忍耐力と持続力。
歩荷の萩原雅人さんが2022年からJapanese porterというYouTubeチャンネルを設立し、映像を通して尾瀬の景色や植物、歩荷の日常などリアルタイムで配信している。一昨日、一年の時を経てチャンネル登録者数1万人を数えた。荷物を背負う時は欠かさずスマホを片手に動画撮影し、行き合う登山者達と写真撮影やサインまで対応する。誰もが出来る事ではないし、この登録者数の結果は努力の賜物だ。
小屋に訪れるお客様からは『憧れの歩荷さんに会えました』『写真撮ってもらいました』『お土産渡しておいて欲しいです』など、もはや尾瀬の歩荷さんはアイドル的存在にまで成長した。『歩荷さんに会う』これが新たな入山動機になっている訳だから、尾瀬にとっての経済効果もプラスに働いた事になるでしょう。
つい去年までは、世の中の歩荷さんに対するイメージは『声掛けるのは申し訳ない』『黙ってすれ違う』『歩荷さんの足を止めちゃいけない』こうだった。
それは登山者やハイカーの善き配慮であり、尊敬や感謝を含めたマナーみたいなものだったのだろう。
山小屋と歩荷さんとの日常の関わりの中で、私は『歩荷業を世に認知させたい』と強く思い、歩荷さんの写真を撮影しSNSを通じて配信し続けました。
SNSで投稿する度、歩荷さんの投稿は通常の投稿よりも世の中の反応は大きく、メディアや媒体誌に何度も取りあげて頂き、三年間投稿を続けた事により尾瀬歩荷を一つのブランドとして世間に拡散できた。尾瀬小屋のSNSはその一助となったのは間違いないだろう。
また、世間へ大きな影響を与え情報拡散に寄与して下さったのが、世界的ゲームプロデューサー小島秀夫さんだ。私が歩荷写真を投稿する度にフォロワー150万~300万人ほど所有する小島秀夫さんのアカウントでリツイートやリプライをし続けて下さった。小島秀夫さんの影響は絶大でした。今も尚、変わらない情報拡散をして下さっています。面識がないにも関わらずいつも心から感謝しています。いつか尾瀬に来て下さる事を夢見ている。
今でこそJapanese porterというYouTubeチャンネルは人気コンテンツになりつつあるが、その背景で小島秀夫さんのように支えてくれていた人達がいた事を忘れてはいけない。感謝を忘れてしまった時、そこがチャンネルの限界点になるでしょう。
これからも安全なやり方で思う存分、尾瀬の魅力を伝えて欲しいと思います。
話は変わって、歩荷さんのYouTubeが1万人を数えた同日、尾瀬小屋に宿泊予定のお客様が体力消耗により到着が大幅に遅れた事案があった。その消耗していたお客様とノースフェイスの方々が偶然にも同じルートで歩いており、登山道でぐったりしていたお客様に声をかけて下さり、尾瀬小屋に安否の状況などを知らせに来て下さったのだ。到着が何時になるか分からない山小屋にとっては、詳細な状況が把握できた為本当に助かりました。当の消耗した本人は到着するなり『二度とこんなとこ来ない』『尾瀬は平坦と聞いていた』など散々な口振りでしたが、ご案内時間を過ぎていたお風呂に入れ、温かな食事で迎え入れた。山に入る者として、もっと入山前の慎重な計画が必要だ。過去には燧ヶ岳や尾瀬沼方面まで消耗者をお迎えに行った事もあり、未着や遅延は小屋にとって眠れない夜になる事もある。そうした過去も踏まえ、今回ご協力頂いたノースフェイスの皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。翌朝も沢山のお話を交わし再会を約束したのだ。
三週間ぶりに別の仕事で下山した。
休む事なく忙しい営業が続いた為、身体はガタガタだったが、尾瀬ならではの絶景がご褒美となった朝だった。尾瀬小屋スタッフであり山仲間の翼君が赤城山に登りたいという事で、一緒に尾瀬ヶ原の朝を歩きながら赤城山の登山口まで送り届けた。彼は休みがあれば尾瀬近郊の山を登り倒している。夏休みは北アの表銀座を縦走してくるというのだから、まるで昔の自分を見ているみたいで何だか嬉しい。何故、彼が山に登りに行くのか今どういうモチベーションで登山口に向かっているのか何となく気持ちが分かる。ケガなどないようにこれからも山と共に生きて欲しいと願う。
さて、下山したとはいえゆっくりする時間などはない。昨日は今後の新規事業の打ち合わせを行い、今日は支援している児童養護施設や不登校支援学校の訪問、小田原保健所への申請手続きや事前相談、新規スタッフの面談などが入っている。明日はtetonさんやアルトラさんとの打ち合わせ、川崎重工業様との物輸協議、環境省訪問など予定はパンパンだ。自分が山に登れていないのも納得のスケジュールなのだが、これはこれで着手した案件が目に見えて形になっていくプロセスが楽しいし充実している。
歩荷さんのYouTubeも自分の仕事もそう、どんな事にも言える事だけども『自分の考えやアイディアを信じる事』『人がやらない面倒な事を率先して実行すること』『継続すること』『改善してより良くすること』これを辛抱強く反復して頑張る事で、やりたい事や目指す事って必ず叶う。これは断言出来る。
忍耐や持続も楽しむ事が出来たら、我慢は努力になるし努力は成果になる。山の上でも下界でもその気持ちや考えは変わらない。
今日という1日が充実した日となる為にも前進だ。
尾瀬小屋
工藤友弘
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?