エンジョイ、ジジイ化
「SHIT(くそっ)!」
「大丈夫?」
上裸でスクランブルエッグを作っていた夫がやけどをした。
危ないと止めたが「カリフォルニアスタイルなんだ」と言われ、じゃあいいかと許してしまった私がわるい。
夫はへそ毛をかきわけ、心配そうにまじまじとお腹をみている。
その姿を見ていると、ほんとうにこの人はイラク戦争にいった米兵なのか? と思ってしまう。
わかっている。疑うのは失礼だと。
だが、「爆弾がドッカンドッカンしているなかで寝ていた」という男が、ほんのり赤くなったレベルのおなかを心配してのぞきこむ姿のギャップがすごい。
いやお前、爆弾の音きにしないのにそんな小さいやけど気にするんか? と。
そこは「これくらい屁でもないぜ」と、あつあつのスクランブルエッグを手でつかんで皿に盛るワイルドさがほしい。
と思っていたら、やけどのショックはどこへやら。
関心はすでにおなかに生えた1本の白毛へうつり、
「オーマイガー! ジジイになってる!」
と騒いでいるではないか。
どうやら「撃たれてもすぐ次へ行かねばならない」兵士時代の切り替えの早さは顕在のようだ。
さて。
タレントのしょこたんは誕生日はレベルアップ、年齢はレベルの値、と言っていたが、夫も同じ考え方である。
ハゲようが、白髪が増えようが、眉間のシワが深くなろうが、夫にとってそれらはすべて「劣化」ではなくネクストステージへの進出を意味する。
つまり生え際は後退しても前進なのだ。
たしかに言われてみれば、年をとることは失うばかりではない。逆に年をとることで使えるようになる特権もある。
たとえばジジイなら、上半身はだかで散歩したり、どうどうと道路に痰を吐いたり。
これらはすべて「ジジイだからしょうがない」となることである。
そして夫は、そんなジジイの特権が使える日を楽しみにしている(笑)。
わたしは「発想の転換」じょうずな夫が大好きだ。じっさい、その考えに何度も救われてきた。
妊娠線だらけのおなかを見て落ち込んでいた私に、かけてくれた言葉は一生忘れない。
「3人のキュートな子どもを産んでくれてありがとう。この線はすみれが頑張った証だよ! クール!(かっこいい)」
俵万智はサラダだったけど、わたしには「妊娠線記念日」ができた瞬間だった。
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もうすぐ夫の41歳の誕生日。
ネクストステージではどんな活躍をみせてくれるのか、とても楽しみである。