ワイドショーADから社長まで昇りつめた著者はテレビの未来をどう描くのか?
こんにちは。
今回は本の感想というよりテレビ業界の構造や働き方に喝を入れています。
5年前までワイドショーADだった私は放っておけないタイトルと内容だったため本書を手に取りました。おそらく、フジテレビが好きだとか、テレビ業界に興味があるとか、メディアを研究しているだとか、コアな理由がないと元フジテレビ社員の回顧録を読もうと思わないかもしれません。
渋谷のTSUTAYAさんは何を思ったのか、私と本書を引き合わせて、そして世間の話題とタイミングが合ってしまいました。
今年1月中旬、本文の終盤を読んでいるとき、フジテレビで日曜に放送されている「ワイドナショー」で「AD」呼称変更について議論になりました。
日本テレビは業界の問題に対して早くから改善する傾向があり、ADの呼び方も変わったとさっそく記事が出ています。
この呼称変更の話題と本の内容になんの関係があるのでしょうか、というと著者の太田氏は制作プロダクションを「放送局にとって本質的に最も重要なパートナー」として捉えているからです。
制作プロダクションはテレビ局よりプロデューサーやディレクターを多く抱えています。なかでも専門学校や大学を卒業した新入社員はまずアシスタント・ディレクターから仕事を始めます。いわば、プロデューサーやディレクターへの「登竜門」です。
私は挫折した身だから大きな口を叩けませんが、「登竜門」をくぐって鍛えられた人しか業界内に生き残れません。放送が停止していないから結構な人が生き残っているじゃんと思いますが、別の番組を掛け持ちしたり翌日のために夜中も走り回ったり、労働基本法なんて関係ない状態で働いています。テレビ局のスタジオやスタッフルームは常に人手不足なんです。私が入社した2016年の時も、ネット配信と並行した今も変わらなく、根本的に制作側の頭数が足りない状況が続いています。
Twitterで議論について読み、じぶんの経験を振り返っていると、あれ?そういえば、味方がいるじゃないかと思い浮かびました。そう、太田氏です。
「彼ら」=制作プロダクションに対して「基本的にリスペクトがなければ駄目だ」と局員が思うなんて神様のような存在なんです。
現在は、局やその子会社の若手の社員ディレクターを制作プロダクションなど現場に出向させる(送り出す)ことは当たり前になりました。その発端は著者が部長に昇格した時代からなのか、そこにきちんと理由がありました。
この文章を読んで、そういう社員ディレクターが増えてくれればと、局内の制度が柔軟にならないかと願わずにいられません。しかも、ここ2〜3年はコロナ禍。社員の健康状態を守るために「出向」させる社員ディレクターを減らしていないか、心配しかありません。
著者・太田氏も「(テレビ屋だった)その頃も今もずっと気になっているのは、制作プロダクションのことだ」という。この方は番組制作ないしテレビ業界の未来に結構本気だと思います。
太田氏は社長まで昇り詰めた局員側として、放送局の採用人数の少なさはもちろん、新入社員が制作現場に配属されるかとは限らないことを熟知しています。その上で、「大小様々な制作プロダクション、派遣会社がテレビ局の番組制作を支えている」ことを強調します。
そして、人材の枯渇と同様に、制作費の枯渇も問題が残ります。
太田氏が考えるように、「『イコール・パートナーシップ』の精神で仕事」をして「彼ら(制作プロダクションや派遣会社)が存在しなければ仕事ができないとの認識」を業界全体で当たり前にならなければ、優秀な人が入ってくるどころか、人材が流出していく一方だと思います。
【了】