お腹の中から私を見て「笑ってるのに悲しそうだから」と言った話。#子は親を選んで来る 話かも。
子供は2歳まで、お腹に入る前の記憶がある。
そんな都市伝説のようなものがある。
子がリラックスしている時にうまく訪ねれば一度だけ、その話をしてくれるというものだ。
長男が二歳になる頃だろうか。
当時住んでいた吉祥寺のマンションの、角部屋だった二階のリビングに柔らかい日差しが入り込み、なんだかいい香りのする昼下がり、白いカーテンが波打っていた。
長男が鼻唄を歌いながら部屋の真ん中で座り込み、玩具遊びをしていた。
私はダイニングテーブルでお茶を飲みながら、開け放たれたリビングにその景色を見て不意に、先程の都市伝説を思い出し、夫の許可もなく“一度だけ”を使おうと思った。
「ねぇ、お母さんのお腹に入る前は、どこにいたのー?」
カップを持ったまま遠巻きに聞いてみた。
「…」
鼻唄が止んだ。
「お母さんのお腹に入る前は、違うどこかにいたの?」
「おそらにいた」
「何をしてたの?」
「おそらでふわふわしてた」
「何か見てたの?」
「おかあさんが みえた」
「お母さん、なにしてた?」
「わらってた」
「どおしてお母さんのお腹に入ったの?お母さんが可愛かった?好きなタイプだった?」
「…」
「お母さんのところに、なんで来てくれたの?」
「おかあさん、わらってるのに、かなしそうだった」
「おかあさんを、たすけるためにきた」
その言葉を聞いた途端、私は言葉を失い、目からツーッと熱いものが顔をつたうのを感じた。
すべてを言い当てられたように、この子は全部わかって来てくれたんだ、と感じたのだった。
長男を産む時、一筋縄ではなかった。
私は母になることで、辛かった日々から救いあげられ、零歳児として再び生きだしたのだった。