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[読書感想文] 黒澤明と「七人の侍」

どこで買った本か全く覚えてないが、買った自分を褒めてあげたくなった良い本。一気に読み終わってしまった。

ノンフィクションもの、あまり読まないのだがなんだかんだでどれ読んでも面白いな。もしかしてノンフィクションもの、好きなのかもしれない。

元々七人の侍は自分も大好きな映画だが、それの背景、製作エピソード、各シーンの裏話などなど、ファンがよだれを垂らしそうな話が次から次へと出てくる。映画の公開が1954年、そしてこの本が出たのがなんと1999年、45年経ってからこんな詳しい本が書かれたのがまずすごい。

黒澤監督が亡くなったタイミングというのもあるようだが、その時点で関係者に問い合わせても亡くなった方が多かった様子。
幸い黒澤監督のコメンタリーがこれまでたくさん出ていたので、それを参考にまとめた内容も多かったが、まだご存命だった方々にもインタビューをしていて、なかなか血の通ったコメントが多かった。

・七人の侍が与えた影響

黒澤監督が侍という存在に込めた思いについて読んでて、最近遊んだゴーストオブツシマが彷彿とさせられた。

彼はこの物語を通して、理想の侍を、憧れの侍の生と死の美しく感動的な生き様をこそ描こうとした。

百姓に雇われるというベクトルではなく、哀れな百姓の不幸を見過ごせない、いわば武士道の愛や憐憫の「仁」という徳目を生きる侍たちというベクトルに力点を移し、名利を顧みず、百姓たちのために、略奪者である野武士と身命を懸けて戦い、救ってやるという物語にしようとした。

どちらもp23

やっぱりツシマじゃーん。というかまあ、ツシマにそもそも黒澤モードという特別なフィルターが用意されてるし、影響を受けてないわけがない。

癖になる「黒澤モード」

ただ、その七人の侍も元はトルストイの戦争と平和がベースになっていたり、黒澤監督が身につけてきた作品が昇華した形でもあるらしい。

公開されてからもう70年ほどになり、これまで圧倒的に影響を与えてきた七人の侍。
直近ではゴーストオブツシマが作られ、そしてゴーストオブツシマがまた他のなにかに影響を与え…

本でも描かれているが、もうこの映画を作った人々はほとんどいなくなっている。が、映画自体は永久に残る。そして周りに影響を与え続ける。

そんな、過去の人達の作ってきたものに影響を受けて次のものが作られるという、連綿と紡がれる人間の文化というものが実感できてなんかこうゾクゾクする。
自分もそんな文化の輪に貢献できることはあるのだろうか。

・古き良き昭和…?

ただ、そんないい話だけではない。古き良き昭和ではなく、古くダメな昭和の話もモリモリ出てくる。

真夏のロケが多かったが、黒澤は午後になるとスタッフや俳優に水を飲ませなかった。五時で仕事を終わり、宿に引き上げて先ず入浴、その風呂上がりのビールを一気に飲むおいしさのために、皆に午後の水を厳禁したのである(村木与四郎談)

p226

クズやん!

他にも、時代だなぁと思うパワハラがすごい。さすがだ。
この前のエピソードにも、仕事が終わってからみんなで食事をとる、までは良いが黒澤がウイスキーを飲みまくり、話をしまくり、誰も席を立てない(機嫌が悪くなるから)とか。
今は無理だな。才能があってもさすがに誰もついてこなさそうだ。実際、別に誰もが同じノリだったり許していたわけではなく、食事会でも逃げてた人がいたりした様子。

本では「ここから七人の侍の若さと熱気が生まれたのである」、と褒めてるけど、こんな本も今ではもう編集段階でチェックされて出せないのかもしれない。そんな検閲もどうかとは思うが、パワハラが許される、もしくはそれがあったからこそ名作ができた、みたいな風潮は納得できないしなー。

他にも、火事のシーンで実際に衣装が燃えたり役者の顔が火膨れで膨れたり、あとは矢もテグスで誘導して背中に鉄板を張ったりしたものの、実際に矢を撃ち込んだり、危険とか言ってるレベルではないことの連続。

作曲者は肺結核で死にそうになってるところ、黒澤監督はヘビースモーカーだから喫煙をやめないとか、うーん、昭和。
パワハラがこの作品を作ったとは認めたくないが、でもこれをさせないと黒澤監督が本気を出せなかった、つまり結局、この作り方じゃないとこの傑作は生まれなかったということでもあるが… 病人も死者も出なかったのは完全に運が良かったからだろうな…

ただまあ、もちろんクズエピソードだけではなく、監督も一緒になってセットに使う板を磨いたり、灰をまいたり、大雨の中、泥だらけの田んぼに埋まって指揮をし続けたなど、パワハラというと本人が周りだけに作業を強制させるイメージがあるが、それよりも本人が一番本人にパワハラをしていたような感じ。

うーむ、今同じものを作れと言われたら絶対不可能だし、CGで代用しても同じ空気は作れないだろう、とは言え今は今でそこまで苦労せずともすごい映画は作れるわけで、その時代その時代で素晴らしいものが作られていくんだろうな。
あえて七人の侍と、今の映画を比べてあっちがいいこっちがいいと言うこと自体がまあ、おかしいのか。

・予定通りにいかないというのが予定通りだった

当初は制作費7000万円だったのが、当たり前のようにスケジュールも伸び、費用も増えて2億1000万… 収益は2億9000万円とすごい稼いだようだが、8000万円の利益は妥当なのだろうか…?
映画単体の制作費用が2億ちょいだったわけで、無駄になった広告や会社側のスケジュール調整とか加えたらもっともっと大きなお金が動いていたような気がしないでもない。

ただ、監督はまず最初のスケジュールで作ることは無理だと分かってて、あえてラストシーンや肝心な箇所は撮っておかないようにしたという、そっち方面での手練手管も見せていく。ここは会社としては溜まったもんじゃないだろうが、物事の進め方としてちょっと参考になる。真似しちゃいけなさそうだけども…

・まとめ

映画のシーンだけでなく、撮影中の写真などもたくさんあり、三船敏郎がはっちゃけてるオフショットや全員の集合写真、撮影だけではなく東宝会議の打ち合わせなども多い。写真ももちろん白黒だが、十分に雰囲気が出ている。というかもちろんカラーの七人の侍なんてないから白黒で雰囲気があるなし言うほうがおかしいのだが。
でも、豪雨の写真なんか線がはっきり見えてて、豪雨っぷりがよくわかる。普通に資料として貴重なドキュメンタリー本。

七人の侍についてのネタバレしかないので、もしまだ見てない人がいるなら絶対にこれは読まず、先に映画を見ろ、となるが、自分のように見たことある人にとってはどう考えても七人の侍を見直したくなる本であり、更になぜか家に黒澤明Masterworks1があったのでいつでも見直せるぜ!

というか他の作品も見なきゃな…

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