読書感想文(54)江國香織『つめたいよるに』(2)「温かなお皿」

はじめに

これは江國香織『つめたいよるに』(新潮文庫)の後編です。短編集で全21作品あるので、前半「つめたいよるに」と後半「温かなお皿」に分けています。この二つは元々別の本だったのが文庫で一つになったようです。

朱塗りの三段重

良い夫婦だなーと思いながら読んでいって最後に登場人物たちと一緒に「え……!」となって終わりました。いや、なんというか、笑ってしまいました。なんだろう、エッセイ的な面白さ?いや、それは違うか。んー、オチが面白かったって感じかなぁ。そして今ぱらぱらめくってみると、確かにオチの準備がされている。シンプルに面白い話でした。

あと作中に「5分前に化粧直しをしたばかりの顔」という表現が出てきたのですが、私にはこれがどういうことはよくわかりませんでした。張り切ってるってことなんでしょうか。

ラプンツェルたち

私はラプンツェルの映画を観たことがありません。塔の上に囚われている姫というイメージはあります。調べてみるとグリム童話が元ネタなんですね、知りませんでした。

さて、このお話はちょっとついていくのがしんどかったです。会話が噛み合わなかったのが難しく感じました。女子会のノリってこんな感じなのかなぁ。失恋話に対して様子を伺うのは、ちょっと面白かったです。あと主人公が自分の彼氏の笑顔が自分に対してと他の人に対してで微妙に違う事を発見して「うふふと思う」のは、読んでいてうふふと思いました。

子供たちの晩餐

ああ、良い!やっぱり自分はまだ子どもだなと思いました笑。でも将来子どもがこんな事をしているのがわかったら、叱らなくちゃいけないのかなぁと思いました。私も親に隠れて子どもの頃に悪い事をしたと思いますが、バレていたりバレていなかったりしたと思います。何を叱るべきで何を笑って済ますべきで何を見て見ぬふりをするべかなのか、私にはまだ判断基準がありません。子育てというともう少し遠い未来に思えますが、教員になるならもうすぐなんですよね。子どもの冒険心を大事にしたい一方で、「敵」にバレたらダメだという事を教えるために見て見ぬふりはしないべきなのでしょうか。はー、でも敵にならなくちゃいけないのか。できれば共犯者になりたいのだけれど。

晴れた空の下で

これまた不思議な温かい、そして切ない物語でした。もう一度読み返すと、改めて腑に落ちます。この老夫婦の関係は素敵だなぁと思いました。私はまだ若いので高齢になった自分を上手く想像できませんが、こんな風にゆっくり暮らせたらいいなと思います。あとは、長生きできたらいいな、とも思いました。

さくらんぼパイ

この話、子どもに読んでほしいなぁと思いました。大人だって、苦労してるんだよって。そしてこれは夫婦間でもお互いに意識しておきたい事だなぁと思いました。主人公は娘のことを思って怒りを感じますが、でも元妻の静枝も苦しんでいることがわかって「許そう」と思います。辛い時、善悪とかはひとまず置いておいて支え合える関係っていいなぁと思います。

藤島さんの来る日

まず一つ驚いたのが、冒頭の二行です。

きょうは藤島さんが来ている。それは朝からわかっていた。藤島さんが来る日は、千春ちゃんがそわそわしているから。

ここまで読んで、私は「あれ?これはペットの犬かな?」と思いました。答えは三行後ろにあって猫だったのですが、これだけでそれがわかるって、文章ってすごいなと思いました。ペット視点の物語でパッと思いつくのは越谷オサム「ゴンとナナ」ですが、それに似た雰囲気を感じたから気づいたのだと思います。

そして、この作品は子どもに読ませられないなぁと思いました笑。この本、全体的に小学生でも読めそうな感じがしていましたが、この作品はちょっと……。中学生なら大丈夫なのかなぁ、でも小学生には読ませたくないなぁという感じです。

あと主人公、というか猫の飼い主の心情はちょっと考えさせられました。んー、少なくとも現実にこんな人がいたら私には手に負えない気がします。女子ってコワーイの一端を見た気がします。でもやっぱり改めて確認すると人間らしいところもあって、うーん、乙女心は複雑ということなのかなぁと思いました。

緑色のギンガムクロス

これまた、なんというか、その、静かだけれど、主人公の心はもやもやとしていて、どんよりとしているはずなのに軽やかな感じでした。自分と姉は違うと言いつつ、この姉の生活に少し心地よさを感じ始めているように思われるところもあって、今まで見ないふりをしてきた所にふっと気付いたような感じがしました。

南ヶ原団地A号棟

これは子どもに読んでほしいなぁと思いました。「○○の家はいいなぁ」と言って「うちはうち、よそはよそ」と言われたことが私もあります。これ、難しい問題だよなぁと子どもながらに思っていました。今もそうです。子どもが「こうしたらいいんじゃないか」という意見を言うのは素晴らしいことです。でも全部子どもの思い通りにしてしまうと、家族以外と接する時に困らないかなぁと心配になります。そうなるとやっぱり自分も親でありながら人間らしくなくちゃいけないのだろうなぁと思います。或いは基準をきちんと決めることができれば、そのうち子どももどうすれば意見が通るのか学べるのではないかと思います。家庭内の会話で自然とクリティカルシンキングを身につけられるなら子どもにとってプラスなんじゃないかなぁと思う一方、ちょっと真面目過ぎるような気もします。もっと気楽に生きていいんじゃないでしょうか。

ねぎを刻む

孤独というテーマは自分にとって身近なものです。この作品の孤独は今の自分と少し違うけれど、もうすぐこんな風になるのかな、と思いました。人はやっぱり孤独なんだろうか。周りの人たちは平気なふりをしているだけなのか、孤独でも平気なのか。孤独に苦しみながらも、きちんと生活している主人公はすごい。

コスモスの咲く庭

おっと、これは……。うーん、こういう寂しさもいつか感じることになるんだろうなぁと思いました。こういう所につけこまれると不倫に発展したりするんでしょうか。一人の時間が欲しかったのに、いざ一人になると寂しさを感じて、やっと一人に慣れてきたところで一人の時間は終わります。将来はこういう隠し事も、できればしたくないなぁと思いました。

冬の日

くぅ〜〜って感じでした。読みながらすぐに『東京タワー』の詩史さんを思い出しました。すると同じように夫の事を名字で呼びます。これって普通のことなのでしょうか。でも『東京タワー』では透が内心で敢えてその事を取り上げていたと思います。自分も浅野なのに、的な。このような人になりたいのかと言われると、ちょっと違う気がするのですが、自分には届かない遥か高みに存在する人としての憧れはなんとなくあります。でもやっぱりこの人、衿子さんは怒ってるのかなぁ。ここまでコテンパンにやっつけるのは、なかなか自信が無いとできないと思います。もしかしたらそこに憧れを感じるのかもしれません。でも弱いってことも一つの長所になると私は思っています。あとはその長所を残したままで、弱さを見せないようになりたいです。

とくべつな早朝

この本の最後の作品。いい終わり方したなぁと思います。もうクリスマスは終わっちゃったけど。でもイブの深夜に電話するなんて、ちょっとずるくない?と思ってしまいました。ありそうだけど、やりたくないなぁなんて、こんな風に僻んでるからダメなんだろうなと思います。クリスマスなんてみんな同じことしてるのかなぁと思うと、今年は多分みんなと同じじゃない充実したクリスマスだったなぁと思って、もう去年になっていることに気付きました。今年はみんなと同じようなクリスマスでもいいんだけどなぁ。

おわりに

最後に解説を読んで、「好きなものがたくさん出てくる」という話が印象的でした。私は少し前に、好きなものを共有したいかどうかという点で人との関係を考えたことがあります。結局人そのものではなく、人の一面との相性に過ぎないと思ったのですが(この人とはこれを共有したい、みたいな)、それが沢山ある人とは仲良くなれるのかなぁと思いました。この論点は、逆に人として相性が良くない人と好きなものを共有したくないと思ったのがきっかけだったので、あんまり心地良い話題ではありませんでしたが、好きな人と好きなものをいっぱい共有できたらいいなぁと思いました。と書きながら、ちょっとメルヘン過ぎ?と思ったり。

今回、あまりにも作品数が多いので感想は簡潔に書く事を心がけました。それでも結構大変でした。これほど短い作品が集まった短編集は普段持ち歩いておいて、疲れた時に読むくらいでもいいなぁと思いました。


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