読書感想文(44)橋本紡『流れ星が消えないうちに』

はじめに

先日、中河与一の『天の夕顔』を読んで、江國香織の『東京タワー』を読みたいなーと思いました。そして『東京タワー』を探している時にこの本を見つけて、「あ、久しぶりに読みたい」と思ったのが今回読んだきっかけです。

初めて読んだのは高校生の頃、クラスメイトに「この本是非読んでほしい」と言われたのがきっかけでした。これは大学生が主人公ですが、きゅんきゅん系ではない恋愛小説です。大人の恋愛小説という感じではありませんが、大人と子供の間の恋愛小説、という感じです。大学生っていうのはそういう存在なのかもしれません。

今回の感想文は若干のネタバレを含みます。

感想

この本の感想は難しいです。なんというか、上手く言葉にできません。高校生の頃に読んだ時も上手く感想を言えなくて、せっかく勧めてくれたのに申し訳ないなーと思いました。決して面白くないというわけでなく(もしそうなら二回目は読んでいません)、なんだろう、まだ読むには私が未熟過ぎるのかもしれません。

この本を読んでいて泣きそうになった場面が二つあります。それはどちらも「流れ星マシン」が流れ星を流すシーンです。文章を読みながら頭で情景を思い描くと、その美しさに涙が出そうになりました。この感覚は何かに似ているなーと思ったのですが、『和泉式部日記』の「有明の月の手習文」でした。高校三年生の夏、私はその文章の美しさに感動し、やがて国文学科に進学する事を決めたのでした。それはともかく、なぜこんなに泣きそうになるのだろうと考えてみると、多分綺麗な景色を好きな人に見せたいからだなーと思いました。『流れ星が消えないうちに』も『和泉式部日記』も、明確に相手がいて、この美しさを相手に伝えたいという思いがあります。景色そのものにも心は震えるのですが、泣きそうになるのは恐らく自分の人生とのギャップなのかなぁと思いました。

私は巧くんの立場に共感しながら読む場合が多かったように感じます。加地くんが死んでいなかったら自分は二人の幸せを見守るだけで満足だった、と。この考え方がやっぱり基本的に良いなぁと思います。「自分が幸せにしたい」というのはやっぱりエゴで、だったらせめて相手を幸せにできる自分でありたいと思います。巧くんの場合、自分が幸せにしなきゃいけない立場になったから奈緒子と付き合っているわけです。間に加地くんがいるという変な関係ではありますが、そういうのもいいんじゃないかと思いました。ただしこれも自分の人生と比べると結構厳しいものがあるなーと思います。あんまりうじうじと書くのも情けないので控えておきますが。

「解説」に興味深い考え方があったので紹介します。

橋本さんの作品に恋愛の要素がきわだつのは、宮台真司さんの言葉を借りれば「終わりなき日常」の中、一つの終わりと始まりをなによりもビビッドに感じさせるものは恋愛にほかならないから、ではないのか。

宮台真司さんの文章を読んでいないので詳しくはわかりませんが、「一つの終わりと始まりをなによりもビビッドに感じさせるものは恋愛にほかならない」というのはものすごくしっくりきました。失恋の一番の薬は新しい恋、なんて言います。失恋直後は人生が止まっているように感じる人ってそこそこいるんじゃないかなーと思うのですがどうでしょうか。もっと極端に言えば、恋をしていない時は人生が止まっているような感じがします。それは前の恋が終わって、次の恋が始まる前だからです。まあこんな話をし始めると長〜くなってしまうので今回はこれくらいで終わります。

おわりに

最近恋愛小説をいくつか読んで、あーもっと読みたいなーと思いました。でもその一方、読みたくないなーという気持ちもあります。というのも、読んでいるとやっぱり色々と考えてしまうからです。少し前に恋愛についてほとんど考えない期間があったのですが、その時の自分の方が恋愛について色々考えている自分よりもいいなーと思いました(小学生の頃からずっと考え続けてきたので超レア期間です)。最近はその流れでそこそこ活動的に過ごしていますが、これ以上恋愛小説を読んであれこれ考えていたら何かが止まってしまう気がしているのです。恋愛とは無関係に活動的に過ごすことができているのは、恋愛という概念に対する依存を脱することができたということなのでものすごい成長です。恋愛という概念に対する依存というのは「恋の呪縛」の一種と考えられますが、「あれ?呪縛の解き方見つけちゃった?」ということに今書きながら気づいて驚いています。この方向で突き詰めていけば人生観を根本的に覆せるかもしれません。ただしこのように大きな価値観を覆す力を持っているのは今のところ恋しか知らないので、まだまだ道のりは長いです。

というわけで「おわりに」まで長々と結構恥ずかしい事を書いている気がしますが、読書感想文はあんまり知人に読まれていないはずなので大丈夫です。

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