パンサー尾形さんから見るお笑い芸人と教養番組との関係性
お笑い芸人のパンサーに所属する尾形さんがNHKで「笑わない数学」というガチ教養番組に出演しておりまして、7月13日からレギュラー放送がスタートされました。尾形さんと数学。お笑いが好きな人であればあるほど、食い合わせの悪さが目に付くでしょう。ミスマッチにも程があると申しますか。尾形さんのインタビュー記事を読みますと、ご本人が誰よりもミスマッチさを痛感しているようです。
お笑い芸人と言えば基本的には人を笑わすためにバカなことをひたすら追求する方々でございまして、学問に真正面から取り組んだ教養番組とは一見すると対極の位置に存在する人間です。しかし、その手の番組の芸人が主演することは往々にしてございます。その場合、芸人の立ち位置としては大きく分けてふたつのタイプがございます。
ひとつは「何も知らない人」です。司会の人に「これはどう思いますかね」と尋ねられ、誰でも言えそうな感想を答えたり、「いやあ、よく分かんないっすね」と言われてたしなめられたりする役割ですね。一般人の視点でものを言い、専門家の解説を聞いて感心するポジションとも言います。もちろん、芸人なのでウケを狙う場合もあります。比較的参入しやすいためか、このポジションに納まる芸人やタレントはよく見受けられます。
もうひとつは「司会者」です。番組で司会をするくらいですから、もちろんこちらは少数派で、往々にして知名度の高い方に限られます。しかも、教養番組ということもあり、普段はお笑いをしているけど博識なイメージもある人に限定される傾向が強いです。例えば、「100分de名著」の伊集院光さんですね。過去には又吉直樹さんの「又吉直樹のヘウレーカ!」、更にさかのぼるとビートたけしさんの「たけしの万物創世紀」などがございます。この手の番組にめっぽう強いのがタモリさんで、「驚異の小宇宙・人体」を始め、NHKスペシャルの司会を定期的にやられています。
今回の尾形さんがそのどちらかというと、どちらでもない気がするし、どちらでもある気もする。なんか不思議な立ち位置なんです。一応は、冒頭やラストで軽くいじられてはいるんですが、それ以外は教養番組の進行をタイトル通り笑いひとつ取らずやっていくんです。
NHKは何しろ地上波では教養番組を作る腕前が群を抜いていますから、本当にちゃんとしています。分かりやすい説明をするために心を砕きつつ、でもちゃんと見せるべき重要な数式は小難しかろうとバシッと出す。視聴者の気を引こうと余計な茶化しを入れることもない。尾形さんへの接し方もまた同じように思います。最初は数学の小難しさに困惑しつつも挑む尾形さんを見せる。間違えたら「違います」と指摘するなど軽くいじりはしますが、そこからは茶化しがほぼない、本格的教養番組がスタートします。尾形さんは他の番組でも見せるような、熱量たっぷりの口調で数学の説明をしてゆく。尾形さんのそばに専門家はいませんが、解説の映像やナレーションが彼をサポートします。
しかし、なんで尾形さんなんでしょうね。教養番組とのミスマッチを狙うならば、他にも芸人はいそうなんですが。そう不思議に思いながら検索したら、番組スタッフのブログが出てきました。
一部引用します。
本人のキャラクターを考慮してのキャスティングだったことが暗に示されていますね。確かに、「水曜日のダウンタウン」でどれだけ過酷な環境に追い込まれようとも全力で仕事をし、その様子がウケるのは尾形さん独特のものかもしれません。そして、尾形さんは数学の教養番組という過酷な環境にも全力で挑んでいる。まあ、「水曜日のダウンタウン」の追い込み方が縄で縛ってボコボコ殴るような感じだとしたら、「笑わない数学」の追い込み方は個室に閉じ込めて部屋の空気を徐々に抜いていくような感じに見受けられますが。
よほど日常的にドッキリを仕掛けられているためか、最初の打ち合わせでも尾形さんはドッキリを疑っていたとも書かれていますね。そんな気持ちで素数の話をしているかと思うと、お笑い好きな人としてはなかなかたまらないものがあります。そういうところも楽しんでほしいという意図が制作側にはあるのかもしれません。もしそうだとしたら、教養番組としては異質な楽しみ方ですね。
もちろん、教養番組としてはちょっと変わった芸人起用法でもあると思います。レギュラー化も納得ですね。「笑わない数学」は水曜日の23時開始、全12回の予定です。
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