デザイナーは組織学習に寄与できるのか?
この記事は2023年MIMIGUIRアドベントカレンダーの15日目の記事として執筆・公開しています。
毎日、MIMIGURIのメンバーが6つのテーマから1つ選んで、リレー形式で書いていきます。他のメンバーの記事はここから読めます。
前回はゴン兄こと原さんの記事「新しい組織発展モデルの探究『俺たちのグレイナーモデル』を構想してみよう」でした。
さて、あっという間に今年も残りわずかとなり、アドベントカレンダーの季節が巡ってきましたね!今年もMIMIGURIらしい6つのテーマが設定され、どのテーマを選ぶか考えれば考える程悩んでしまいそうですが、今回は「デザイナーは組織学習に寄与できるのか」という問いを立て、私個人の振り返りも含めて「探究」という広い枠組みの中で徒然なるままに書いてみたいと思います🎄
MIMIGURIのコアケイパビリティは組織学習
私たちMIMIGURIという会社は、企業が事業多角化する際に抱える様々な課題に対し、クライアント企業自身が自らの力で解いていける「学び続ける組織」であるための支援・伴走をしています。
そして様々な企業にコンサルティングという形で入っていく私たち自身も、当然ながらひとつの企業体。自らの組織でも常に学習を起こし続けています。
MIMIGURIのケイパビリティはいくつかあるのですが、その中でも「組織学習」は最もコアなもので、バリューとして「知を開いて、巡らせ、結び合わせる。」と定めている程です。
このバリューの通り、MIMIGURIではSlackや社内ラジオなどで実践から生まれた知や葛藤が頻繁に開かれ、それを目にした誰かを触発し、別の経験や知と結びついて応用され発展していく…という循環が日々生まれています。(臼井さんの記事で紹介されていた「全体会」も組織学習を育むとても大切な営みのひとつ。)
知識創造に対話は欠かせない
誰かの経験を引き出し可能なナレッジとしてデータベースに格納するのではなく、私たち自身の経験として積み上げ身体知にしていくこの循環は、さながら知識創造で語られるSECIモデルのようだと私は感じています。
しかし、実際に知識創造活動に取り組もうとしたことがある方はお分かりだと思うのですが、知の起点とも言える「共同化(個人同士の直接的な作用による暗黙知の共有)」「表出化(共同化によって積み重ねられた暗黙知をチームレベルで統合する)」が実は結構難しい…!
実際にナレッジマネジメントに取り掛かりたいとお考えのクライアントさんからも「やりたいとは思っているけど、まだ職場がそういう関係性にないんです!」というお声を聞いたこともあります。
そう、前提としてこの暗黙知の共有・統合には対話的な関係性が必要なのです。個々に埋もれている暗黙知は出しやすい関係性や、思わず出したくなってしまう状況があってはじめて出てくるもので、そう簡単に出てくるものではないのです。
それが今すぐ何の知につながるかわからない、探索的・冒険的な知のカケラならなおさらです。
デザイナーが生み出す組織学習とは
現代ではデザインの解釈が非常に広くなり、デザイナーが向き合う対象や発揮する能力はありとあらゆるものになっています。
ビジョンを描く、抽象化・構造化をする、発散・収束を繰り返す…行為も抽象化すればする程、デザイナー特有のものなのか分かりづらくなってきます。
私自身で言えば…
私の場合、今は組織をデザインの対象として捉えて組織にいるみんなの体験に日々向き合っているのですが、2023年は振り返るとデザイナーが生み出す組織学習に始まり、個人の自己実現施策に取り組む一年となりました。
「個人が自己実現をしていく」というプロセスはどのようなものかを構造化したり(下記①図)、社内外の体験として個人が自己実現に向き合うプロセスがどうなっているのかをジャーニーに描き構造化するなど(下記②図)し、取り組みに反映するなどしていました。
これもデザイナーが得意とする構造化や、体験設計からのサービスデザイン感覚が反映されていると認識しています。
デザイナーは組織学習に寄与できるのか?
私自身はデザイナーとして先程書いたような形で組織に向き合っているのですが、前述のSECIモデルに立ち戻って「組織学習にどうデザイナーが寄与できるのか?」という問いで考えていきましょう。
まだまだ議論の余地はあると思うのですが、デザイナーのケイパビリティが生きる場面として下記のように整理できるのではないかと考えています。
ブランディングを含むプロジェクトを例に、デザイナーの行為とその効果を一連のサイクルで考えてみます。
■ 共同化 | 複数デザイン提案やモックにより、企業や事業に対するナラティブを引き出す
MIMIGURIのなかでも今年「プロトでファシる(=プロトタイプでファシリテーションする」という言葉が生まれたのですが、プロトタイプを囲み思い思いに感じていることを口に出し、ナラティブを交わし合うイメージです。
例えば企業ロゴを複数案に提案した時に担当者さん達の口から思わず漏れる「これはウチらしいね」「これはなんかイマイチなんだよなぁ」という言葉。
それをロゴ案に対する批評と受け止めるのではなく、ロゴ案をトリガーに出てきた「企業に対する個人のナラティブ」として受け止めます。
そしてその背景を引き出すことでお互いに「そんなイメージをウチの会社に対して持っていたんだ」「そんな思いがあったからこの案だと違和感があったんですね」と、見えなかったお互いの景色が見えてきます。
そうです。面と向かって暗黙知を出し合うのは難しくても、目に見える何かを共に鑑賞する形をとって、お互いの暗黙知を出し合うことは比較的容易で、「思わず出したくなってしまう状況」を生み出しやすくなります。
■ 表出化 | 場の設計により、対話を誘発する
これはワークショップなどで個人の思いや暗黙知を表出させ、対話を通じてチームで共有する場をつくることをイメージしています。具体的なプログラムやワークシートの設計・デザインです。
特にデザインケイパビリティを持ったファシリテーターは本人の介入・作用が最小限でも場が回っていく、そんなワーク設計や場づくりが上手いなと感じています。(MIMIGURIだと耳子さんは魔法使いのようだし、まどかさんの記事なんてまさにそうだなと思います。)
元々、自分の存在はさておき、デザイン物で人の行動や態度変容を促すことを考えるのに慣れているので、当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。この辺りは、自身の存在感も含めて場をホールドするファシリテーターと違いがある部分かもしれません。
■ 連結化 | 対話により表出した「よさ」「らしさ」の認識を結びあわせ、カタチとして体現する
これはまさにグラフィックデザイナーなどの力量の見せ所の部分。
これまでの段階の対話で語られた組織内のナラティブを結合し、新たなイメージ・カタチ・認識を創出し、「そうそう、これ!」を導き出します。
異なるナラティブをひとつにまとめるのは難しいものですが、複数のナラティブを抽象化し具体的なひとつのカタチとして昇華させ、感覚的な目線合わせにまで導けるのはデザインの強みだと思っています。
■ 内面化 | コミュニケーション設計をし、企業・事業活動やオペレーションに落とし込む
制作したCIをベースにコミュニケーション設計を行ない、具体的な日々の企業・事業活動に落とし込んでいきます。日々、ロゴやその他CIを使い、他者に語る行動を通じて、カタチに込められた企業の「よさ」「らしさ」が少しずつクライアント企業のみなさんの身体知になっていきます。
そしてこれを語る場をまた作れるといいのかもしれませんね。
問いに対する私の答えは…?
これらの一連の活動は「ブランディングプロジェクト」ではありますが、クライアント企業のなかに埋もれていた、個人個人が持っていた企業に対する暗黙知を表出させ、結び合わせ、身体知化していく組織の一連の学びを支える活動と捉えることができます。
その中でデザイナーが発揮できるケイパビリティは十分にあり、その全体像を見渡して生かすことでもっと豊かな学びを作れる可能性があると思っています。
本当に思いのままに書いてしまいましたが、タイトルとして掲げた「デザイナーは組織学習に寄与できるのか」という問いに対する私の答えは、もうお分かりかと思いますが、"Yes"です。
そして長くなったついでに、そもそもなぜこんな問いを掲げたのかも白状します。
私自身がこの一年でアイデンティティに戸惑いが生じたからです。「結局私は何者なのか」「ファシリテーター>デザイナーなのか?」と。
二項対立で考えることに意味がないのは重々分かりながらも、そんなことを考えてしまい、デザイナーがデザイナーとしてその良さを活かしながら組織学習を引き起こすことは難しいのか、と考えてみたくなったのです。
さて長くなってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました!
MIMIGURIアドベントカレンダー16日目の明日は、私も大好きな、とても手触り感のある文章を書かれる山里 晴香さんを予定しています。
どうぞお楽しみに!
MIMIGURI Advent Calendar 2023の記事一覧はこちら