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「イライラと切なさと心細さと」

そこそこの良いお年頃を迎えると体のあちらこちらに異変が現れる。

「こんなはずじゃなかったやん」

日々そんなことの繰り返しである。時の流れは残酷で今までとは違った意味での自分との戦いが始まる。

今、自分が何をしていたのかを突然忘れて呆然と立ち尽くすこと多々あり。人の名前が覚えられない。

「人類みな鈴木になったらこれ以上苗字を覚える必要などなくなる」と考えたりする。

階段を上がる時に足が上がらずに躓く。少しの運動で過去一番の筋肉痛をはるかに超越した、まるで鉄の鎧を見に纏ったかのように体が重くなる。

「この体は誰のものだ」

と恨めしくなるほど言うことを聞かないわがままなボディ。全身全霊で反抗的な態度を取り、困り果てて悲鳴をあげる我が心と体。

「なんとバラエティに富んだ日々なのだろうか」

体の変化は緩やかと思いきや突然目の前に現実を突きつけてくるのだ。

今朝、地下鉄に乗っていると隣で老眼人生の定番「距離焦点合わせ」に苦慮する男性が座っていた。

「わかるよ、その気持ちとあなたの行動が」

男性の行動が気になって彼の行動を横目でチラ見していると、スマホとの距離縮めたり、広げたりしていた。その姿はまるで「餅すすり」をしているかのように見えた。餅すすりとは米どころ佐賀県の風習で独特な餅の食べ方である。日本っていいなと思った。

「至近距離が見えない」

その悲劇は僕にも突然牙を剥いたのである。

ある日のこと。車に乗っている時に、家内に行き先の地図を見せられた時に発覚した。

「ここに行ってほしいねん」

チラシのようなものの裏面に書かれた地図が全く見えないのである。家内に地図を突きつけられたというよりも「老眼確定」を宣告されたような気持ちであった。かなり面倒なことでわずらしいのだか、それ以来近視メガネと老眼鏡を併用して日常を乗り切る日々を送っている。今ではすっかり割り切ってこう考えているようになった。

「これぞ本物の二刀流だな」

「イライラと切なさと心細さと」

大谷翔平と篠原涼子の顔が僕の頭の中をよぎる。

〜パンくずよりも小さな事をカタルヒト〜

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