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多分、永遠に違いのわかる女にはなれない

夫と結婚してから、コーヒーの豆を買うようになった。色んな豆を買って飲むうちに、なんとなく味の違いのようなものがわかるようになってきた。だけど、わたしはいまだによくわからないことがある。コーヒーのフレーバーの説明である。

カフェや、豆を焙煎してくれる店に行くと、大抵の場合豆の説明を書いたポップがある。
豆の原産地と一緒に、「ダークチェリーのような酸味」だとか、「はちみつのような」とか、「桃のような」とか色々な説明が書いてある。たまに店員さんが説明してくれることもある。

とにかく言葉を尽くして、豆のおいしさを伝えようとしてくれてるんだけど、肝心の「ダークチェリー」だの「はちみつ」だのが、わたしには全くわからない。どこにチェリーがいたんだろう?はちみつって?

てか、お店の人たち、ほんとにわかるの?と、失礼極まりないことを考える。でも、これには理由がある。何を隠そう、わたし自身が、まったく味のわからないまま、飲めもしないお酒を販売していた過去があるからだ。

大学生の頃、派遣のバイトでお酒を売っていた。
クリスマスのシャンパンだの、年末に飲むビールだのを、ガンガン宣伝するやつだ。ハタチは過ぎていたけど、わたしはお酒が飲めなかった。好きな人には申し訳ないけど、わたしからしたら、全部等しく苦い水でしかない。

飲めないのになぜそのバイトをしてたかというと、時給がよかったからだ。わたしは、苦い水を売って得たお金で、死んだ木(ベース)を買おうと思っていた。

お酒のことは、ちんぷんかんぷんだが、幸い、派遣元の会社で、簡単な研修があった。どうやらビールも、コーヒーと同じく味の違いがあるらしく、各社の特徴をまとめたプリントが配布された。

わたしはプリントをお守りのようにポケットに入れ、スーパーに響きわたるくらいの大きい声で、呼び込みを頑張った。
「いらっしゃいませー!!すっきりとしたのどごしの、⚪︎×ビール、いかがですかー!!」

正直、のどごしも何もわからない。ビールは味見したけれど、よくあんな苦えもん飲めるな、としか思わなかった。けど、わからないけどやるしかない。泡がどうだとか、苦味がどうだとか、プリントの内容を思い出しながら、必死にセールストークをした記憶がある。

そんな事があったものだから、語彙力マックスのコーヒー豆のポップをみると「マジで?味の違いわかるの?昔のわたしみたいに、頑張って暗記してるとかじゃなくて?」と、若干疑いの目を向けてしまう。

だけど、多分、わたしの舌が持ち主に似ていいかげんなだけで、わかる人にはチェリーもはちみつもわかるんだと思う。

わたしも、コーヒー豆の裏に書いてあった説明を思い出しながら、「チェリーの酸味、チェリーの酸味」と味覚に集中してみたけれど、やっぱりチェリーは感じられず、ただ美味しいコーヒーだなあと思うだけだった。

多分、わたしは永遠に、違いのわかる女にはなれない気がする。いつか、味の違いがわかる女になれたら、今度は口から出まかせ丸暗記ではなく、ちゃんとした味のレビューを書こうと思う。





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