光も言葉も敵わない。
こころが辛く
疲弊した肉体
若い頃は
それでも
誰かの言葉が
暗闇の中の唯一の光
針の先ほどの光を
追いかけてゆけば
暗闇から抜け出せたの
叔母が云う
叔母さまは
医療従事の中でも
分刻みで
仕事をこなしていた
しかし
度重なる
事故による
知人友人の臨終に
鬱状態になっていた
まわりの方々の
激励が
悪魔の使いの言葉に
感じたと話します
頑張れないこと
知っていて
頑張れって言ってる
わらってごらん
笑えないこと知ってて
そういってる
「辛いねわかるよ」って
わかるわけない
気軽にわかったように
いわないで
そう思ったそうだ
しかし
どんなにも
抵抗して
暴言吐いて
ひとを遠ざけても
たった1人
友人とも呼べなかった
当時は知人程度のひとは
毎日のように
訪ねてきて
何も云わず
挨拶して
飲み物を差し入れたり
ただただ
自分の暴言を
ひたすら受け止め
何も悪くないのに
謝罪までしてくれた
何かをいわれた
記憶もない
外に出たらとか
何か食べたらとか
みんながいう
提案も無かった
ただただ
こんにちは
おはよう
こんばんは
挨拶と飲み物の差し入れ
どんなに断っても
居留守しても
玄関のドアノブに
飲み物がかかってた
自分が鬱病と
自覚はあった
唯一
「死なない」ことだけ
守って生きていた
文字通り
何もせず
部屋はゴミの山に
励ます人も
どんどんいなくなり
自宅に閉じこもってた
叔母はこのまま
貯金も使い果たし
孤独死してゆく
恐怖心もなく
何もできないことを
感じてはいた
頭のどこかで
気づいてたという
誰もが自分を
忘れたんじゃないかと
錯覚するころも
ずっとずっと
毎日通い続け
飲み物の差し入れする
この知人に
文句を言うため
ある日
玄関の前で待った
知人は深夜に現れた
仕事帰りだったのか
息を切らし
誰から見ても
疲れた様子だった
そして叔母をみつけ
みるみる顔が
明るくなった
いつも挨拶だけの
知人が
ほがらかに
「こんばんは!」
「今日の差し入れは
炭酸飲料ですよ」
そう言って
額に汗滲ませ
笑顔で差し出した
叔母はそれが
光のように眩しく
うとましかった
手渡された
炭酸飲料を玄関前の
地面に叩きつけ
「もうくんな」
そう叫んでしまった
翌日はさすがに
もう来ないだろうと
気になったという
しかし気づけば
玄関のドアノブに
飲み物はかけられていた
それは何年も続いた
ある日
叔母は近くのコンビニへ
食料を買いに出てた
偶然自宅へ向かう
いつもの知人の姿を
みかけた
片手で電話をしてた
やっぱり
かたてまな対応だったのか
イヤイヤきてるなら
やめればいいのに
迷惑だうざったい
そう感じて
あとをつけた
電話への
応答内容が聴こえる
「あぁそうでしたか
すみません
どうしても
大切な要件でして
スグ戻ります」
大切な要件
妙にそれが
こころに残る言葉で
嬉しかった
もう何日も
差し入れられた
飲み物袋を自宅に
取り入れてもいないので
玄関先に散らばり
またそれを管理人が集め
玄関に並んでる
それでも
毎日届く
なのに
「大切な」
知人の自分を
他者へ伝えるのに
「大切な」
そう呼んでもらってる
このひとは
親より身内より
毎日自分を
みてくれてる
見てくれてる人がいる
自分の声にならない
状況を丸ごと
受け止めてくれてる
そうおもうと
何故だか
何かが急に
大声で呼び止めてた
「こんばんは!」
「いつもありがとう」
言えた
ありがとうと言えた
理屈じゃなかった
知人はいつもと
何も変わらないように
「こんばんは!」
そう言って
飲み物を差し出した
地獄のよな
暮らしから
この日をさかいに
抜け出してゆけた
気づけば
5年たってたという
今ではすっかり
その知人と
「親友」と呼べるほど
近い存在になり
仕事もゆっくりとした
内容のものへと変更し
仕事より
生きてゆく
自分のために
社会貢献もまず
自身の健康あってこそと
休暇や友人との
交友関係を優先させてる
叔母が体験をもって
ハッキリ云う
言葉とかじゃない
こころだよ
誠意だよ
まごころだよ
わたしは
知人を尊敬してる
どんなに
辛かっただろうって
ちょっとした
知り合いを
励ますのに
五年も毎日
通い続けて
何も云うわけでもない
普通のひとには
できないわ
人間の真心
誠意を感じたの
このひとだけは
見放さず
こんな暴言も
聞いてくれる
こんな状況にも
嫌気をささず
見てくれてる
誠実な行動に
こころが動いたわ
いい恰好は
誰もがするの
好かれようと
嫌われまいと
このひとは
違ったの
ひたすら
行動ありき
ご自宅も
遠いのに
悪天候の日も
あったのに
1日も欠かさず
毎日きてくれた
これほどの
真心は他にない
そう思うの
取り繕いじゃない
誠意ある真心
誰も敵わない
何も敵わない
素晴らしいひとと
出会えたわ
すっかり
元気になった
叔母は今朝も
ヨガをしながら
ボクに話して聞かせる
人生自慢だ