題名読書感想文:49 馴染みかけのペディア
本には題名があります。少なくとも本の数だけ題名はある。膨大な量です。そんなにあれば、題名だけ読んで感想を書けるものもあるだろう。そんな勝手な思い込みで突き進んでいるのが「題名読書感想文」です。
今回のテーマは「ペディア」です。百科事典を意味する「エンサイクロペディア」ですとか、最近ですと「ウィキペディア」でも用いられる、あのペディアでございます。
エンサイクロペディア(encyclopedia)はもともと古代ギリシャの「エンキュクリオス・パイデイア(Εγκύκλιος Παιδεία)」が語源でございまして、エンキュクリオスは「円環を成す」ですとか「普通の」ですとか、そういう意味だったそうです。一方のパイデイアは「子供の教育」「教養」といった意味があった。つまり、キュクリオス・パイデイアは「円環を成した教育」であり、それが変化して「基本的な教養課程」、すなわち「一般教養」を意味する言葉となった。
エンサイクロペディアの意味も直訳すると「児童を学問の輪の中に入れて教育する」という、キュクリオス・パイデイアに近い意味だったようです。「児童を学問の輪の中に」なんて、何か小難しい表現でございますけれども、これも要するに「一般教養」を意味する言葉だったようです。それを日本の哲学者である西周が「百學連関」と翻訳し、それが時代を経て「百科事典」などと言われるようになったようです。つまり、ペディアは教育や教養を意味する言葉なんですね。
ちなみにウィキペディアは、ハワイ語で「速い」を意味する「wikiwiki」から取った編集システム「Wiki」とエンサイクロペディアを組み合わせた造語でございます。
とにかくペディアは教育や教養を意味する。そして、エンサイクロペディアという形で日本に伝わったはずなんですけれども、日本人がペディアペディア言うようになったのは、やはりウィキペディアの影響が大きいと考えられます。いろんな人が当たり前のようにウィキペディアウィキペディア言ってますから、本当にビックなサイトなんだなあと痛感させられます。
その多大な影響のひとつとして、本の題名にもペディアが増えてきたように思えるんです。それまで、特定のジャンルの物事を辞書的っぽくまとめた本には主に「辞典」「事典」「図鑑」がつけられ、「大全」がそれに続く印象でした。そこに割り込んできたのが「ペディア」でございまして、ウィキペディアをきっかけに本の題名がペディアペディア言い出しているんです。例えば、「ディノペディア」でございます。
恐竜の百科事典だからディノペディアというわけです。ノリはウィキペディアと大体同じでございます。
もともとエンサイクロペディアは英単語でございますから、ディノペディアのように、英語やラテン語といった、アルファベットを用いた言葉と組み合わされがちです。しかし、日本で本格的にペディアが広がってくると、日本語とくっついたペディアがそこらじゅうから生まれていきました。「骨ペディア」がその一例です。
病気やその治療、診断など、骨に関する知識が集められた書籍でございます。
「くちペディア」という題名の本もございます。
ひらがな表記が可愛らしい題名ですが、歯や口など歯科医療情報が載っている真面目で実用的な本のようです。漢字表記にしなかったのは、「口ペディア」だと「ろぺでぃあ」と読まれて大変になりそうだからだと考えられます。
医学関係はペディアの名産地でございまして、「免疫ペディア」という本もございます。
こちらは文字通り免疫について書かれた本でございます。同じ免疫でも「がん免疫ペディア」なんて本もございます。
お気づきの方もいらっしゃるでしょうけれども、だんだん題名が長くなっております。まだ長くなります。続いては「皮膚疾患ペディア」です。
一見すると長いなあと思いがちでございますけれども、実は本家エンサイクロペディアと文字数が同じでございます。ペディアの名産地である医学関係はこれが最長かと申しますと、実はもうひと伸びします。ひと伸びした題名は「指定難病ペディア2019」です。
いよいよペディアに西暦がくっつきました。
2019年はこの書籍の発売日でございます。大体、西暦をくっつける本は毎年出版されるものが多いです。題名に「2024年版」などとくっつけるわけですね。しかし、「指定難病ペディア」は今のところ2019のみ発売されているようです。毎年出す計画はあったけど頓挫してしまったのか、それとも最初から2019のみ出す計画だったのか、現時点ではよく分かりません。
せっかくなので医学以外のペディアもいくつかご紹介します。例えば、「現代家族ペディア」です。
現代は家族もペディア化しているんです。アマゾンの書籍説明では一行目から「家族は『かぞく』に変わり『KAZOKU』になる」と、なかなかの飛ばしっぷりです。KAZOKUになっているならば、Kazokupediaでもよさそうなものですが、それだと家族のペディアだと分かりづらいと判断されたのでしょう。そうかと言って、現代家族ペディアのように日本語と組み合わせるとまだまだ違和感がある。とはいえ、それはまだ我々が日本語とペディアの組み合わせに馴染んでいないからであり、これからもっとペディアが広がっていけば違和感も消えてゆくのでしょう。つまり今は過渡期であり、言い換えれば馴染みかけている状態なのかもしれません。
似たような形式で「学級経営ペディア」という書籍も確認できます。
表紙では英語の題名も載っておりまして、「TEACHER'S ENCYCLOPEDIA」、つまりティーチャーズ・エンサイクロペディアとなってるんです。それでもよさそうなものなのに、なぜか邦題は学級経営ペディアでございます。より分かりやすい題名を追求した結果なのだと考えられます。ちなみに、学級経営ペディアは小学1年から6年まで出版されています。
「音響学入門ペディア」というペディアもあります。
「音響学入門」でもなく「音響ペディア」でもなく「音響学入門ペディア」なんです。音響学の入門書だけど、エンサイクロペディアっぽい一面もある本だから、両方を盛り込んだ題名になったと推測されます。
ペディアの進化形はまだまだあります。例えば「アコギで弾く! J-POP歌ペディア200」です。
アコギ、すなわちアコースティックギターで弾けるJ-POPの歌を200曲も取り揃えた本ということなんでしょう。しかし、題名でそんな長い説明をダラダラするのは分かりづらい。そこで、いろんな工夫で題名をグッと短く、分かりやすくしたのでしょう。その工夫のひとつとしてペディアを用いたわけです。
ご覧の通り題名はグッと短くなりましたが、それでも盛りだくさんです、英語と漢字と数字が乱れ飛んでおりまして、ペディアの中ではもちろんですが、本の題名としてもなかなか独特です。
ちなみに、今のところ、副題などを除いた状態で最も長い題名のペディアは「想像を超える海の非常識ペディア」だと思われます。
ウィキペディアの歴史を調べますとウィキペディアが公開されたのは2001年1月15日でございまして、日本語版が作成されたのは同年3月16日だそうです。
それから20年以上が立ち、じわじわと日本にペディアが広がってきた昨今、いよいよ来るところまで来た印象です。「想像を超える海の非常識ペディア」なんて、もうペディア前がほぼ文章です。
世の中には「長大語」と申しまして、とにかく長さにアイデンティティを持つ名前がチラホラございます。ペディアの中にもそのうち、長さに重点を置いたものが出てくるかもしれません。
ちなみに、題名読書感想文で以前、ダジャレ題名を集めたことがあります。当然の運命と言うべきか、ペディアにもダジャレがございました。それが「ごじゃっペディア」です。
「ごじゃっぺ」とは茨城弁で「いいかげん」や「でたらめ」を意味する言葉のようです。
ただ、ニュアンスとしてはもっと広い意味で用いられるようでございまして、その独特な用法からか、茨城弁の代表格とも言える単語なのだそうです。その「ごじゃっぺ」と「ペディア」をダジャレっぽくくっつけたわけですね。
ちなみに、パッと見では何のことかよく分からないペディアもございましたので、ラストにご紹介いたします。「あるある吹ペディア」です。
読み方さえ分かりづらい題名ですが、「吹」は「すい」と読むそうです。「吹奏楽」の「吹」ですね。つまり、吹奏楽部の「あるある」を集めたペディアのようです。
もともとは「みんなのあるある吹奏楽」という本が出ていまして、それがシリーズになったようなんです。シリーズ化すると、もとの題名にだんだんとひねりを利かせる場合がございますけれども、そんなひねりが蓄積した結果、独特なペディアに辿り着いたものと考えられます。
現在のところ、ペディアは日本語に根付いてきてはいるものの、まだまだ日本語とミックスさせると読者に違和感と申しますか、不思議な印象を与える題名になっているようです。しかし、それは先ほども書きました通り、日本語に馴染みきっていないからであり、現在進行形で馴染みつつある状態でもあると言えます。
軽く調べたところ、題名にペディアがつく本は今回紹介した冊数のおよそ2~3倍ほどあるようです。当然ながら、これからもペディア本は出版されるでしょうから、日本にペディアが完璧に馴染む日がいつか訪れるのではないかと考えられます。