ハチミツとクローバーと仕送り
高校生の頃、羽海野チカさんの「ハチミツとクローバー」にハマって、コミックを集めていた。
ハチクロみたいな出来事が自分に起こるとは思えなかったけど、大学生活への憧れを膨らませながら読んでいた。
ちょうど受験の時期だったから、4巻くらいまで買って、残りは合格してから一気に集めることにした。家族にも、「わたし、受かったらハチクロ大人買いする!」と宣言し、どうにか関東の私立大学に合格した。
さすがに大人買いは無理だったけど、わたしは宣言通りに続きをチマチマ集めることにした。
大学に入学して数ヶ月経ったある日、実家から仕送りが届いた。でっかい段ボールを、六畳の自室でいそいそと開けた。
お米、おばあちゃんのお家で採れた野菜、ちょっとしたおやつ。食品に混ざって、見覚えのあるイラストが顔を出した。
ハチミツとクローバーのコミック。
わたしが集めていた分の続きが、一緒に入っていた。あー、ハチクロじゃん!
予想外のサプライズに、びっくりしたけど嬉しかった。
マンガが手に入ったことも嬉しかったけど、覚えててくれたんだっていうことに、わたしはジーンとしてしまった。
5巻は待ちきれずに自分で買ってしまったので、アパートの本棚には、ハチクロの5巻だけ2冊ある。
ダブった分は売ってもよかったんだけど、なんとなくそのままにしておいた。
家族で以心伝心したみたいで、面白いなって思ったのもあるかもしれない。
結局、大学は途中で辞めてしまったし、わたしの学生生活にマンガみたいな出来事は起こらなかった。だけど、初めて親元を離れた数年間は、今までの30数年間のなかでも、三本指に入るくらい楽しかった。
ハチクロは、もう何年も読み返していない。
だけど、コミックの白い背表紙を見ると、散らかったアパートの部屋でハチクロの続きを読んでたことや、大学の頃のちょっとした出来事が、ぼんやり頭によみがえる。