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[読書感想文] 一滴の黒

まず、黒一色の装丁が良すぎる。内容がわからないまま手に取ったのは確実にこの装丁の影響。

タトゥーに関する本だな、と少しだけ分かった時点で買ったので、現役タトゥーイストが仕事を始めるきっかけから現在までの遍歴を書いた、ここまでみっちりとタトゥーな内容だとは思っていなかった。

著者の経歴もすごい。元ヤクザに囲まれて内装工事会社でバイトをし、バックパッカーとして旅をしている間にタトゥーイストとしてデビュー。
理由はバックパッカーとしての金稼ぎがドラッグかタトゥーしかなかったかららしい。ほんまか?
そして暇を持て余すヒッピー仲間を練習台に成長していく。

トライバルタトゥーが専門で、今は縄文時代のタトゥーを想像で復刻しているとかなんとか。

トライバルタトゥーは、日本の漫画で出てくるヤンキーやアウトローがしているタトゥーの柄といえばわかりやすそう。タトゥーと言うとついつい日本のヤクザのアレが思い浮かんでしまうが、本に写真が載っているのを見ると確かに渦巻きのようなトライバルタトゥーからカナダの原住民の絵柄であるトーテムポールにあるハイダ、あとはケルティックもあればボルネオ、ポリネシア、アイヌ、琉球ハジチなど、国や地域によってぜんぜん違う絵柄が体を彩っている。どれもこれもかっこいい。

タトゥー写真付き、というか本の元になった連載がこちら。写真もカラーで載っているし動画などもある。というかDommune関係だったのか。以前ネットライブをよく聞いてた気がする。

全体的に文章が読みやすい。口語に近いというのもあるが、著者の書き方が上手いのだと思う。トピックが変わるときの移行もスムーズに紹介してくれて、置いてけぼりになることがなく、トピックが大きく変わってもすんなりと読み続けられる。

また、内容に反して…というと失礼だが、かなりアカデミックな内容で、時折文化人類学にすら触れていてなかなか普通に難しい。タトゥーだからといって表層的なものではなく、縄文時代から繋がっているであろうタトゥーの奥深い歴史をじっくりと語ってくれる。インテリヤクザ感がある。

タイのサクヤンというタトゥーは魔術的な意味合いがあり、タトゥーイストと客はまず人生のトータルな聞き込みをし、問題を洗い出し、どう解決したいか聞き、そこでようやく図柄が決まる。診断と処方に近い。好きな柄を入れるというモダンタトゥーとはぜんぜん違う。

p54要約

ボルネオのトライバルタトゥーは基本女性のみに彫られる。そしてそれが意味するのは死後のパスポート。
これは女が穢れていて男はそうではないという意味ではなく、死と再生のサイクルの中にいるのは女性だけで、男性は使い捨てだから。

p82要約

タトゥー=アングラ、ではなくファッションや個人主義と関連させたいという思いはあっても、やはりどの社会でもどうしてもアングラ住民と関連してしまいがちの様子。ヨーロッパではドラッグディーラーの少年たちがスクワット(不法占拠)した建物で雑魚寝しながら生活していたりするらしく、結局そういう少年たちの体を練習台にタトゥーを彫ってきた筆者。

2000年代のバンクーバーはドラッグの店も普通にあったようで、町中でウィードをやりながら歩く描写がある。今でもあるのかもしれないが。そしてやはり薬とタトゥーの流れがかぶっている。

ちなみにタトゥーのお客さんは全員素人とならざるを得ない。
というのも、プロになる頃には全身埋まってしまって彫るところがなくなるから。そういう考えはなかったのでおもしろい。
昔に比べれば今のほうが消しやすいらしいから、昔のヘタなタトゥーを消して全身きれいなものに統一する人とかもいそう。

カナダの先住民が狩猟民族にもかかわらず、トーテムポールのような巨大なアート活動を行えたのは、農耕民族が富を蓄積できるのに似た要素があったから。それが鮭。冬以外いつでも大量に採れて、保存もできる。これによりアートに時間を使う余裕ができた。そこからトライバルタトゥーも作られていった。

p136要約

ビル・リードというカナダ先住民のアートを復活させた人、以前どっかの先住民特集で見たような気がする。トーテムポールとかを復活させてたような… 民族学博物館かな。

タトゥーの模様には意味がある。しかも2つ。まず絵柄が何を指しているのか、そしてそのモチーフに付随する意味
ただ、そのどちらも広範囲すぎるため、彫った本人と彫られた本人はともかく、第三者が読み取るのは不可能に近い。
なのにその人達はその「意味」が正しいと思っているため、しばしば対立してしまう。

p186要約

タトゥー限らずありそうなお話。

霊長類が視界の中からヘビを発見する速度は飛び抜けている。これもあって人類にとってヘビが特別な意味を持ったのかもしれない。
なのでタトゥーにもヘビ模様が多い。直接ヘビ模様ではなくても、ヘビを意味する図柄なども多い。

p357要約

今のタトゥーは100%個人主義のものであり表現だが、元々のトライバルタトゥーなどは集団のものであり、記号であり通過儀礼であり言語であり、自分らしさみたいな意味はなかった。

痛みや血などが確実に関わってくる。どちらも今の社会では忌避されるもの。ただ、昔はどちらも大事な意味があった。痛みを耐えるという通過儀礼、流れる血の美しさとかも。

日本はヤクザと入れ墨という関係性がちょっと特別だが、別にそれは日本に限った話ではなく、海外でもギャングとタトゥーは不可分に近い。
それがなぜ日本だけこんなことになってしまったのか。

更に、漫画やアニメの表現になると突然顔の傷や体の模様というものは増える。タトゥーだとは明言してないが。ゴールデンカムイの杉元、鬼滅の刃の不死川実弥、刃牙の花山薫、キャプテンハーロックなど。傷のあるキャラは人気があるし、炭治郎はそもそも顔に大きなアザがある。なので、日本には潜在的にタトゥーへのあこがれがある。

言ってることはわかるような気もするけど、戦争や喧嘩で傷ついたものは、歴戦の兵士というステータスがつくことからあこがれられるのもありだが、タトゥーは自分で入れているものだし… 自然にあるものや結果的についたものと、自分から進んで入れるタトゥーはまた違う気がするけど…

・まとめ

思ったより読みやすかったこともあり、数日で400ページ全部読めてしまった。内容もとてもおもしろかった。

自分も日本人としてタトゥー、というか刺青に偏見があると思う。
ただ、銭湯で刺青禁止というのはもはや意味ないだろとは思っている。確かに明らかに現ヤクザか元ヤクザの人達はよく見るが、そこまで明らかに反社会勢力である人達は今は少ないし。
でもまあ、カタギではない人達の刺青と、ファッションタトゥーの違いはひと目で分かるものの、タトゥーを入れている人=アングラな人という印象は持ってしまっていると思う。

まあ、海外の人達と接しているとそんな印象は失せるものの、やはりタトゥーありの人となしの人がいると、ない人の方がおとなしいのだろうという第一印象を持ってしまいがち。

そうなるのは仕方ないにしても、それで人を判断するような人間にはならないようにしようとしてはいる。

…でも、顔や全身入っている人や、スカリフィケーションはさすがに「おっ」となってしまうのは許してほしいとは思う。というかそれが遠くからでもどの部族の人か判断できるというタトゥーのそもそもの役割なわけだしさ…

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