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カリガ
2018年12月30日 10:33
帰りの新幹線の中で千鶴さんが大事に抱えていた本を私に見せてくれた。「この本はその昔、龍神が干ばつで苦しむ人間の為に伝えた雨乞いの方法を書き写した本です」「龍神ですか」「龍は水を司る水神でもありますから」千鶴さんは慎重にページをめくった。ページには墨で何事かがびっしりと書かれていて私にはまるで分らなかったが、所々絵もありそれを見る限り確かに何か儀式を説明しているのがわかった。「千
2018年12月22日 00:20
男が去って売上金を持ったまま今起きた出来事を整理できず呆然としていると千鶴さんが戻って来た。「そろそろ終わりですね。店じまいの準備をしましょうか」「あ、あの、千鶴さん」「どうかしましたか?」「あの本、売れました」千鶴さんの口元が緩んだ。しかし、彼女はなるべく感情を表に出さないように努めていた。「そうですか。お疲れ様でした」私は千鶴さんに売上金を渡した。彼女はお金を受け取
2018年12月8日 02:04
古本市も終了の時間が迫って来た。本は当たり前だが売れていない。私はガックリと肩を落とし、またこの重い本を持って帰らなければならないと思うとうんざりした。「これ、見てもいいですか?」すらりと背が高い若い男性が本を指差し私に尋ねた。「も、もちろん」突然の申し出に私の声が上ずった。男性はニコリと微笑み、あの重い石の本を苦も無くヒョイと持ち上げページをペラペラとめくりだした。嘘だろ。この男性は余程