15年、鉄の道具を叩く。(後半)
(この記事は、”15年、鉄の道具を叩く。(前半)”からの続きです。)
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たくさんの道具を叩いていくなかで、叩いたらどんな形になるか、ある程度予測できるようになりました。これにはメリットとデメリット、両方あります。
まずはメリット。予測できるということは、具体的な完成予想図を描けるし、予算や制作時間がどのくらいかも算出できます。となると大掛かりなプロジェクトも実現可能。「道具叩きも仕事として成り立つぞ」という実感が湧いてきたのは、ちょうどこの頃です。
デメリットは、予測できてしまう退屈さ。これまで作業中に起こっていた予想外の出来事が無くなってしまうと、自分が新鮮でいられなくなるので、野放しにできない問題です。ここを打開してくれたのが、他者に叩いてもらうワークショップでした。老若男女・十人十色の叩き方は鉄を色々な表情に変えてくれるので、その度に自分もリフレッシュできます。
そしてもうひとつ、退屈打開策でうまくいったのが、叩いた後の再構築です。叩いて産まれた多くの「有機的」をつなぎ合わせて、新たなイメージを作り出すことを始めました。これまで作ったイメージは、植物、動物、岩、アルファベット、象形文字などなど。いずれも組み合わせた際に予想外の発見が楽しめるので、まだまだ新鮮な気持ちで続けられそうです。
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・叩いた「だけ」の作品は原点。形を作るのではなく探すことに徹する。
・再構築した作品は応用編。原点を活かし、新たなイメージを作り出す。
こんな具合に、鉄叩きシリーズをスッキリと分類できるようになりました。
・左の写真は潮見のホテルに、造船にまつわる鉄の道具を叩いた作品。
・右の写真は金沢のホテルに、現地で集めた鉄の道具を叩いて、松の木に再構築&表面に金箔を貼った作品です。
偶然にも同時期に異なる場所に、原点と応用編、それぞれを突き詰めた作品を設置してきました。ふたつ並べると、方向の違いがくっきりと見えてきます。
熱して叩くというのはとても単純な行為ですが、どれだけ熟練した作り手でも、コントロールし切れない部分が必ず存在します。そこに自分以外の何かが入り込む余地があるんじゃないかな、と。例えば予想外の形や色だったり、経年変化だったり、他者の手だったり。道具叩きをやってきた15年を振り返ると、こういった他者との関わりが、大きく道を広げてくれました。
そして、まだ見た事のない「自分以外の何か」に出会う為に。もう一度初心に返り、ひたすら手を動かして、その後で検証する。このプロセスを大事にしようと思っています。
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