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親を看る トイレで便をするのが俺の美学

 父はもともとわがままな患者だったけれど、手術が終わって、わがままがさらにエスカレートした。

 内臓の手術と別に首の手術もした父は、おむつで排便をするように言い渡されていたのに、父のわがままはオーバーヒートし、トイレで便がしたいといい始めた。

 入院からずっと父のわがままをおさえるため、泊まり込みで看病していた母だったが、父をおさえきれなくなって「もう帰る」とブチ切れ、私に夕方に電話してきた。私が病院に飛んでいくと、怒って困り果てている母を尻目に、絶対安静なのにベッドから立ち上がろうとしているのだ。首の手術をしたため、首のコルセットすら安全を考えてとっている状態なのに。

 私はこの状況を治めようとして父を怒鳴った。本当にいい加減にしてくれ。看護師さんやお医者さんの話を頼むで聞いてほしいと。

 ところが、父がこう言い放ったのだ。「トイレで便をするのは俺の美学だ」。

  あきれて何も言えなかった看護師さんたちが、考えに考えてポータブルトイレを持ってきてくれて、ポータブルトイレで用を足して何とかなった。

 次の日、父は、またトイレで用を足したい、だからポータブルトイレを持って来いと言った。先生方、看護師さん方は、ポータブルトイレは使えないという。弟は「主治医命令だ。オムツで用を足せ」とすら言いきった。
当たり前だがポータブルトイレを持ってくる高待遇はない。
 しかし、結局父はわがままなことにトイレで便をすると言い切ったので、困った看護師さんたちは話し合わせて、首がぐらんぐらんになっているところをなんとかおしてもらって車いすに乗せて用を足させてもらった。

 2日間ほど私が泊まり込みをしたこの騒動、当時は無我夢中だったが、よく父を看て乗り越えたと思う。

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