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題名読書感想文:63 ツッコミを待ち構えているのか

 題名だけ読んでも読書に入る。だから、題名だけで感想を書いても読書感想文となるはずだ。そんな感じで続けているのが、題名読書感想文です。

 今回のテーマは「ツッコミ待ち」です。お笑いで明らかにおかしい行為をすると、往々にして「ボケ」と見なされます。そして、ツッコミの人は、当然ながら「ボケ」を見るとツッコむ。だから、ツッコミの人は日常生活でも、おかしく見える行為に出会うと「ボケているのか?」と思ってしまうことがあるようです。何なら、ツッコんでしまう人もいるとのこと。

 それは本の題名もまた同様です。プロのツッコミでなくてもツッコんでしまいそうな題名がたまにあるんです。敢えてやっているのか、たまたまそうなってしまったのかは分かりませんが、そういう題名が確実にある。

 具体例を出してゆきます。まずは「神を追いこさない」です。

 カトリック神父が教える瞑想入門みたいな本のようなんですが、「神様って追い越せるの?」と戸惑わずにはいられません。神様というと、「人より優れた、ビッグな何か」みたいなイメージを持っていた私としては、とてもじゃないけど神様を追い越すどころか追いつくことさえできないと思っていたんです。でも、上記書籍の題名は「追い越しちゃ駄目よ」と注意している。

 確かに、神様が自分より早いなんていうのは、私の勝手な思い込みです。明確な根拠があるわけではない。だから、ひょっとしたら実際はそんなに早くないのかもしれません。ものすごい力はあるけど、とにかく動きが緩慢な可能性はある。

 それこそ多神教だったら、早いのからそうでないのまでいてもおかしくありません。中には追い越しちゃ駄目な神様だっているはず。そう思ったんですが、著者はカトリックの神父さんでした。ゴリゴリの一神教です。じゃあ、そういうことじゃないんでしょう。

 続いては「世界史を狂わせた女たち」です。

 アマゾンの書籍説明を確認しますと、特定の時代に良からぬ影響を広く与えた女性を取り上げているようなんです。歴史系の読み物だと推測されます。題名も一見するとちゃんとしているように思える。

 ただ、この手の本ならば、本来は「世界を狂わせた女たち」になるんじゃないかと思うんです。世界中に良からぬ影響を与えたことを「世界を狂わせた」と例える。言いたいことが十二分に通じる比喩表現です。ただし、歴史本の感じが出てるとはいいがたい。そこで「世界『史』を狂わせた女たち」にしているものと考えられます。

 しかし、「世界を狂わせた」と「世界史を狂わせた」、似てるようで規模が全然違います。「世界」だと世の人々に影響を与えた感じが出ますけれども、「世界史」となりますと石器を使ってた頃の人類にまで範囲が拡大されます。場合によっては過去にさかのぼってまで良からぬ影響を与える必要があるわけで、「本当に世界史を狂わせとんのか」との疑問が湧いてしまうんです。「ちゃんと石器ユーザーまで影響を与えてんだろうな」と。

 とは言え、登場する女性はチャーチルの娘だったり、毛沢東のお気に入りだったりと、皆さん歴史上の人物になっている、もしくはなりつつある。そういう意味では「世界史を狂わせた」と言ってもいいのかもしれません。でも、なんか引っかかる。ツッコみたくなる。そんな独特な題名となっています。

 続いてはこちら、「第四の耳で聴く」です。

 「そもそも第3の耳なんてあったっけ」と私は自分の両耳を触りながら思うわけです。他に音を聴く器官があったのかと。人は骨伝導でも音を聞いているそうですが、それを第3の耳にしているのでしょうか。

 そもそも両耳を第1の耳と定義するならば、骨伝導が第2の耳になり、第3の耳がますます何なのか分からなくなります。そんな感じでいろいろ考えましたが、アマゾンの書籍説明を見て謎は氷解しました。一部引用します。

1.クライエントの声を聴く「第1の耳」
2.セラピスト自身の心の声を聴く「第2の耳」
3.精神分析プロセスから響く声を聴く「第3の耳」
こうした複層的な聴き方を踏まえて本書で提唱されるのが、“グループ”の声に耳を澄ます「第4の耳」です。

 比喩としての耳だったんですね。精神療法の一環で、様々なことを聴く。その聴くものの種類を耳に例えているのだと思われます。

 似たような角度の題名としては「便秘の8割はおしりで事件が起きている!」がございます。

 「意外と真実はこうなんですよ」みたいなものを題名に持ってくるパターンが本にはございます。この題名もまたそのパターンだと考えられます。「意外と便秘の8割はお尻で事件が起きてるんですよ」みたいなノリだと思うんです。

 ただ、便秘の10割がお尻の事件だと思っていた私には「え、8割しかないの?」と思ってしまうんです。「特撮映画に出てくる怪獣の8割は偽物」と言われた気分になる。実は私が知らないだけで、皆さんお尻以外のどこかでも密かに便秘を起こしているとでもいうのでしょうか。

 真面目に考えれば、便秘の原因はお尻以外にもあるでしょうし、便秘によって引き起こす影響はお尻以外に及ぶこともあるでしょう。その辺も「事件」に入れて、お尻の割合を下げているのかもしれません。

 続いてはこちら、「便所掃除はお金を払ってでもさせてもらいなさい」です。

 「〇〇しなさい」みたいな題名の本はビジネス本などでしばしば見られるスタイルですけれども、その中では相当に目立つ題名です。日常的に使う何気ない言葉ばかり用いてこんな目立つ文を作るなんてなかなかできません。

 「ちゃんと掃除をするといいですよ」とか「人の嫌がることをやるといいですよ」とか、そういう考え方は昔からあるようです。現在まで脈々と受け継がれている辺り、時代を問わずいい効果があるのでしょう。上記書籍もまた、そんな代々受け継がれてきた考え方を体現しているのだと思われます。

 と同時に思うわけです。お金を払ってでも便所掃除をする人が増えれば、大量の便所を設置してお金を稼ぐ新たな便所ビジネスが生まれるんじゃないかと。何なら汚す人より掃除する人のほうが増えるかもしれない。みんな汚れた便所を求めて、日本中を探し回る日がそこまで来ているのかも。

 何が「そこまで来ている」んでしょうか。いい加減なことを書き過ぎました。

 本日の最後はこちら、「ハイジャックされた地球を99%の人が知らない」です。

 いわゆる陰謀論とかスピリチュアルとか、そういう方面の本のようです。

 それはともかく気になるのは「ハイジャック」です。果たして、「地球をハイジャックする」は正しい文章と言えるのでしょうか。

 「ハイジャック」とは「運行中の乗り物、特に航空機を実力で乗っ取り、その運航を支配すること。スカイジャック。」とのことです。

 ポイントは「運行中の乗り物、特に航空機」ですね。ハイジャックと言えば飛行機のイメージが強いですが、別に乗り物を乗っ取れば何でもハイジャックなんです。

 ハイジャックの語源には諸説あるようですが、ウィキペディアですと次のよっつが挙げられていました。

・強盗が運転手に「Hi, Jack!(よお、あんた)」と声をかけて拳銃を突きつけたことに由来する説。
・「公道に出没する追い剥ぎ」を意味する「highwayman(ハイウェイマン)」と「携帯用照明で狩りをする人」を意味する「jacklighter(ジャクリガー)」とを合成した「ハイジャッカー(hijacker)」に由来する説。
・「highway(公道)」と「jacker(強盗)」を組み合わせた言葉に由来する説。
・強盗の脅し文句「Stick 'em up high, Jack.(手を高く上げろ)」に由来する説。

 いずれにしろ、飛行機は関係ありません。そのことからも、ハイジャックが乗り物を奪う行為を指す言葉だと分かります。

 しかし、ハイジャックという考え方は、日本へは飛行機の乗っ取りと一緒に広まったようです。そのため、ハイジャックはそもそもスペルが「hijack」なのに、飛行機みたいな高いところまで行く乗り物を奪うから「high-jack」なんだろうと、日本人は思ってしまったようなんです。その結果として、日本では船を乗っ取れば「シージャック」と呼ばれ、バスを乗っ取れば「バスジャック」、通信を乗っ取れば「電波ジャック」など、派生ジャックがいくつも出来上がったとのこと。もちろん、電波はともかく、船もバスも乗っ取れば本来はハイジャックと呼ばれるようです。

 では地球はどうなんでしょう。地球を乗り物と例えるならば、本来の用法だと「ハイジャック」で正解となります。アースジャックとか地球ジャックとかでもいいとは思います。しかし、それだと本来の用法とは異なりますし、いくら派生形が日本でたくさん生まれていると言っても、アースジャックは新しすぎて考えた人の思惑通りの意味で読者が受け止めてくれるとは限りません。だったら、ハイジャックのほうが意味が伝わりやすいし、本来の用法に則っている。そんな理由によって、「ハイジャックされた地球」という表現に収まったのだと推測できます。

 地球が乗っ取られているなんて物凄いことを言っておきながら、ハイジャックの意味はキチンと正しく使っている。間違ってるようで合ってると申しますか、変なところがちゃんとしている、不思議な題名です。

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