読書感想文「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」

これは心が健やかな時じゃないと衝撃が強くて読めないな……いつ読めるかな……と思いつつ借りたのですが、日帰りドライブをしたらあっさり心が健やかになったのでWOWOWでシャイニングを流しながら読みました。

羊水検査で「異常なし」と言われたのに生まれた赤ちゃんはダウン症で合併症がひどく3ヶ月で亡くなり、両親から誤診をした医師への訴訟が本筋。何に対する訴訟なのか? というところから始まります。

導入を読んだ時は、何がしたいの両親?? って思いました。でも、訴訟に至るまでと、訴訟の過程を読んでいくうちに、訴訟にしか心のやり場がないんだなと思った。民事って賠償の大きさが金額でしか表しようがないせいで「金目当て」って揶揄されるけど、他に手段がないんだ。

違う話だけど、うちの母親が重めの病気をした時にものすごい額の保険金がおりたらしくて、楽しそうに家の改装をしたり買い物をしたりしているのを見て、こういうことのための保険金なんだなと思った、ということを思い出した。

実際、母親は「ただ苦しんで死んだ息子に謝ってほしかった」と語る。弁護士に「確実に中絶をしていた」としたほうが裁判に有利、と言われながらも、それも拒否する。結果、勝訴はするんだけど、あくまで誤診により心の準備などができなかった両親への賠償であって、最後まで誤診をした医師から子供への謝罪はなかった。

確かに一見謝罪する筋合いがないように思えるし、判決もそう言ってるんだけど、中絶する道をほのめかしておいて誤診した上に産まれてきた子供に一瞥もくれないのは、心無さすぎじゃないのと私は思った。

母体保護法の「経済的理由により妊娠継続が困難」を拡大解釈してグレーゾーンに乗っかって中絶手術を行っておきながら、いざとなったら法を盾にするってそれは、それは医療訴訟が絶えないのは当たり前じゃないの……とはいえ、被告の医師がひどすぎて忘れてしまいそうになるけど、そのせいで追い込まれている医療関係者もいて、それについても書かれています。

他にも無脳症だと分かっていて中絶せずに出産した母親、ダウン症児の里親になった人、優生保護法による断種にまで触れています。「死んだほうがいいと言われている気持ちになる」と語る、ダウン症をもちながら日本で初めて大学を卒業した女性のインタビューも載っていて、色々な側面から障害を持って生まれること、生きること、命の選別について問題提起している。

ダウン症児の親の会も出てきます。胎児がダウン症と診断されて「産んでも育てられるか不安」という母親の相談に「全力でサポートするから、安心して産んで!」という会の代表(だったかな)のメッセージが、これから子供を産むかもしれない私には心強かった。

そもそも筆者自身の「子供がどんな障害を持っていてもいいと思っていたけど、出産間際になったら不安になって、産まれてきた子供に障害がなかったことにホッとしたことに罪悪感を覚えた」という経験が、全てを裏付けしているんですよね。経験者でないと語れないことはあるし、だからこそ伝える意義がある。

一方で公的支援について全く触れられていないんですこの本。命の尊さを感じるとともに、一抹の不安を覚えたのでした……

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