“やりたくなる小学校のトイレ掃除”を「仕掛学」で共創! 大阪大学 松村教授と考える ブルーレット50周年企画『トイレモンスターズ』(後編)
今回は、ブルーレット50周年を機に更なる「快」を届けるため、“家庭の枠”を超えて小林製薬が取り組む企画「小学校のトイレを快適にするプロジェクト」の中で生まれた、学校のトイレ掃除の新しいあたり前を提唱する「トイレモンスターズ 」についてご紹介します。
プロジェクトの共創メンバーで「仕掛学」を駆使して、あらゆる課題を解決されている大阪大学大学院 経済学研究科の松村 真宏 教授と、弊社で本プロジェクトを担当したヘルスケア本部 野村、渋谷がプロジェクトの裏側のストーリーも交えて、前編 &後編でお届けします。 聞き手:ヘルスケア本部 肥高 結衣
自主的に先生が工夫!全国に拡がるトイレモンスターズ
肥高 結衣(以下、肥高):本プロジェクトは、大阪の一部の小学校から始まったとのことですが、他エリアへの展開は、考えていたのでしょうか?
野村 康史郎(以下、野村):もともと、全国展開を見据えたプログラムだったので、それも踏まえて考えていました。一方、思った以上に小学校ごとにローカルルールがあることも分かったので、調整は必要でした。
松村 真宏 先生(以下、松村):先程も話があったのですが、先生方の手間を掛けないという大前提もあるので、できることはどんどん減ってきてしまい、バランスが難しいと思いました。
一方、そんな中でも、学校によって「ここを改善しました!」と自主的に改善する学校もでてきました。トイレモンスターのキットをダウンロードして印刷して使ってもらえるように配布したのですが、ローカルルールで改良を加えて扱ってくれて、すごく良いなと思いました。自由にカスタマイズしてください、とした柔軟さが実情に合った使い方になるのかなと感じました。
肥高:実際に導入された学校の反応があれば、詳しく教えてください。
野村:導入した学校からは良い反応をいただいています。導入前、導入後でアンケートをとったところ、トイレ掃除が好きになった生徒が10%増え、トイレモンスターズをやってよかったと半数以上の64.7%の生徒が回答しています、また、先生方のトイレモンスターズの満足度も70%と高い評価をいただきました。
また、報道をご覧になられた学校から問い合わせと導入も増えてきました。プロジェクトの発表会後には20件くらいのお問い合せが入りました。そこから小学生新聞にご紹介いただいた反響も大きく、それをご覧になった学校や先生からお問い合わせをいただいている状況です。大阪から始めたプロジェクトでしたが、沖縄の小学校からも反応がありました!
渋谷 美生(以下、渋谷) :報道を通して、同様の課題意識を持っていらっしゃる先生からお問い合せがきるという状況です。現在はコロナ禍ということもあり、あまり積極的にはご案内していませんが、継続した反響があるのは、わたしたちとしてもやりがいがあります。
想いで繋がる共創パートナーとプロセスの共有が重要
肥高:報道を通して全国各地から反響があった、という話がありましたが、情報を発信する上で工夫をした点はありますか?
野村:小林製薬は本社が大阪で、大阪府と包括連携協定を結んでいて、健康に関するテーマで積極的に連携されているという背景がありました。また、松村先生も大阪大学で教鞭をとられていて、大阪に縁があったことから、まずは、大阪でモデルケースをつくり、情報発信も大阪からスタートしました。
他にも日本トイレ研究所という、日頃から教育現場でトイレ掃除をどうしていくべきか、強い思いで取組まれている専門家とも連携し、【小林製薬×大阪府×大阪大学(松村先生)×日本トイレ研究所】共創パートナーの枠組みを創りました。こういった信頼性の高いチームを形成することで、学校導入もスムーズに進められたと思います。
肥高:チームの枠組みを創る中で、ポイントになったことはありますか?
渋谷:私達ではわからないエビデンス的なところは、日本トイレ研究所さんが沢山お持ちなので、そういった点を強化していただきました。デザイン面では、ユニークなプランニングを得意としていて、子供向けの企画経験も豊富な佐藤ねじさんが率いるブルーパドルさんに入っていただいたことも大きいと思います。過去に、さまざまな子ども向けの企画に取り組んでこられた経験から、キャラクターを作っていく時も「子ども視点ではこっちのほうがよい」など、具体的に企画のブラッシュアップができ、非常に良いチームで、課題に取り組めたと思っています。
野村:トイレに精通している人、子ども向けの企画に精通している人、仕掛学の専門家の松村先生、企画に協力的な学校・先生、そして大阪府と、各プロフェッショナルがワンチームとなり、創って拡げる枠組みができるといいな、と考えていました。私たちは、最強メンバーの方々の想いや企画を、うまく世の中と結ぶ合意形成のプロとして参加していました。今思えばいろんなプロセスがあったと思います。
渋谷:他にも、情報のリアリティ・制作プロセスの共有ということも大事にしていました。例えば、導入いただく学校側も取材に前向きにご協力下さったので、記者発表前の制作過程から取材に来ていただきました。そのため、現場の生の声を届けられたし、学校の先生や子ども達はもちろん、たくさんの人にトイレモンスターズを入れてみてどうか、とか、トイレモンスターズってどうですか、という声をいろいろな意見として発信できたのも大きかったと思っています。
野村:企業が単体でつくったプログラムを提供するCSR活動ではなく、現場に足を運んで、意見を汲み取り、反映していき、その過程もメディアを通して届けられたことが、最終的に学校やその先にいる保護者の方の満足度・導入につながっていると思います。あとは、最近、多方面から注目されている「仕掛学」という切り口で、メディアの取材につながったのも、すごく大きかったと思っています。
肥高:メディアの反応はいかがでしたか?
渋谷:「教育とゲーム」という一見、交わらないというところに興味を引いていただけたところもありました。あと、ゲーム自体が面白かったというお声もいただいています。
松村:ちょうど私の仕掛学に関する密着取材が重なっていて、そこでも「あれ、面白い」という話をよく聞きました。
教育現場の方から見る、PR会社とは。
肥高:松村先生へお伺いします。今回、PR会社からの相談が初めてだった、というお話を伺ったのですが、今回一緒にプロジェクトに取り組まれてみて、率直なご感想をお伺いできますか?
松村:先ほどの話にありましたが、座組みがすごく面白いと思いました。普段は、企業と共同研究すると、企業と僕だけなのですが、今回は、デザインにすごく詳しいブルーパドルの佐藤ねじさんや、トイレの専門家の日本トイレ研究所とか、さまざまなプロが集まってチームを作るというというのが面白く、安心感がすごくありました。初めての試みでした。
肥高:今回のプロジェクトを進めていく上で、松村先生が意識したことがあればお伺いできますか?
松村:今回、ブルーレット50周年ということで、最終的には子ども達がちゃんと掃除できるようになるところの先に、小林製薬さんのブルーレットが学校でいっぱい売れるようになってほしい、という思いもありました。ですが、学校はお金が無さ過ぎて買ってもらうのは無理かもしれない…とわかってきました。その時に話したのは、トイレモンスターズの家庭版を作ればいいという提案でした。家庭だったら買ってくれる人もいるだろうし、日本全国の家庭が対象になったら、マーケットも広がるので。
肥高:なるほど。ちなみにその家庭版のプロジェクトは、今はどんな感じなのでしょうか?
野村:新型コロナウイルス感染症の流行で、プロジェクト進行時には考えられなかった未曽有の状況になり、今は落ち着くのを待っている状況です。わたしたちも、子ども達が家でトイレ掃除を好きになることはすごく大事だと思っていて、可能性はあると話をしています。
PRで新しいあたりまえを創る、仕掛学との良い調和とは。
肥高:最後に、今回のプロジェクトを経て、みなさんそれぞれが意識した点や新たな気づきを教えてください。
渋谷:プロジェクト主体が小林製薬さんになるので、やはり、この活動を通して小林製薬さんらしさをどこまで残せるか、そしてこの情報に触れた人が良い取り組みだと思ってもらえるか、は常に意識していました。小林製薬さんは「わかりやすい製品のネーミング」が企業イメージにありますので、キャラクターの名前もわかりやすいネーミングにする点にかなり時間をかけました。そういう小林製薬さんらしさを一貫して伝えられるよう意識しました。(アンモニア=“アンモニー”など)
また、小学生に向けた企画なので、いかに子どもたちが楽しくトイレ掃除ができるのか、というのも常に念頭にプランニングしていました。「楽しい」を入口に、掃除を前向きに捉えてもらうようにするには、どう仕掛けるか、どうデザインするか、ルールをつくるか…など、様々な工夫を練ったことが、学校の先生方やメディアに面白いと思ってもらえたことにつながっていると感じています。
野村:このトイレモンスターのプロジェクトに関わる前に、私たちがPR会社として、プランニングで意識していたのは、情報が世の中に知られる(情報露出)⇒知られることによって意識が変わり(認知変容)⇒最終的に行動が変わる(行動変容)ということでした。
しかし、最終的な行動変容を達成するためには、必ずしも認知変容のプロセスがなくても、最終的なゴールが達成されるという仕掛学のアプローチの有用性に、新たな気づきがありました。弊社としても初めてのチャレンジでした。PR会社のあたりまえを覆すチャレンジでもあったと思います。
飽きられても、“知識が残っている状態”を目指す。
肥高:最後に松村先生、お願いします。
松村:トイレモンスターズは、最初は面白がってくれるだろうけれども、ずっとは無理かな、と思っていまして、飽きられていくものだと思っています。ただ、飽きられた時に、掃除に対するちゃんとした知識が残っているのがすごく重要だと思っています。飽きたから終わりではなく、飽きたけれども、ちゃんとした教育効果は残っていますよ、とできることにすごく価値があるのではないかと思いながらやっていました。
野村:個人的に印象に残っているのが、導入した学校に行くと、子どもたちがキャラクターの名前を連呼していたことです。キャラクターを子ども達が連呼するだけじゃなく「アンモニーはアンモニアだから汚い」とか、理由も覚えてくれていました。だから、仮にゲームに飽きても、知識は残り続けるんだと思いました。ゲームをやり続けることが大事ではなく、そのプロセスをしっかり覚えてくれれば、家に帰ってトイレに汚れの正体がいるな、とか、それは退治しなければいけないものだ、という刷り込みができます。それが仕掛学の面白いところだと思いました。
松村:「仕掛学って、目的の二重性が大事」ということをよく考えています。表向き、子どもたちは「ゲームが面白い」から参加してくれているのですが、それと同時に「いろいろな知識も吸収」できている、という裏の目的もちゃんとあるのがポイントです。ゲームの側面しか見なかったら、掃除の時間なのに遊んでいてけしからん、と思われるのですが、実は、それは同時に裏で、いろいろな知識のインプットにもなっている…というのが本来の狙いです。そこを達成したいからこそ、ゲームというラッピングを使っているわけです。この両面をうまく、最終的にはアピールできれば、導入する時の変な抵抗はなくなるのかな、と。目的の二重性があるからこそ、行動変容にダイレクトにアプローチできるのです。
肥高:目的の二重性があるからこそ、行動変容にダイレクトにアプローチできるのですね。最後に大切なキーメッセージをありがとうございました。