石の本。そして、雨の本。4

古本市も終了の時間が迫って来た。本は当たり前だが売れていない。私はガックリと肩を落とし、またこの重い本を持って帰らなければならないと思うとうんざりした。

「これ、見てもいいですか?」

すらりと背が高い若い男性が本を指差し私に尋ねた。「も、もちろん」突然の申し出に私の声が上ずった。男性はニコリと微笑み、あの重い石の本を苦も無くヒョイと持ち上げページをペラペラとめくりだした。嘘だろ。この男性は余程の力持ちなのだろうか。男性はページをめくりながら「ほぉ」とか「まさかそんな」と呟いていた。

「あの、すいません。この本はあなたが所有していたのですか?」

「いえ、私はただの店番で、店主は席をはずしてまして…呼んできましょうか?」

私が腰を上げ千鶴さんを呼んでこようとすると男性は「いやっいや大丈夫です」と断り「これ、買います」と言った。

「えっ、いいんですか?」

「もちろん」

男性はリュックから封筒を取り出しお金を数えて封筒ごと私に渡した。私は封筒からお金を取り出し確認した。確かに提示した金額通りだ。

「確かにいただきました。ありがとうございます」

「あ、そうだ。僕、金沢で店をやってまして。よかったら…これ店主さんに渡してください」

そう言うと男性は店の名刺を私に差し出した。名刺には「日進堂」と書かれてある。

「たぶん、店主さんは興味を持ってくれると思います。今日はありがとうございました。いい買い物ができました」

男性はお辞儀をしてそそくさと立ち去った。私は名刺を持ったまま去っていく男性の後ろ姿を呆然と眺めていた。

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