悩み×本=ささやかな願い
理由は分からないが、わたしはよく悩みを相談される。相手は同僚、友人、後輩、先輩、上司等、様々な立場の方だ。内容もちょっとした愚痴から、生きる上でなにを選ぶべきか、というものまで様々である。
わたしは日々「相談に乗るぞ」と意気込んでいるわけではない。しかし、ひとたび話を聞けば、必ず放っておけなくなる。その人の毎日が心穏やかに充実する方法を一緒に探したいと強く思ってしまうのだ。
そうは言っても、わたしの知識は浅く、なにか思いついてもうまく言葉にできないことが多い。だから、相談者の負担にならないように細心の注意を払いつつ、悩み解決のヒントになりそうな“本”を紹介するようになった。
そのきっかけとなったエピソードを今回は書きたい。
4~5年前の話だ。学生時代の友人Aと数年ぶりにお茶をした。
久しぶりに会うと、彼女は付き合っている彼氏からのプロポーズを受けるべきか否か悩んでいるという。
理由ははっきりしなかったが、話の端々に「彼が○○と言っていたから、自分も○○だと思う」という言葉があり、彼氏からの影響を強く受けている印象を持った。服装も彼の好みのものを身に着けているそうだ。
学生時代のAは、物事に対して自分の考えを強く持っており、どのような時でもマイペースを崩さなかったので、正直驚いた。自分を軸に生きていた彼女が、数年でこんなにも他人を軸に生きるようになるものなのか、と。
それが恋愛というもの、といえばそのような気もする。しかし話をよく聞くと、「自分は世間一般から見てこのくらいの価値しかないから、彼と結婚するのが妥当だ」と思っているようであった。
そのようなAと、ある小説の主人公の姿が重なった。
その小説は『サラバ!』西加奈子著である。詳しい内容は割愛するが、主人公の歩(あゆむ)が生まれてから37歳になるまでを描く作品だ。周囲の状況や価値観に合わせ、常に受け身でいざるを得なかった歩が、他の誰かと比べるのではなく自分だけが信じるものを見つけていく。
作品には、Aの悩み解決に直接結びつくことは書かれていない。しかし主人公の言動・行動が、内省する材料として合っているのではないかと感じ、おこがましいが推したのだった。
Aは小説を読んでくれた。そして結局、彼氏からのプロポーズを受けなかった。
後日、主人公の姉のセリフ「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」がとても印象に残ったと話してくれた。
紹介した小説が、選択の決定打となったのかは分からない。しかし、本を読み、自分の考えを確認する行為は、答えを選ぶ一助を担ったのではないだろうかと勝手ながら感じたのだった。
これを機に、悩み相談を受けた際は「相談者の想いや考えを、彼ら自身が改めて気づく材料やきっかけになったらいいな」という願いをこめて、本を紹介するようになった。
この行為がすべての悩み解決に効果的だとはもちろん思っていないが、今後も、相談してくれた方を励まし勇気づけてくれそうな本を、ささやかな願いと共に選んでいきたい。
<わたしについて>
菅田詩乃(すがたしの) 34歳。既婚。夫婦ふたり生活。幼い頃から本が好き。わたし自身、悩み解決のために本を読むことが多い。思春期~学生時代は人間関係に悩み小説を、社会人になってからは、仕事で必要なスキルに悩み実用書や自己啓発本を読み漁る。現在、悩みは複雑化し、手を出すジャンルはより多岐にわたっている。
幼い頃からの大きな目標であった司書となり働いたが、悩んだ末に退職。余生が50年ほどあり(多分)軽く絶望。現在、心身の平和を求めて、ワーク&ライフに関する様々な方法を日々実験中。
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