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歩き始めればね。

最近、人の人生って、こちらが「何になりたい」と希望するより、そういうことは運否天賦に任せるべきものなのかなと思い始めて久しい。きっかけはこの本だった。

この本には、鈴木克明さん、有紀さん(この本の共著者)お二人の人生がシンクロする前から描き始められている。別々にご本人の回顧録という感じで。お二方とも、もともとの人生はインドともカレーともほぼ無縁。でも、その人生がいつしかシンクロし、隣り合った榎と桜がくっついて一本の樹になってしまうように一つの像を結んでいく。
しかもタイトルにあるように不器用な「カレー屋さん」。コンサルタントな専門家が聞いたら、泡吹いて怒っちゃいそうな計画の甘さ、段取りの悪さで、それでもカレー屋さんは「今、話題の」と言われるまでの繁盛店になっていく。

もちろん、ただの「運がいい」ではない。ずいぶん、ご苦労をされている。立ちっぱなしで18時間労働ということもある。金銭的なことでもずいぶんと苦労をされている。たぶん、真似できることではない。常人が、彼らを複写するようにカレー店の開業を目指したら、100%失敗すると思う。

しかも、功利的ではない。自分たちの夢を追われてはいるのは事実だけれど、その夢はお客さんとのコラボレーションの中にある。ゆえに自分たちの「納得」は「料理を提供されるお客さんの存在(満足)」を前提にされているもの。

何よりも、自分がインドで感じた感動をお客さんに真摯に伝えていこうとしている…

でもね。

これからは「いい会社に就職する」より、個人としてお客さんに認められて自立している方が安全だし、そうした生き方を可能にする人が垂涎の的にもなっていくんだろうとも思う。既存の選択肢を選ぶんじゃなく、選択肢ごと自分でメイキングしていく感じ。

この本は、そういう道を歩み始めようとしている人には、灯台になるような書籍だ。

ただし、冒頭申し上げたように「こちらが何になりたいと希望するより、人生は運否天賦に任せるべきものなのかな」と。すると見つかるみたいな。

そういう出会いが誰にもあるとは思えないと言われそうですが、たぶん「出会い」に恵まれるほど、僕らは越境せず、小さな殻の中に留まっているのでだろう。

犬も歩けば棒に当たる…

まだ、歩いてみてないだけなのかもしれない。

就職しないで生きるには21「不器用なカレー食堂」          鈴木克明 鈴木有紀 著 晶文社 刊

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