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カリガ
2016年6月3日 09:28
〈64ページ「雨蛙」〉 彼女が「こんにちは」と挨拶したから僕も「こんにちは」と挨拶した。 彼女はもう夕暮れなのに日傘を差して遊歩道から見える田んぼを眺めていた。田んぼに水が入ると風が冷たくなる。冷たい風に乗って今年も雨蛙が賑やかに歌い始める。彼女はずっとその歌に耳を傾けていた。僕が彼女に話しかけようとしても言葉は雨蛙の歌にかき消され彼女の耳には届かなかった。仕方がないので僕も彼女の隣で田ん
2016年6月12日 21:58
〈576ページ「フクロウ」〉僕の先生はフクロウ。比喩ではなく本物のフクロウ。日中は学校へ行かず部屋で息をひそめて生きているけど夜になると外に出る。僕の住んでいる所は田舎だから夜になると明かりも無く真っ暗で闇夜に浮かぶ星空と月明かりが光源だ。月明かりに照らされた畦道を歩くとどこからともなくホーホーと鳴く声が聞こえる。畦道の向こう側はフクロウの住む森なのだ。僕はその声に導かれるように森へ向かう
2016年6月24日 10:38
〈520ページ 「猫」〉 この頃巷で猫背の人間が猫になるという奇病が流行っているらしい。猫鑑定士なる人まで出現し、ヒヨコのオスメスを見分ける要領で猫と人間を見分けてくれると聞いた。私は特にこの病が流行しているというある町を取材で訪れた。「のんびり暮らせる猫の人生(この場合はニャン生か)も悪くない気もするけどな」と猫になった自分を夢想しながら私は町医者に話を聞いた。「君、これから先ずっとキャ