以下になります。
2-2.特定領域特化型(システム)
3-2.運用型(WEBサイト制作+SNS立ち上げ+SNS運用)
3-3.運用型(WEBサイト制作+広告運用)
3-4.運用型(WEBサイト制作+コンテンツ運用)
※「3-1.運用型(WEBサイト制作+コンサル)」のデメリットは、実働部隊を他に準備する費用がかかってしまうこと。必然的に資金に余裕がある企業のみの選択肢のため、ここでは外します。
すると、ここからは、リピート顧客に対する
・価値ある継続サービスの開発
・価値ある継続サービスの単価設定
がWEBサイト制作会社の次の課題となります。
補足:成功事例として挙げられる会社
下記のWEBサイト制作会社は、独自のサービス体系と第一想起を獲得しています。
5.WEBサイト改善は含まれない
「WEBサイトは作ってからがはじまり」というセリフをよく聞きます。
分解してみると「WEBサイトを作って終わり」のサービス設計自体が合理的ではないことが分かります。
それは以下の3つの理由によります。
1.WEBサイトの公開は、市場に対する「3つの仮説を含む1セットの仮説 」が、やっと市場に投入された状態、を意味する
そして一般的に、狭義のWEBサイト制作は「仮説としての導線設計」における費用対効果の説明責任を求められます。
2.サイト公開後にのみ、仮説精度を高める作業をおこなうことができる
・顧客課題:業界分析/競合分析/顧客分析
→想定顧客がいるのか?いた場合、どのように反応しているか?
→課題仮説はターゲットの中に存在するか?
・解決策:自社分析/自社サービス分析
→プロダクト/サービス設計の精度
→サポート体制は適切か?
・導線設計:ランディングページのCTA導線/段階的CV設定/EFO
→最適な状態で営業へ
3.顧客課題は、外部要因と内部要因によって、ずっと変化していく
仮に、精度の高い顧客課題と、精度の高い解決策と、最適な導線設計が組み立てられ、お客様の課題を解決することができ、売上が上がったとしても。
自社自身のサービスが要因となり、しだいに市場が変化し始めます。
また、別の外的要因によっても市場は常に変化し続けるため、「1セットの仮説(顧客課題/解決策/導線設計)」も、同様に変化し続けることが求められます。
これらの不確定要素は、WEBサイトを公開した後の運用フェーズでしか、最適化できないのです。
また、実際にWEBサイト改善を行うことを決裁者が決定したとしても、下記3点の課題が発生します。
課題が分かっていても、人材もスキルも社内に不足していて、サービス再開発も難しい(どのようにしたらよいか分からない)、という状態です。
・人材的課題
・技術的課題
・サービス再開発
このように、WEBサイトを公開したあとに、多くの不確定要素が発生するにもかかわらず、言語化や認識の共有がない場合、すべての原因は、起点となった「WEBサイト制作会社」が無言のうちに背負わされることになります。
それは、誰にとっても好ましくない状態です。
WEBサイト改善は「売上の少ない3階立て商業施設を改築すること」に似ている
比喩として「売上の少ない3階立て商業施設」を例に出すと、
WEBサイト公開~改善のプロセスも同様です。
やはり「WEBサイト制作」のみのサービス設計自体が、インスタントで、理にかなっていないと言えそうです。
6.営業部門との連携は含まれない
特に、BtoBのWEBサイト制作を依頼される企業に関しては、
という場合が多い印象です。
「WEBサイト制作起点で結果を出す(売上増加)」を第一義とする場合、
・現場の一次情報の収集と分析
・「高精度の仮説」を持つトップセールスマンとの関係性構築
が肝要です。
それは「サイトで提示する解決策の質」と「導線設計」「サービス体制の提示」に直接影響するからです。
場合によっては
トップセールスマンが、日々大切に磨きをかけメンテナンスしている「お客様の課題仮説」は、代表の洞察に匹敵する、または部分的にはそれを凌駕する、と個人的には考えています。
その方々の思考をWEBサイトの導線設計に反映すること。
それがWEBサイト設計における肝になります。
7.制作チームに営業/接客/販売経験者が少ない
「購入してくださるお客様の心の動きと、その行為への感謝」を感じた経験のあるWEBサイト制作者が多ければ、「職種別縦割り体制」を越境したアイデアと行動が、もっと生まれるのにな、と個人的には思います。
それが近年言われている「営業担当経験のあるWEBディレクターは強い」ということにも繋がる気がします。
8.制作チームに顧客が喜んだ姿を直接見る機会が少ない
7.と似ていますが、モノを作る側として「お客様の笑顔を見た」という経験は、モチベーションに直接繋がります。ある種の人々には原体験に繋がる場合も多いのではないかと思います。
WEBサイト制作は、基本、工数管理起点で「職種別縦割り体制」を準備し、最小限の時間で最大限の再現性を作るため、「工数化できないゼロイチ作業を個人の作業へと個別化」するという、工数最小化の思考が生まれます。
WEBサイト制作ディレクターは役割として、受注できず、工数化できない作業を排除します。
もし「工数化できないゼロイチ作業」を受注するのであれば、WEBサイト制作会社側に、そのためのサービス設計とサービス提供体制が必要になります。
工数管理化されたWEBサイト制作の現場では、「直接お客様の笑顔を共有し、次へ活かすこと」は、作業工数に含まれません。そして「WEBサイトを制作してよかった」という実感は、往々にしてサイトの運用フェーズで生まれます。
作る側として「お客様の笑顔を見ること」ができない状態は、もったいない。
この点からも「別職種でサービス提供によってお客様の笑顔を見た経験」は、WEBサイト制作を質的に変化させるためには、とても有効に働くと感じます。
9.お客様は「全体最適の施策設計」ができない
これは「全体最適の施策設計ができている」こと、と「提案の準備ができていること」が大事だよね、という話です。
例えば、BtoB企業の事業部長は、休日になるとBtoCの消費者側に立ち、オンラインでの消費者経験を重ねます。
そして「BtoC向けの部分最適サービス(SNSマーケ/コンテンツマーケ/広告/安価で短期間のサイト制作やアプリ開発)」の情報にも触れます。
すると「BtoC向けの部分最適サービス」を「顧客が限定的なBtoBサービス」に向けて、部下に指示する可能性が生まれます。対象顧客も規模感も違う、部分最適の戦略を採用してしまう。
つまり、BtoB企業の事業部長に必要なのはの、以下の3点セットです。
ですが、当然「BtoC向けの部分最適サービスサイト」のトップページには、BtoB企業の事業部長向けの注意事項はありません。
※提供側は、そもそもメインターゲットと想定していないため
結果、「BtoC向けの部分最適サービス」を選択したBtoB企業の事業部長は、数か月後、瞬間的な効果しか上げられなかったことに気が付きます。
そうやってWEBサイト制作会社のサービス一覧を眺めると、価値提供前の段階で必要となるベーシックな
・BtoBサービスにおける「施策全体図」
・施策全体図における「直近施策群の優先順位付けとその根拠」
・施策の実行計画と実行部隊
が3点セットでサービス化されていないことに気が付きます。
それができるWEB制作会社は、
1.低価格量産型
2.特定領域特化型
3.運用型
の中では
3-1.運用型(WEBサイト制作+コンサル)
のみ。
または「3-1.運用型(WEBサイト制作+コンサル)」的なマーケティング戦略を、サービス体系に組み込んでいるWEBサイト制作会社にしかできません。
※おのずとWEBサイト制作の単価は高くなります。
10.事業会社にとってWEBサイトの役割とは何か?という問いが少ない
僕自身この問いに対する明確な答えを持っていません。
ですが、この問いを自分自身に問いかける回数は多いです。
それは僕の出所が影響しています。
喫茶店時代は、
・ホールでの所作
・ホールでのセリフ構成の作成
・セリフの言い方と組み合わせ
から始まり
「どうやったら、目の前のお客様が、もう一度この場所に足を運んでくださるか?」
を考えてきたこと。
アクセサリーショップでは
「どのようなストーリーをお伝えすると、アクセサリーデザイナーと職人の独自性が伝わるか?」
「どのように伝えたら、3秒以内の一言で、様々な購入水準の方々に、適切な店舗紹介、商品紹介、自己紹介ができるか?」
「どういう体験を提供出来たら、もう一度、好意的にこの場所を思い出してくださるか?」
を考え、行動に落とし込んできたこと。
その延長として
「どうやったら、WEBサイト経由で、この組織に好意を持ってくださって、その結果としてサービスを購入してくださるか。」
「どうやったら、組織の価値観に共鳴し、継続購入してくださるか?」
を考えてきました。
WEBサイトという機能を「BtoC現場の店長視点」で見続けてきた実感をもとに「そもそも、事業会社にとってWEBサイトの役割とは?」を考えています。
この問いが切実であるためには、
異業種の経験 × 販売の経験 × 売上責任の経験
が必要かもしれません。
WACUL代表取締役の垣内さんもおっしゃるように、「実際にサービスを販売した経験」あるいは「現在も直接販売している立場にいること」はマーケティング業務をアクティブに活性化すると考えます。
WEBサイト制作会社が事業会社から求められている3つのこと
1.売上を上げること(マーケティング)が求められている
・広告運用サービス
・LP制作サービス
いいえ。それだけでは不十分(部分最適)。
・事業戦略から関わるコンサル+外部マーケティング部門
これはベターな施策ですが、サービス設計の難易度も、価格設定も高くなることでしょう。
2.自然に伝わる状態を作ること(ブランディング)が求められている
・ソーシャルメディア運用
いいえ。それだけでは不十分(部分最適)。
・事業戦略から関わるコンサル型サービス
これもベターな施策ですが、サービス設計の難易度も、価格設定も高くなることでしょう。
3.良い商品を作ること(R&D)が求められている
そもそも「よい商品」を作ることが求められているのではないか?
そこでは、既存サービスの改善であっても、スキルセットとしては新規事業の立ち上げと同じ人材が必要になるはずです。
・新規事業のスキルセットをもった外部の戦略立案/導入支援組織
ベストに近い施策ですが、サービス設計の難易度も、価格設定も最も高くなることでしょう。
4つの個人的結論
1.「プロダクト単位のWEBサイト制作サービス」の終焉
これまで述べてきた10の理由により「プロダクト単位のWEBサイト提供」は徐々に終焉し、他の周辺サービスと溶け合っていく、と個人的には想定します。
2.「ワークショップ型の戦略運用サービス」の始まり
それと並行して、信頼関係を基盤とした「ワークショップ型の戦略運用サービス」が重要になってくると考えます。
今後は、「WEBサイト制作」が含まれた形で複合的にサービスが混じっていくのではないでしょうか。
WEBサイト制作 プラス
・精度の高い3C分析、深い事業理解、商材理解
・既存WEBサイトの再設計
・マーケティング運用
・ブランディング運用
・新規事業開発
・既存事業の再定義
・事業戦略への深い関与
・営業部門との緊密な連携
・計画的なワークショップによる社内への教育提供
・長期的な協業体制
・計画的なワークショップを通した協業体制の戦略立案
・外部のマーケティング戦略立案組織
・長期的な事業部のマーケティング部門へのDX導入
それは次第に、「ワークショップ型の戦略運用サービス」のような内容になっていくのではないかと予想します。
中小企業の事業部長は「毎月定額の10万円のデジタルマーケティング予算を獲得」するだけでも、相当大変でプレッシャーがかかっているはずです。
事業会社にもWEBサイト制作会社にも、利益が生まれるサービス形態が少しづつ生まれるように思います。
3.そもそも「よいサービスを作る能力」が求められている
今後、「※経済合理性限界曲線」の外側を解決する企業が増えていくと仮定する場合、これまで、不確実性を嫌う資本主義的には解決不可能であり、放置されてきた課題を解決する方向で、サービスが作られていきます。
その流れの中で、既存サービスを内包する企業は、WEBサイトにおいても
・既存サービス(普遍性の高い問題)
・新規サービス(普遍性が低く、個別で、希少な問題)
が共存したカタチで、連続的に変化を続けていきます。
そうした状況では、
・WEBサイトは、連続的に中規模程度の更新がかかる変化を前提とし
・事業会社は、常に新規サービスに挑戦している
ことになります。
すると今後、事業会社としては、様々な契約形態や雇用形態を許容しながら、本質的には良いサービスを作る能力が求められるのではないでしょうか。
4.そもそも、WEB業界に適切な「サービス名称」と「役職名」がないから、職能を持った人々が見えない
現状は「部分最適のサービス名称」が先に有名になっているため、そのサービスを示す「サービス名称」も「役職名」も無いのではないでしょうか?
※正確には「課題が顕在化されていない」状態
個人的に「マーケター」という職種名は、誤解を生み続けてきたように思います。
最後に。マーケターとしての矜持を抱いた個人に出会ったら
おそらく日本全国には、点在する在野のマーケターがいて、各都道府県のそれぞれの町や地域で、
・そもそも課題と捉えられていない
・課題が言語化されていない
といった根本的で地道な課題解決を事業会社の担当者とともに行いながら、「WEBサイト制作-マーケティング問題」の適切な認識共有と事業会社の売上向上に、取り組んでいるのではないかと想像します。
それはマーケティングに資金を投入できない大多数の中小企業に伴走できるのは、同様の規模感のマーケターなのではないかと思うからです。
そして、その人は「マーケターとしての矜持を抱いた個人」なのではないかと思うのです。
もしあなたが事業会社のWEB担当者で、マーケターとしての矜持を抱いた個人に出会った場合、それを察知し、いっしょに協業体制を構築し、事業をうまく進められることを心から願います。