マイナンバー制度とマイナンバーカード(その2)
マイナンバーカードに係るここ最近の数々のトラブルの報道がまされているが,そもそも「マイナンバー制度」と「マイナンバーカード」を混同して報道してるようにしか見えない。
①マイナンバー制度
これは個人に番号振って,その番号で個人を管理しようとするもの。その管理はあくまでも「システム」(ソフトウェア)でするものなので,そのシステム仕様をしっかり検討して設計すれば,マイナンバーカードがなくてもできるもの。現在,行政が管理する個人の各種公的番号(納税番号,年金番号,健康保険証番号,自動車免許証,障害者手帳番号,など)を,相互ではなく,マイナンバーをトップとして集約的に紐づければ,マイナンバーを経由して,ある公的番号から他の公的番号の情報にアクセスする事ができるようにシステム設計すればいいだけ。もちろん,セキュリティやアクセス権限の仕様をしっかり検討する必要はあるが。民間企業では,管理者が社員番号にアクセスし,セキュリティ権限が許可されている情報を確認できるのは,今じゃ普通である。
ちなみに,マイナ保険証にすれば,医療・服薬情報を個人や病院・薬局で共有することができるとの政府説明をよく聞くが,別にマイナ保険証がなくても,日本は国民皆保険制度の下で保険証番号だけで共有できるので,明らかに詭弁である。また,マイナンバーと保険証番号,納税番号を紐づければ,保険料担当部署がマイナンバー経由で納税情報を確認し,保険料や保険適用区分を設定する事ができ,国民健康保険では既にこれが実施されている(企業の組合健康保険は,従来より,マイナンバーに相当する社員番号経由で,源泉徴収情報にアクセスして対応しているものと思う)。
②マイナンバーカード
これはマイナンバー制度における「ツール」(ハードウェア)であり,それを利用するのは行政ではなく「個人」である。即ち,個人の裁量(利便性)で利用するかどうか決めればいいもの(だから制度上は任意)で,マイナンバー制度において行政上からはなくてもいいもの。ただし,行政が個人のマイナンバーカード利用実績を通じて行動等のデータ集約(ビッグデータ構築)を行いたい意図があるのであれば別ではあるが。
現在,各種公的カード(年金手帳,健康保険証,自動車免許証,障害者手帳等)をマイナカードに集約しようとの政府方針が聞こえており,現に健康保険証については,紙の保険証を廃止してマイナ保険証に代えることを決定している。しかし,リスクマネージメントの鉄則は「利便性が安全性に勝ってはいけない」であり,その重要性が高ければ高いほど利便性に反する「多様」,即ちリスク分散が重要となる。従って,マイナンバーカードはあくまでも「利便性」に徹した位置づけにすべきであり,マイナ保険証一本化施策はリスクマネージメントの視点からは明確に愚策である。
例えば,マイナ保険証の場合,普段の生活において個人で好きな時間に電子情報を確認できるなど利便性があるかもしれない(もちろん,その感じ方は人そおれぞれではあるが)。しかし,その「個人」に急病など不測の事態が起き,普段利用することはないであろう基幹病院に救急搬送された場合,症状次第ではその「個人」はログインできずにマイナ保険証が利用できない事が十分考えられ,その時に困るのは「病院」であり「親族」である。しかし,現行の紙の保険証を廃止せずに併用し続ければ,常時携行していることでこのような事態は避けられるのである。なお,マイナンバーカードを所有しない(できない)人には,廃止の紙の保険証に代わり資格確認証が発行される運用となるが,マイナ保険証所有者にも資格確認証は不測の事態のバックアップとして申請・所有できるとの話が国会答弁で出ているようで,であれば,なんで紙の保険証を廃止しなければならないのか呆れるしかない。
以上,マイナンバー制度とマイナンバーカードを分けて記載してみたが,マイナンバーカードなしでマイナンバー制度を構築しようとしないところに,マイナンバーカード利権が幅を利かせているとしか思えない。なお,最近,マイナンバーカード自主返納の動きが聞こえてきているが,すでにマイナポイントも貰ったしということで返納したい場合は,政府のシステムのセキュリティポリシーが全然信用できないので,以下の順番で対応した方がいい。
①マイナポータルで公金受取口座登録を解除する(マイナ保険証は不可)
②マイナポータルの利用者登録を削除する
③役所でマイナンバーカードの返納手続きをする
③を先にすると,①と②が自動的に抹消されるとは思えないからである。
以 上