神なき時代の「終末論」
ずっと佐伯節を読んで来た私にとっては、一気に読める内容でした。
現代日本人が日々漫然と受け取る世界の情報と言えば、戦後やむなく組み込まれたアメリカを中心とする西側諸国の価値観に基づく情報だろう。
余程意識して多面的な情報を入手しようとの心がけがなかったら、一面的で、薄っぺらでステレオタイプの情報に洗脳されてしまう。
現在展開されているロシア・ウクライナ問題、イスラエル・パレスチナ問題の裏側に潜む掘り下げた問題意識を持てるきっかけになる一つの見識だろうと思う。
佐伯啓思さんの考え方の「ものさし」、ギリシア哲学、ユダヤ・キリスト教を基盤とし、そして、西欧社会の過去・現在・未来を分析・予言してきた歴史的な文明論車・哲学の言説を読み解き、一定の見解としたものが、系統だって披瀝された本である。
内容
第1章 現代によみがえる終末論
第1節 われわれが置かれている分岐点
楽観主義者たち 拡大路線の現状 方法的悲観主義――意図的な脱成長主義
「神」はいる?
第2節『旧約聖書』と終末論
『歴史的・文化的基底』の存在 イスラエルの民と神との契約 ユダヤの黙
示思想とキリスト教 旧約聖書的世界観
第2章 「はじめの人間」と「おわりの人間」
第1節 グローバリズムの歴史意識
グローバル化が進んだ三つの時期 「人間の観念が歴史を動かす」という信念
「胃袋が満たされればよい」という観念
第2節 歴史のはじまりに立つ「最初の人間」
ヘーゲル。コジェ―ヴ、そしてフクヤマへ 「承認欲求」がやがて「対等願望」
に 「テューモス(気概)」が歴史を作りだした
第3節 「自由」の意味の大転換
ホッブスの国家契約論 戦いは永遠に続く
第4節 ニーチェの洞察とリベラルの崩壊
フクヤマのリベラリズムへの絶望
あらゆる言説は「権力への意思」を有す――フーコー
フランス革命はルサンチンマンの産物――ニーチェ
ユダヤ教の「他民族への優越」が受け継がれた
第3章 文明の四層構造
第1節 冷戦後の世界秩序の崩壊
善悪二元論という価値観 戦前の日本と現在のロシアの共通点 アメリカの
経済派遣戦略 「もっとも経済的に成功したのは共産主義国家」という皮肉
第2節 「歴史の終わり」が「文明の衝突」を生みだす
トランプによる異形の民主主義 「自由・民主主義」から宗教へ――ハンチン
トン 歴史の「四層」の構造 ロシア・ウクライナ戦争にある価値の二重性
ネオコンの影響力はなぜ続くのか
第3節 ロシアの挫折と、プーチンの屈辱
「二流国」という屈辱
第4節 西欧近代を作ったユダヤ・キリスト教
宗教改革から西欧近代へ 「市民的資本主義」と「ユダヤ的資本主義」
西欧近代が生みだした二つの大国
第5節 文明の「根源感情」
ヨーロッパの根源感情 アメリカの根源感情 近代思想の限界
第4章 アメリカとロシアを動かすメシアニズム
第1節「文明」と「文化」の論理
シュペングラーの「予言」 ハンチントンの予測
第2節 西欧文明とスラブ文明の軋轢
「西欧かぶれ」こそ悪の根源 二つの文明の「フォルトライン」が走る
ウクライナ
第3節 ロシア的な憂鬱
自然と人間の魂の血のつながり ロシア革命に潜む宗教意識
ロシアには「宇宙論的認識」があった 終末への熱狂
第4節『旧約聖書』の影響下にある世界
終末論的な気分 ネオコン型のメシアニズム
終章 もうひとつの歴史観
「リベラルな価値」の真価とは 支配されるものの知恵
「時効の原理」と宗教的精神 人間を突き動かす価値観
佐伯さんにかかれば、アメリカもロシアも根は同じで、ユダヤ・キリスト教の考え方を遡れば、紛争の原因は読み解けると。
ロシア・ウクライナ問題の根の部分もよく理解できた一冊でした。
特別対談 「資本主義」への異論のススメ
斉藤幸平×佐伯啓思
所謂、「保守」と「革新」の違いはあれど、マルクス経済学から影響を受けた二人が混迷を続ける日本の資本主義の未来・あるべき姿を模索し合う対談、メチャクチャ愉快に楽しく読めました。