ひたすらやさしい「おばんざいカレー」と思い出のカレー
カレー大好き。
やさしいカレーは特に大好き。
「京風カレーおこしやす」さんの「おばんざいカレー」と、
思い出のカレー話ふたつ。
おなかもココロも満たされる「京風カレーおこしやす」
先日、東京都千代田区神田須田町にある
「京風カレーおこしやす」さんで、
週替わり「おばんざいカレー」をいただいて来ました。
2年ほど前からマークしていたお店です。
アレが拡がってからすっかり都内に出かけなくなってしまいましたが、近くに用事ができて、ついに行く日を迎えました。
カレーに限らず、私は刺激の強いメニューがあまり好きではありません。
辛いのは嫌いじゃないですが、特にこしょうが効き過ぎていると、舌がマヒして味がよく分からなくなり、何だかごまかされている気がしてしまいます。
最近も、某チェーン店から出た「今回は玉ねぎ多くしました」というカレーに玉ねぎの風味を期待しましたが、こしょう系の刺激が強くてよくわからず、ちょっと残念。
そんな私にとって
「京風」「おばんざい」
というワードは、とても魅力的で
気になる存在でした。
。.:・°+.。.:・°
ランチのピークが落ち着く13時ちょっと前を狙って入店しました。
カウンター8席の小さなお店です。
席がひとつ空いていてラッキー。
事前に食券を購入します。
メニューはいろいろありますが、最初は迷わず看板メニューの「おばんざいカレー」を選択。
店主がひとり、てきぱきと手を動かしています。
動きは最低限でムダがありません。
一度に用意するのは二人分ずつ。
注文が入る都度、野菜を必要分だけ切って小さな鍋で揚げ、ひとつずつカレーに添えています。
店主のていねいで流れるような所作に見とれていると、隣の席の女性が
「お出汁ください」
え?
どうやらもうひとつの看板メニュー「牛煮込みカレー」にかけるようです。
そんなの聞いたことない。気になる・・・
やがて私のカレーができあがりました。
和風のお皿にカレーが盛られ、
上には揚げた人参、かぼちゃ、オクラ、
そしてネギ。
さらに小料理が3品添えられています。
店主が、お忙しい中でも落ち着いた口調でカレーの食べ方を説明してくれました。
今週のおばんざいは、えのき、もやし、こんにゃくを使った料理3品。
ご飯は、ホタテと昆布で炊き込んでいて、専用のしょうゆをかけてそのまま食べてもおいしいとのこと。
しょうゆはカレーに塩気が欲しいときにも使えて、辛みが足りない人向けの辛みペーストと一緒にテーブルに用意されています。
まずはルーをひとくち。
やさしい。
野菜の甘みがする。
溶けた玉ねぎの風味がたっぷり感じられます。
人参もいるな。
魚の香りがほのかにします。
よく見る「にぼしラーメン」のようなクセはなくて、やさしい出汁が身体にしみわたる感覚。
いろんな風味がする。
お肉は柔らかい牛肉で、とがった主張をすることなく控えめで、でもちゃんといる。
これらが一体となっていて、でもそれぞれの味が感じられます。
ひと晩寝かして大切に育てたに違いない。
炊き込みご飯と一緒に食べる。
やさしさが濃くなった。
って、どういう日本語?
でもそんな表現がぴったり。
添えられているおばんざいが、またいい。
材料そのものが感じられて、あっさり、でもしっかりした味付け。
それぞれ単独に食べてもおいしいし、カレーと一緒でもいける。
見事な調和。
いたずらに刺激されることのない
平和で安心できる世界が、
口の中へと広がっていきます。
おいしすぎて、炊き込みご飯を単独で味わうのを忘れていました。
あと少ししか残ってなかった!
あぶないあぶない。
しょうゆをご飯に数滴たらして口にしてみると、
これだけで一杯いけちゃいそうなおいしさ。
でも、このご飯があるからこそ、おいしく平和な世界ができあがっているのかな。
近くに会ったら絶対通うのに。
次は牛煮込みだ。
。.:・°+.。.:・°
お客さんは常連さんが多いみたい。
店主の仕事ぶりを楽しそうに眺めている人が何人もいました。
カレーが出てくると、素早く、でもがっつくことなく、きれいに食べています。スマホを見ながら、という人はいなかったように思います。
食べ終わると、みんな満足げに「ごちそうさま」と店主に伝えて退席していきます。
ふたり連れの人たちも、長居することはありません。
入れ替わりが早いので、お店の回転のよさにつながっているようです。
店主がていねいで味がやさしいと、
通う人も、やさしくていねいになるのかな。
この関係、いいな。
いや、脚色のし過ぎかな。
おいしかったから、よく見えたのかな。
でも間違いなく、
おなかもココロも満たされるお店でした。
下宿「アカシヤ荘」の名物カレーを、ろうそくの下で
やさしいカレーが好きな理由には、
刺激が苦手なのもありますが、
学生時代に出会ったふたつの思い出深いカレーがあるからです。
ひとつめは、下宿のカレーです。
大学1年生のとき、「アカシヤ荘」という下宿に住んでいました。
場所は青森県弘前市。
人口12万人の程よい大きさの街です。
当時(90年代)は、まだ朝夕食事付きの下宿が多く存在していました。
アカシヤ荘は、後から先輩に聞いて知ったのですが、カレーがおいしくて有名なんだそうです。
ショウガを効かせつつも、野菜がたくさん入っていてほのかに甘く、お店に出してもおかしくない、おいしいカレーでした。
夕食がカレーの日は、朝から香りがただよってきて、それはそれは楽しみでした。
しょっちゅう飲みに行っていて下宿の夕食はあまり食べませんでしたが、カレーだけは必ず食べてたものです。
カレーを食べに帰ってから改めて出かけることもあったくらい。
1991年9月下旬の夜、大きな台風が東北を襲いました。
「リンゴ台風」とも呼ばれ、大きな被害をもたらした台風19号です。
名産のリンゴがたくさん落ちてしまった中、残ったリンゴが「落ちないリンゴ」として受験生に人気だったそうです。
農園だけでなく市内も被害は大きく、木々は倒れて建物も多数損壊。
街中が2~3日停電になりました。
我がアカシヤ荘は、屋根がはがれて2階の各部屋が水浸しになるという被害に遭いました。
台風が去り、後片つけに追われた日の夜、下宿はおいしいカレーを用意してくれました。
復旧作業の大変な中つくってくれた、いつもと変わらない味。
被害に遭い、停電もいつ復旧するか分からず不安な中、
ろうそくを灯して、みんなで車座になってカレーを食べたときは、とてもほっとしました。
なおアカシヤ荘は、完全に再建するのが難しく、下宿希望者が減ってきたこともあって、その年限りで下宿を廃業してしまいました。
なので、あの名物カレーはもう食べることができません。
でも、永遠に変わらない味として身体に刻まれ、不安の中ろうそくの下で食べたときの安心感は胸に残っています。
仕事への姿勢を見せてくれた「総菜屋さとう」のホテルカレー
もうひとつの思い出は、
「総菜屋さとう」のカレーです。
仲間内では「さとうのおやじ」と呼び、親しんでいました。
東京の一流ホテルで(名前は忘れました)長年シェフをやっていた佐藤さんが、故郷の弘前に帰って開店した、小さなお総菜屋さんです。
メニューは、とんかつなど肉を使ったお弁当がメインでしたが、
毎週火曜は
「本格ホテル味」
と銘打った数量限定のカレーでした。
見た目はジャガイモがひとつゴロンと入っているだけ。
でも食べてみると、野菜と肉のエキスがルーに溶け込み、辛さの中にも甘い風味のあるカレーでした。
前の晩から仕込んでいたそうです。
人気メニューで、私も大好きでした。
昼過ぎ前になくなってしまうので、半期ごとのカリキュラム発表時、火曜午前に必修授業があると落ち込み、毎週火曜は午前の授業が休みになることを祈ったものです。
前述のように下宿が廃業となって、アパートで自炊生活を始めてからは、お店に頻繁に通うようになりました。
やがておやじさんとよく話すようになり、東京時代の話をたくさん聞かせてもらいました。
お祭り好きなおやじさんが、ご自身で撮った都内各地のお祭り写真を収めたアルバムを貸してもらったことも。
東京での暮らしや、若い時の仕事ぶりなどをいろいろ聞いているうちに、いつしか「自分も東京で就職を」と思うようになっていきました。
ある日、遅くまで飲み歩いた帰り道、夜中の3時くらいでしょうか。
自転車をかっ飛ばすおやじさんに遭遇しました。
こんな時間から準備していたのか・・・
朝早いとは聞いていましたが、まだ夜中じゃん!
そこから、より味わっていただくようになりました。
そして「仕事に一生懸命ていねいに打ち込む」という姿勢への、尊敬の念と憧れを抱くようになりました。
その「総菜屋さとう」も先日、ついに引退したという情報を耳にしました。
なので、あのホテルカレーはもう食べることができません。
でも、永遠に変わらない味として身体に刻まれ、おやじさんの仕事に向き合う姿は胸に残っています。
。.:・°+.。.:・°
カレーも、仕事も、
日常のさまざまなことも、
ただただ消費したり
やっつけでこなしたり
やたら刺激を求めるんじゃなくて
やさしく
ていねいに。