あんなちゃんのホットケーキ

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日曜日の朝、ホットケーキを焼くと
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いつもそっと心に現れる人がいる。
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小学生の時のお友達あんなちゃんだ。
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あんなちゃんは、リカちゃん人形みたいに
髪が長くて、顔が小さくて、美人で、
私よりずっと大人っぽかった
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私はあんなちゃん家によく遊びに行った
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お茶畑の細い路地を曲がると並んでいる
平屋の家屋があんなちゃんちだった。
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あんなちゃんちは、うちと雰囲気がだいぶ違う、
とあの時思っていた。
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家の匂い
家の広さ
家の物の多さ
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でも、家の静けさだけは、
うちと似ていたのを覚えている。
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あんなちゃんちは
一人っ子で、お父さんがいなかった。
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お母さんが夜もお仕事しているって言っていた。
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あんなちゃんは、私がいくといつも
「ホットケーキ食べる？」と聞いてくれて
さっと作って出してくれた。
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そのホットケーキにいつも、
人参をすりおろして入れてくれて、
私にはそれがとても斬新だった。
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当時私は1人で台所に立つことなんてなかったから、
お母さんみたいに手早く
人参をすりおろしてホットケーキを焼く
あんなちゃんの姿が
とても印象的で、ずっと眺めていた。
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今思えば彼女は、1人でいつも
色々なものを作っていたんだと思う。
冷蔵庫に何が入っているか、いつも把握していた。
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当時私たちは小学５年生とか６年生だったと思う。
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あんなちゃんとは、違う中学校に行ったから
その後私たちは
全く別々の人生を歩んで会うこともなかったけど
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私は母になりホットケーキを焼くたびに、
彼女の人参入りのホットーケーキを思い出して
真似して作るのだ。

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あんなちゃん、あれはお母さんから習ったの？
あんなちゃん、今でも作ってる？
あんなちゃん、寂しくなかった？
あんなちゃん、私も本当はあの頃、寂しかったんだ。
あんなちゃん、一緒にいてくれてありがとう。
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私は、週末ホットケーキを焼きながら
そっと　心の中のあんなちゃんと会話をしている。
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にんじん入りの愛の詰まったホットケーキ
教えてくれてありがとう。
何度食べても、おいしいね。
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おわり

※「あんなちゃん」は架空の名前です。
本当の名前は私の心に。

エッセイ「本音はいつだって温かい」
本音って、まるで子どもみたい。純粋で、弱くて、まっすぐで。でも、何より温かい。言おうとすると、目の奥が熱くなるもの。恥ずかしくなるもの。そんな本音にたどりつけた日の、私の話をお届けします。