【短編小説】一週間の出来事

先日、部下の結婚式だった。
祝辞を依頼されたが、人前はどうも苦手だ。

「専務にお願いしたいんですよ。私がここまで続いているのも、専務のおかげなんです」

頭を抱えた。
文章は妻に考えてもらった。
私はそのまま読むだけだ。

木下は私が経理部長だった頃、新卒で入ってきた。
勤勉で人当たりも良く、直感的にこいつは出世すると思った。

ある日、あいつが退職を考えていると相談してきた。
特に理由は聞かなかった。
どこでもやっていけると思ったからだ。
ただ、素直に『さみしくなるよ』とだけ伝えた。

しばらくして、彼が継続の意思を伝えてきた。
何があったかは知らない。
ただ彼の中で何かがあって、決断したのだろう。
素直に『ありがとう。嬉しいよ』とだけ伝えた。


「最後に木下君に一言だけ。ありがとう。そして、本当におめでとう」

妻の用意したものにないセリフがでた。
無意識だった。
急に恥ずかしくなったが、木下には届いたようだ。
式場の皆が拍手の中、彼は指で目頭を押さえていた。



そして、なぜ私は今ここにいるのだろうか。

なぜ今、喪主としてここに立っているのだろうか。

娘の遺影を眺めて、私は何をしているのだろうか。


3日前、私は久しぶりに呑んで帰った。
大学時代の友人が連絡をしてきたからだ。
22時には店を出た。妻にはメールをいれた。

家に帰ると誰もいなかった。
いつもなら用意してある風呂も、浴槽が空だった。
妻も疲れているのだろう。申し訳ないことをした。
浴槽を掃除して湯を張った。

風呂が出来上がるの待つ間、冷蔵庫に入っていた缶ビールを飲んでいた。

テーブルに置いた携帯が振動した。

妻からだ。

「あなた、、、今どこにいる?」

「帰ってきたよ。遅くなってすまなかった。お前はどうした?」

「春香が、、、」

「ん?春香がどうした」

妻が振り絞って出した言葉を聞いた後、私はタクシーを呼び、急いで病院へ向かった。

救急病院へ着くと、集中治療室の前に妻がいた。
隣には、春香の彼氏の拓海君もいた。

「春香は?」

呼吸が落ち着かない。

「全身を強く打っていて、意識もないの」

「なんで!?なんでこうなった!?」

私は声を荒げた。

「すみません」

拓海君が小さく口を開いた。

春香は、通っていた高校の非常階段4階から飛び降りたらしい。

拓海君が発見したようだ。


明朝、春香は息を引き取った。

葬儀は身内だけで行うことにした。

警察が絡むとマスコミがついてくるようだが、全部無視した。
いや、覚えていない。

乖離している。
自分でしたはずのことが、誰かがやってくれたように感じた。


「春香のお父さん」

背後に拓海君がいた。
彼を呼んだことすら忘れていた。

「わかりました。春香の死んだ理由が」

ハッと目が覚めた。

「春香は、いじめられていました」


//hiro_fさん、写真を使わせて頂きました。//


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