本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年1月25日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
アウジーウカ戦況
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ロシア軍は最近、アウジーウカ北方とアウジーウカ南側外周部で前進した。一方でウクライナ軍は最近、この居住地域の南方でわずかだが戦果をあげたことが伝えられている。1月25日に公開された撮影地点特定済みの動画によって、ステポヴェ(アウジーウカから北西)から南西の方向と、アウジーウカ市内南端の住宅地区内にあるスポルティヴナ通り沿いで、ロシア軍が最近、前進したことが分かる。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツは、料理店「ツァールスカ・オホタ」地区付近でウクライナ軍が最近、最大100メートル前進したと述べた。だが、この主張を裏付ける情報をISWは確認していない。1月25日のロシア側情報筋の主張によると、過去3日間、料理店「ツァールスカ・オホタ」地区付近でウクライナ軍は以前に喪失した陣地を取り戻そうと反撃を続けているとのことだ。陣地をめぐる戦闘も引き続き行われており、その具体的な場所は、アウジーウカから北西の方向のノヴォバフムティウカ付近とステポヴェ付近、アウジーウカ南側外周部、アウジーウカ南方のオピトネ付近とスパルタク付近、アウジーウカ西方のシェヴェルネ付近、アウジーウカから南西の方向のネヴェルシケ付近とペルヴォマイシケ付近である。ウクライナ国家警備隊報道官ルスラン・ムジチュク大佐によると、アウジーウカ周辺におけるロシア軍装甲車両の使用がわずかに少なくなっており、偵察や攻撃を実施する際、ロシア軍は小規模な歩兵グループに、よりいっそう依存するようになっているとのことだ。この一日の間にアウジーウカ周辺のロシア軍がさまざまな戦術を用いて10回の攻撃を行ったことをウクライナ軍が確認したとムジチュクは述べたうえで、この方面のロシア軍が、攻撃の際に、絶えずさまざまな戦術を組み合わせて使っていることを指摘した。第132自動車化狙撃旅団(ドネツク人民共和国[DNR]第1軍団)所属部隊がクラスノホリウカ周辺で、第1自動車化狙撃旅団(DNR第1軍団)所属部隊と第55自動車化狙撃旅団(中央軍管区第41諸兵科連合軍)所属部隊がオピトネ及びスパルタク周辺で、「ヴェテラニ」強襲偵察旅団(志願兵突撃軍団)が料理店「ツァールスカ・オホタ」地区で、それぞれ作戦行動中だと伝えられている。また、第9自動車化狙撃旅団(DNR第1軍団)所属部隊も、アウジーウカ地区で作戦行動中の模様だ。
ロシア軍は、アウジーウカ包囲に失敗したのち、アウジーウカ市内に突入するという方法で戦闘を行う準備を整えているようだ。ロシア軍は最近、アウジーウカ市内南部の住宅エリアでの攻勢を重視しており、このエリアでわずかだが戦果をあげつつある。一方、依然としてロシア軍は、アウジーウカの南北両側面で攻撃を続けているが、ここでの攻撃のテンポは、2023年秋にロシア軍がアウジーウカ両側面で機械化部隊によって遂行した攻勢第一撃の規模と比べてずっと大人しいものだ。ロシア軍攻勢作戦の全体的な進捗の度合いから、ロシア軍はアウジーウカからずっと南西の位置から、もしくは同市北部に向かって、この居住地域を包囲する動きを進めていく代わりに、アウジーウカ南部の住宅エリアを一区画ずつ攻略することを優先していることが推察できる。なお、南西部もしくは北部においてロシア軍は、ごくわずかな戦果しかあげられていない。ロシア軍は力づくで戦術レベルの戦果をあげるために、軽歩兵による消耗度の激しい正面攻撃を再び行おうとしている可能性があり、このような攻撃をロシア軍は、バフムートの戦いにおいて、市境界を突き破ったのちに遂行していた。ウクライナ内務省のマクシム・モロゾウ少佐は1月25日に、ロシア軍がアウジーウカ周辺に4万人の兵力を集結させていることと、同市攻撃を強化する準備を進めていることを指摘した。アウジーウカでのロシア軍の前進ペースが今後、かなり上がっていくことになるのかどうかは不明だ。この都市をめぐる今後の戦いが、ウクライナ東部で最近みられた市街戦の事例と類似していく可能性は大きい。なお、ウクライナ東部においてロシア軍は、わずかな戦果のために消耗度の激しい突撃攻撃を実施している。仮にウクライナがアウジーウカを失ったとしても、それがウクライナのドネツィク州防衛に支障をきたすような脅威にはならないだろうし、ロシア軍が今後数カ月間にこの都市で犠牲の大きな戦術レベルの戦果を最終的に得たとしても、それは同じことだろう。