組織の迅速な意思決定のためのピープルアナリティクスと今後の展望~Daniel West & Davide Green対談~ -前編
こんにちは。パナリットジャパン編集部の沼田です。私は国際基督教大学教養学部の三年生で、パナリットジャパンにてデジタルマーケティングインターンをしております。日本支社のサイトや記事といったマーケティング活動に従事しております。今回はある対談についてまとめさせていただきました。
組織が素早く意思決定を行い、実行に移せるようにするにはどうしたらいいのでしょうか?その答えのひとつが「ピープルアナリティクス」です。ピープルアナリティクスは「正しい意思決定のための処方箋」です。
このノートでは、Panalyt CEOであるDaniel Westとピープルアナリティクスの世界的権威であるDavid Greenの対談を踏まえて、ピープルアナリティクスの実践に際する重要な論点や示唆を紹介します。企業の組織変革を行う上で非常に参考になると思いますので是非ご一読ください。
※このノートは前半となります。
このノートを通してわかること
このノートを通して…
①実用的な人材分析の必要性
②経営における人事とデータの関係性と重要性
③これから必要な「データの民主化」と関連する論点
を知ることができます。
実用的な人材分析にはリアルタイム性と再現性が必要
ピープルアナリティクスは、組織の意思決定の迅速化に役立つツールです。
ピープルアナリティクスが実用的であることは非常に重要です。集めたデータが少なすぎて単純な分析になることは実用的とは言えません。また分析に大量のデータと多くのデータサイエンティストを必要とする分析も、コストがかさんで一回きりとなってしまえば再現性はなく、実用的とは言い難いでしょう。
言い換えれば、高頻度かつリアルタイムに組織の状態を可視化できることこそが実用的な人材分析であり、現在の企業に必要とされるものです。
「高頻度かつリアルタイムに状態を可視化できるような実用的な分析」は、人材以外の領域ではかなり進展してきました。例えばUberのマネージャーは、財務データ、売上データ、顧客データにアクセスすることができます。マネージャーのデスクトップからは、ドライバーやライダーの行動をリアルタイムに見ることができました。マネージャーは、いつ割引を適用し、いつドライバーにインセンティブを与えるべきかを、データに基づいて決めることができました。しかし多くの企業においては、財務やマーケティングと同レベルでは、組織の意思決定をリアルタイムにできていないのが実情です。
人材領域に話を戻すと、実践的ではない例として、多くの企業で年に一度行われている「新入社員に対するオンボーディング調査」が挙げられます。この調査は多くの場合年末に行われます。オンボーディング中の新入社員の意見はリアルタイムに反映されるわけではなく、オンボーディングが終わる年末頃に集計され、その更に数か月後に現場に対してフィードバックされています。活動が行われていた時期とフィードバック時期が大きく離れた調査は、本質的に役に立ちません。
このように、組織の迅速な意思決定には、リアルタイム性と再現性が必要であり、それを後押しする手段のひとつが「ピープルアナリティクス」です。
経営における人事とデータの関係性と重要性
会社の財政状況が財務諸表というデータで見れるように、組織の状態も本来データで見ることができます。例えば「離職率」についてですが、その人材が慰留対象(企業にとって辞められてしまうと困る人材)か否かという視点でデータを持つことは非常に重要です。また、優秀な社員の発掘や退職傾向をコミュニケーションパターンから見ることもできます。
実例として、アップルでは人事データと財務データを組み合わせることによりベテラン社員の一斉退職を防ぐことに成功しています。この話は弊社トランと小川がYoutube *1で取り上げています。
人の行動や言動といったデータを理解するには、ビジネス部門と人事部門の間にある壁を乗り越えなくてはいけません。その壁とは、両者のデータの捉え方の違いです。
例えば財務諸表であれば、多くのマネージャーが理解できるでしょう。財務諸表はビジネスのゴールと直結しているため、マネージャーの就任要件として財務諸表を読めるようになることが求められるからです。一方で、人事データを読めるマネージャーは少ないのが現状です。男女の給与格差や人員削減数といった人事データを理解しても、収益には直結しないと思い込まれているからです。実際に出てくる感想は、「なんとなく多い」や「思ったより少ない」という程度です。
人事データから良し悪しをなんとなく判断することはできても、同業界の水準と比較することや、新たな論点や仮説に進化させて議論や意思決定を行うことは、残念ながら多くのマネージャーには非常に難しく感じられるようです。逆に人事データを財務データと同じように理解することができれば、会社が真に解くべき課題に対してより良い意思決定を実行できるようになります。
ウェストがティム・クック(アップルのCEO)の下で働いていた2010年代前半の頃は、どのマネージャーも離職率や給与格差や性別の多様性の歪みなど、自分が管理しているはずの人材の情報について何も知りませんでした。ティムがから人材関連の質問が来た時は、いつもビクビクして恐れていたものです。しかし人事部・HRBP・マネージャーの間での共通言語として人事データを可視化してからは、会社の現状把握や意思決定のスピードが、段違いに改善されました。
「データの民主化」の重要性と議論されるべき点
先述したデータを、マネージャーや経営層だけでなく従業員全員にも開放することは非常に重要です。なぜなら「データの民主化」は、現場の社員の迅速かつより良い意思決定に寄与するからです。また会社全体でデータを共有することにより、課題を認識・共有し、示唆を得て、実行に落とし込むまでのスピードと質をあげることもできます。
データの民主化における論点として「どの役職・職種まで何のデータを公開するかや、どこまでデータを収集するか」があります。特に給与・職務等級・評価の情報はセンシティブなので、現場のマネジャーや部長格に渡す際も、当人のレポートライン(配下)のデータ以外は見えないようにするなど、人事部がリーダーシップを発揮して管理と活用の両面で促進していくことが求められます。
この論点が解消された時には、データプライバシーに配慮しながらも、人事・経営・現場すべてのステークホルダーがデータに基づいて同じ土俵で議論や意思決定ができるようになるため、従業員と組織の信頼関係は盤石なものになるでしょう。
まとめ
まとめると、
①人事データ分析においては、高頻度かつリアルタイムに状態を可視化できることがまず重要です。
②人事とデータには深い関係があります。上手く使えば、一斉退職を防いだり、マネージャーの管理を容易にすることができ、経営の「ヒト」分野で大きな成功を収めることもできます。
③データを経営層だけでなく従業員全員にも公開することは、迅速な意思決定のためにも今後必要とされます。しかし、データプライバシー等の問題も孕むため、人事はどこまでを公開し、どこからを非公開にするかを、従業員や現場と相談して決めていく必要があります。
後半では、実際にピープルアナリティクスのメリットと考えるべき点について書いていきます。
※今回の対談のリンクはこちらになります。
*1 戸村光・シリコンバレー術
「シリコンバレー流組織作り・チームの非効率を見える化する驚きの戦術とは。」2020/8/13公開
パナリットサイト:https://panalyt.jp/
FaceBook:https://www.facebook.com/panalyt.jp/
Twitter:https://twitter.com/panalyt_japan