『炎三態』 / 津田友子 インタビュー
ー前回の個展では『Bones』*を中心とした試みでしたが、今回はどのようなアプローチとなりますか?
今回、新作の楽の茶盌は「あざとい」という言葉を意識して作りました。古い茶盌や昔から受け継がれてきた道具にはどこか「あざとさ」があるように思うんですね。例えば欠けた部分に金継ぎをされることで、それが見どころになったり、持っていた人が大事に大事にすることで風合いが育っていったり。古典になっている道具にはそういうあざとさが最初から備わっていたものもあるかもしれないし、大事にされることでそうなったものもあるのかもしれない。
長い時間の中で人の手によって生まれた変化と、焼くときに生まれる自然な状態とが混ざり合って「あざとい」魅力になっている。
実際にどんなことをして制作した、ということはここでは言わないんですけれども、人工物と天然の素材を混ぜ合わせて作るもの、そういういろんな要素を融合して、楽の茶盌を作るのもいいんじゃないか、と思って。
そういうことを、「あざとい」という言葉を考えて制作した茶盌が新作として揃います。
ー『蜘蛛の糸』や『雨滴聲』などの高火度焼成のシリーズはいかがでしょう?
これまで、『蜘蛛の糸』シリーズでは融点の低い釉薬を使って作品に禅語をしたため、言葉を溶かして流し問答しながら制作してきました。そんな風に言葉の奥深さも一緒に追求していたんです。
最近は自分の中で、「無駄こそ美しい」という言葉がずっと出てたんですよ。中学生になった自分の子どもに、「遠回りをすることや無駄と思えることをしなさい、絶対必要なことだけをするんじゃなくて、自分が興味のあることをとことん全力でやりなさい、失敗することも必要だし、遠回りすることも、それもあなたの人生に取ってとても大切なことだからやりなさい」という話をしていたんです。
なんて言ってるうちに、自分の仕事に当てはめてみて行き着いたところが、「やっぱり無駄が必要」ということなんです。私たちが陶芸をする時に生産性だけを、歩留まりの良さとか取れる率ばかり考えているとそれは商品なんですよ。美術や芸術となると「無駄」が必要で、無駄こそが芸術なんです。
そこで私の中での無駄とはどんなものなんだろう?と思ったんですね。
例えば、一つの作品も回数を焼けば焼くだけ、釉薬が垂れすぎたり、形が歪んだりして作品として取れなくなるリスクが上がる。リスクが上がるけれども、そうすることでその奥に何か今まで見たことのないものが見えるかもしれない。そんな風に自分なりの研究心が高まって、あえてやったんです。釉薬は自分で作っていますけれども、その自分が作った釉薬は自分にとっては子どもなわけです。じゃあ、その子の性格の幅がどれだけあるかというと、自分が勝手にこうだろう、と思い込んでるようでは、今見えている以上のものが見えない。可能性を狭めてしまう。だから「こんなことをしちゃ絶対だめだろう」ということをしなければ、この子の本当の幅が見えないんじゃないかと考えて、もっと無駄なことをしてみようと思ったんです。
ー可愛い子に旅をさせたわけですね。
そうなんです。するとその子の性格がいっぱい出てきたんです。今まで見たことのない世界がいっぱい見えてきたんです。初めて見られたんです。そう思うとやはり、自分が産んだものに対して決めつけは絶対にいけない。そして生産性ではなく、無駄こそ芸術だ、と。
ー成績だけ見てたら可能性を潰すことになりかねないですね。
思い込みが一番ダメで可能性は無限だ、と子どもに言うからには自分でも何かを試さなければいけない。そう思って今回は「無駄」と「あざとさ」という、この二つの言葉をテーマとして自分に投げかけながらの制作でした。
ー 楽焼では「あざとさ」を、高火度の方では「無駄」を意識されてる。その二つは繋がるお話ですね。
このふたつをテーマにして考えて実行した時に、結果として未来が見えた気がします。
ーそこから『Bones』に繋がる世界観もありますね。
そうですね。それがあるからこその『Bones』。これに関してはまだまだいろんな可能性がありますね。山田尚俊さんの花いけに挑むために、今回も『Bones』は少し出す予定です。このシリーズにお花をいけて頂きたくて。尚俊さんにいけて頂くことでさらに新しい物語に繋がっていくと思います。だから花器を作ろうと思わずに作ります。私なりの死の世界が『Bones』ですが、ここまでの話は生の世界を、今生きている世界でどう生きるべきか、と言う話をしました。
『Bones』に関しては私たちが生きた後のまだ見ぬ世界のことです。生きた痕跡、影、そういう形跡、先に繋がる何か。そこには自分の課題があります。
ー今回の三人展で意識されたことはありますか?
あえて意識しないようにしています。
でも谷本洋さんは昔から存じあげて憧れている方でもあります。作陶だけでなく生き方全てでブレない方、陶芸の世界だけに捉われない人生の姿が素晴らしいと感じています。寺田さんのユーモアを兼ね備えた貪欲な探究心にも感銘を受けています。お二人の作陶に対する熱い情熱に刺激を頂けるこの機会を、大変有り難く思います。
その中で尚俊さんや小堀さん、そして皆様がどのように作品を扱ってくださるか楽しみにしています。
*「Bones」
2023年発表の作品シリーズ。
すでに欠けや割れが発生し破損していたり、今後発表されることのない過去作品を素体とし、粘土を染み込ませた布を纏わせ型取りを行う。型となった作品を破壊して取り外した後に焼成を行うことで生まれる作品。
過去作の遺骨であり、影のようでありつつ、その後の世界として新たな姿を提示する。