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日記 パン氏が家にやって来る

朝、チンパンジーが動物園を脱走したというニュースをみた。
捕まるのかなあ。てか、どうやって逃げたの?
退屈だったのかなあ、檻の中。
かしこいよねえ、と、謎に感心してしまう。

仕事を終えて帰宅すると、夫も同じニュースをみていたらしい。

もしも、知能を持ったチンパンジーが我が家に逃げてきたらどうするか、という架空の話で、しばし盛り上がる。

「えー、それはさあ、早く!家に入れ!って、かくまってあげるんじゃないかなあ」

だって、面白そうじゃん。
そんな映画みたいなシチュエーションを、みすみす逃してたまるかよ。

「しばらくしたらさ、警察が追ってくるんじゃない?この黒い毛はなんだ、あ、それはうちの犬の毛です!って言ってさあ」
夫も、一人二役でノリノリだ。

話を続けようとすると、インターホンが鳴る。
あら、宅配なんか頼んでたかなあ。
ドアを開けて、思わず、おわぁっ、と可愛げのかけらもない声が出る。

びっくりした夫も、何事かとこちらにやってくる。

チンパンジーがいる。まさかのご本人登場だ。
てか、思ってたよりデカいな。

立ち話もなんなので、チンパンジー氏を玄関に招き入れる。言葉通じるのかなあ。
ジェスチャーなら行けるか?

身振り手振りを交えつつ、「逃げて来たんですか?」と尋ねてみる。
うんうん、と頷くチンパンジー氏。
すげー、通じるんだ。頭いいなあ。

ちょっと色々聞きたいことあるけど、遠くでかすかにパトカーのサイレンの音が聞こえる。

他の事件かもしれないが、彼を探してパトロールしている可能性も否定できない。
どっかに、隠れるところあったかなあ。

物置部屋、床下収納、薪ストーブ、はさすがに危ないか。洗濯物の山の中。屋根裏部屋が、一番安全かな。

あーだこーだ言っていると、再びインターホンが鳴る。やばい、チンパンジー君を探しに来た奴がいるのかもしれない。

早く早く、と、チンパンジー氏を屋根裏部屋に連れて行く。
さすがに家の中までは入ってこないだろう。

階段から様子を伺うが、やはりパトロール中の警察官らしい。

玄関先で、夫が話す声が聞こえる。
頼むぞ、うまくやってくれ。さっき空想の警察官相手に練習したんだから。

「では、何かありましたらご連絡下さい」

良かった、どうやらうまいこといったみたい。
ほっと一安心だ。

チンパンジー氏が、屋根裏から降りて来る。
なんだか名残惜しい気もするが、暗いうちに出発した方が、目立たなくていいだろう。

玄関まで、チンパンジー氏をお見送りする。
元気でな、見つかるなよ。
最後に、深々と頭を下げて、チンパンジー氏は帰っていった。

あれから、彼がどうなったのかわからない。
でも、捕まったというのもみないから、どこかで元気にやってるはずだ。


良かった、どうにか間に合った。

この記事は、モノカキングダム2023応募作です。
半分創作の、嘘日記です。
どこかに「あったか」もしれない世界線のお話ということで。

本文中に、隠し「あったか」も入れてみました。

他の皆さまの作品も楽しみにしています。
それでは、また明日。

今日の一曲
四角革命 相対性理論


投稿ボタンを押そうとした時、インターホンが鳴る。
もう22時になるんだけど。誰だよ。
…まさかねえ。















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