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変な遊びで変な日本語になる
子供の頃、変な遊びをしていました。「日本語を母国語として聞かない」ごっこです。
きっかけはひとつの疑問でした。「外国の人は日本語をどんな風に聞いているんだろう」。「こんにちは」を「こんにちは」と認識せず、意味不明な音として聞くのはどんな気分だろうと気になったんです。しかし、私は生まれた時から日本語一筋の人生を歩んでおり、「こんにちは」を自動的に理解してしまう身体に仕上がっています。日本語を知らない人の気持ちになることは難しいと、子供ながらに思いました。
そこで考えたんです。自分が知らない言語を聞いた時の感じ、これを日本語に当てはめればいいと思いました。中国語でもポルトガル語でもサンスクリット語でもいいですけれども、聞いても意味が全然分からない言語を聞いてる時の、あの微妙に不安な感じ。あんな感じで日本語を聞けば、知らない外国語を聞いている風になるのではないかと考えたんです。
そこで私、「耳で聞いた日本語を頭にまで入れない」という技術を開発しました。例えば、日本語が飛び交っている状況で頭をぼんやりさせる。内耳に蓋をするような感覚です。すると、何か音は聞こえているんだけども、それが何を意味するのか分からない風になる。何を言ってるか分からない方も多数いらっしゃるでしょうけれども、とにかくそれでうまくいったんです。日本語がちゃんと意味不明になった。
日本語が分からなくなる。これが新鮮で、私は何度もやっていました。繰り返していると、だんだんコツが分かってくるのか、そのうち一瞬で日本語が分からない状態に持っていけるようになりました。アホになる熟練度が上がったんです。
しかし、そのうち私は不安になってきました。「これをやりまくったら日本語を忘れてしまうのではないか」と。日本語しか話せない私が日本語を忘れてしまったら、この地球上で会話できる人間がゼロになってしまいます。まだ犬のほうが話が通じる状態は明らかにまずい。以来その変な遊びをやめようと思いました。
ただ、何事も使いようです。変な遊びも同様です。この「日本語を母国語として聞かない」ごっこ、騒がしい環境で集中したい時、なかなか有効な手段なんです。人の声から意味を取っ払えば、単なる環境音と化すため、集中しやすくなるわけですね。そのため、他人がベラベラしゃべってる場所で集中したい時には、過去に編み出した変な遊びを有効活用しておりました。
多分、そのたびに日本語を忘れているんでしょう。だから、こうやって意味不明なことを書くようになったんです。これからも私は、日本語が飛び交う環境で集中するたびに、変な日本語を使うようになると思います。何卒よろしくお願い申し上げます。