本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年2月16日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ウクライナ東部:アウジーウカ方面戦況
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ウクライナ軍はアウジーウカからの撤退を開始しており、一方でロシア軍はウクライナ軍の撤退完遂を困難にする、または阻止することに重点を置いている模様だ。ウクライナ時間の2月17日早朝にウクライナ軍総司令官オレクサンドル・シルシキー上級大将[*注:2022年にウクライナ軍はNATO基準に階級を改めたため、正式には大将(4つ星)]は、アウジーウカ市内のウクライナ軍に対して、より防衛に好ましい陣地への退却を命じたことを伝えた。その目的は、包囲されることを避けることと、ウクライナ兵士の命を救うことにあると述べている。シルシキーの声明は、ここ24時間でアウジーウカ外周部でのロシア軍の前進が複数確認されたのちに出されている。2月16日公開の撮影地点特定可能な動画により分かっているのは、ロシア軍が、アウジーウカ西部外周部のフルシェウスコホ通りに沿ってさらに南進し、アウジーウカ市内北西部のアウジーウカ・コークス工場の南でも前進したことと、ロシア軍が、アウジーウカ市内北東部のダーチャ地区でわずかだが占領地を拡大し、アウジーウカ市内中心部のアウジーウカ市公園を占領したということだ。ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団は2月16日の早い段階で、ウクライナ軍がアウジーウカ南方に位置する強固につくられた陣地から撤退したことを認め、同軍が今の陣地から構築済みの新しい防御陣地に後退しているところであることも認めた。なお、後退前の陣地の詳細に関しては不明だ。ウクライナ側当局者の報告によると、ウクライナ軍がこの地域に増援戦力を送っており、その目的は、状況を安定させることと、それに加え、攻撃してくるロシア軍を弱らせることにあるとのことだ。整えられた防御陣地群の背後で後退した部隊が再編成できるようにするための迎撃戦力としての役割を果たす目的で、増援を投入するのは、一般的な軍事行動である。ロシア側情報筋の主張によると、ウクライナ軍は「大挙して」後退しており、ウクライナ軍の撤退行動はますます混乱して損害の多いものになっているとのことだ。だが、ウクライナ軍が大規模に後退している、もしくは潰走していることの証拠となる映像資料を、ISWは確認していない。また、アウジーウカ市内外でのロシア軍の進撃ペースが引き続き遅いものであることから、ウクライナ軍は現在、比較的秩序を保ちながらアウジーウカからの撤退を遂行していると思われる。
ロシア側情報筋の主張によると、ロシア軍はまた、アウジーウカ市内東部とアウジーウカ南西外周部に至る地点において前進し、フルシェウスコホ通りに沿ってさらに南進し、そして、アウジーウカ西方の未舗装道路に向かって前進したとのことだ。なお、この複数ある未舗装道路は、アウジーウカ市内東南部陣地に補給物資を送るためにウクライナ軍が現在、使用している道だ。ロシア軍事ブロガーは、ロシア軍がアウジーウカとラストチキネ(アウジーウカの西)をつなぐ未舗装道路1本をもうすぐ遮断するところである、または、すでに遮断してしまったと主張している。ロシア側情報筋は、アウジーウカ市内中央部・東部・南部に残るウクライナ軍をまもなくロシア軍が包囲してしまうと主張し、それに加えて、ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、アウジーウカ西部外周部のロシア軍展開地点とアウジーウカ南部のロシア軍展開地点との間隙が1km少々しかないと主張している。入手可能な映像資料に基づく現時点でのISW評価分析では、これら2箇所のロシア軍進撃地点間の距離は、おおよそ3.5kmである。ロシア軍事ブロガーは、アウジーウカ市内に残るウクライナ将兵は最大5,000人で、この都市内に閉じ込めることに成功していると主張したが、ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団司令官オレクサンドル・タルナウシキー准将は、2月16日13時の時点でアウジーウカ市内のウクライナ軍を包囲したロシア軍はいないと述べた。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツによると、アウジーウカからの秩序立ったウクライナ軍撤退を阻止しようと、ロシア軍は決心しているとのことだ。
ウクライナ軍がアウジーウカから秩序立って撤退するためには、反撃を実行する必要が生じる可能性がある。また、ウクライナ軍の撤退を困難にしようとする、もしくは阻止しようとするロシア軍の取り組みは、戦力消耗を促進する結果になる可能性もある。ウクライナ側が秩序を保って撤退するためには、ロシア軍がアウジーウカのウクライナ軍に対する包囲環を閉めようと試みている地区で、ウクライナ軍が反撃を行って戦線の安定化を図る必要があるかもしれない。アウジーウカ市内での反撃を実施するために、最近、ここに再配置されたあるウクライナ軍旅団は2月16日に、同旅団がここのところ支援任務を行っており、その支援内容は、ウクライナ軍がロシア軍第74自動車化狙撃旅団(中央軍管区第41諸兵科連合軍)・第114自動車化狙撃旅団(ドネツク人民共和国第1軍団)所属部隊の戦闘力を落とすことの支援であると述べた。ウクライナ軍の撤退と、撤退を援護する反撃を妨げることを目的に、ロシア軍がアウジーウカ市内でさらに戦果を拡張しようとすることは、よりいっそうロシア側損失を大きくすることになる可能性が高い。そして、ロシア軍がアウジーウカから西に位置する構築済みのウクライナ軍第2線陣地群に向かって前進することに苦戦することになる可能性も高い。なお、この陣地群に向かって、ウクライナ軍は後退行動を進めている。また、ロシア軍が開豁地を通ってこの陣地群を正面から攻撃することに決めた場合、同軍は甚大な損失を被ることになる可能性が高い。ロシア軍の目的が、ウクライナ軍の撤退を困難にする、もしくは阻止することにある可能性は高く、この地域のウクライナ軍に対して、作戦レベルで支障が生じるほどの大損害を与えたいと考えているものと思われる。なぜなら、アウジーウカ占領それ自体が、作戦レベルで有意味な大きな利益をもたらすことも、作戦レベルの大進撃の契機をもたらすこともないからである。