本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年1月11日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
作戦レベルでの部隊ローテーションが行えている模様のロシア軍
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ウクライナに戦闘能力を有する全ロシア地上戦力が集結していることと、ロシアが戦力造成を継続して行っていることが伝えられており、これらのことはロシア軍がウクライナにおいて、作戦レベルの部隊ローテーションを定期的に行うことを可能にしているようにみえる。ウクライナ国防省情報総局(GUR)副局長ヴァディム・スキビツィキー少将の1月11日の発言によると、ロシア軍は462,000人の兵力をウクライナに有しており、この数はロシア軍の全地上戦力を示しているとのことだ。在ウクライナ・ロシア軍部隊の大半が、設定された完全戦力の92〜95%の兵力で人員充足されており、ウクライナにいるロシア軍部隊の集団としての規模は、ロシア軍が戦域全体で部隊ローテーションを行うに足るものだと、スキビツィキーは述べた。スキビツィキーによると、ロシア軍は完全戦力の50%以下になった部隊を後方地域に後退させ、そこで補充回復をしたのち、前線に送り返しているとのことだ。1月11日、ロシア連邦安全保障会議副議長ドミトリー・メドヴェージェフは、在ウクライナ・ロシア軍戦力の補充に成功していると語った。これは、継続して行われている非公然動員の取り組みを通してなされたもので、2023年には50万人を超える新兵を生み出している。
以前のことになるが、2022年のロシアによる全面侵略開始から2023年夏のウクライナ軍反転攻勢の期間を通して、作戦レベルでの部隊ローテーションの実行にロシア軍が常に困難を抱えていることを、ISWは確認していた。損失分と同じ規模の戦力を作り出せているようにみえるロシアの能力によって、ロシア軍統帥部が戦力低下を理由に部隊を前線から後退させ、補充後に前線に戻すという形で、部隊の戦力補充を行えるようになっている可能性は高い。ロシア軍はウクライナ東部全域で主導権を維持している。また、ウクライナ軍の反転攻勢が行われていない結果、作戦レベルでの部隊展開にかかる圧力が取り除かれている可能性は高い。このような圧力は、以前なら部隊ローテーションを実施するロシア軍の能力を、部分的に制約していたものだ。一方で、ヘルソン州において、ロシア軍は戦場での主導権を確保できておらず、ドニプロ川東岸(左岸)のウクライナ側橋頭堡付近で作戦行動中の各種部隊の戦力も低下しているようにみえ、作戦レベルの部隊ローテーションに取り組んでいる様子もない(ただし、戦術レベルの部隊ローテーションは実施されている模様だ)。2023年10月上旬以降、アウジーウカ、バフムート、リマン、クプヤンシクの各方面でロシア軍が局地的な攻勢作戦を遂行しているが、その間、同軍は複数回、再編成を行っている。そして、この局地的な攻勢作戦が、スキビツィキーが説明した部隊ローテーションを行う時間を、ロシア軍に与えることになった可能性は高い。戦域全体から部隊ローテーションが実施されないことに対するロシア側の不平不満の広がりを、2023年夏以降、 ISWは確認していない。そして、ロシア軍作戦の全体的なテンポは、スキビツィキーの報告内容と合致している。
ロシアが作戦レベルの部隊ローテーションを実施できることによって、ロシア軍は短期的には、ウクライナ東部における局地的な攻勢作戦のテンポを、全体として今後も維持できる可能性が高い。しかし、長期間にわたる場合に、またはロシア軍の攻勢遂行が激化する場合や大規模なウクライナ軍反攻作戦が行われる場合に、ロシア軍が部隊ローテーションを有効に行えるかどうかは不明である。理論的には、ロシア軍の作戦レベルの部隊ローテーションによって、ロシア攻撃軍の戦力低下は緩和される。この戦力低下は、時間経過とともにロシア軍の攻勢遂行を限界に達しさせる要因になっていた。ウクライナにおけるロシア軍攻勢の攻勢限界に関して、それ以外の要因も以前から複数存在しているが、投入可能な兵力及び戦闘力を有する部隊にかかる制約が、多くの場合、主たる要因になっていた。ロシア軍はウクライナにおいて、歩兵主体の強襲攻撃を主に行っており、その任を担う突撃集団には、多数の装備もしくは高水準の訓練が必ずしも必要とはされない。ロシアの戦力造成組織は、ウクライナにおける損失を、低練度で比較的戦闘能力の低い兵員で埋め合わせている模様で、ロシア軍統帥部は消耗度の高い正面突撃攻撃を定期的に遂行するには、その程度の兵員で十分だとみなしている。この種の攻撃は2023年10月上旬以降、ウクライナにおいて、ごく小さな戦果以上のものをロシアにもたらしておらず、戦術的戦果を作戦レベルの大きな結果に変えていくために、ロシア軍がこの攻撃方法をこれからもずっと続けていく可能性は低い。ウクライナでロシア軍が作戦レベルの攻勢を成功させるために、ロシア軍統帥部は大規模な攻勢作戦向けの比較的戦闘能力が高く、装備が充実した各種部隊を投入する必要が生じるだろう。そして、上述のロシア軍による作戦レベルでの部隊ローテーションによる戦力補充が、大規模攻勢向け部隊の戦闘能力を十分、維持できるようになるのかどうか、それは分からない。そのため、部隊ローテーションを行っているにも関わらず、ウクライナにおける全体的なロシア側の軍事力が、時とともに低下していく可能性は依然として存在しており、同時期に複数の大規模攻勢作戦を持続的に遂行するのに必要なロシア軍の能力を妨げることになる。
ロシア軍統帥部がウクライナでの攻勢努力を強化する決心をするならば、新たな戦力を造成する以上の損失を、ロシア軍が被る可能性もあり、その場合、戦力低下した各種部隊を補充するために使うことができるマンパワーは制約される。ロシア軍が攻勢への取り組みを強めていけば、前線にさらに多くの部隊や装備が必要になり、戦力が低下した部隊が休息し、回復する間に、それらの部隊が担っていた地域の責任を任せることができる部隊の投入可能な数を圧迫することになるだろう。現在のロシアの非公然動員キャンペーンは志願者からの募兵、受刑者と外国人労働者の強制動員にひどく依存しているが、この兵力募集活動が、攻勢努力を強化する期間の部隊ローテーションの実施に必要な増加兵力を、ロシア軍に提供できるかどうかは不明である。
参考記事