すげえぜ鴎外パス
過去の偉人を冠した記念館が全国に存在しているんです。とりあえず、「記念館」で検索したところ、人名を冠した記念館で最も上に出てきたのは岡本太郎記念館でした。
このように、記念館の頭にくっつく人名は芸術関係で名を馳せた方が多いようです。具体的には美術とか、あとは文学ですね。
人名を冠した記念館には、当然ながらその人物にゆかりのある資料が揃っています。簡単なプロフィールから功績の解説はもちろん、作品を展示したり、仕事場を再現したり、生家をそのまま残してあるところもございます。会議室やイベントスペースの貸し出しをしていたり、定期的に企画展を開催しているところもあるなど、記念館と言っても内容は多種多様です。
例えば、東京都文京区は千駄木に森鴎外記念館がございます。
森鴎外と言えば小説家に留まらず、軍医や教育者としての活躍も知られる、日本文学界のビッグネームでございます。功績をよく知らない人でも名前は聞いたことがあるレベルに、抜群の知名度を今もなお誇っております。
区で運営されている施設でございまして、もちろん森鴎外についての展示が充実しています。ちなみに、森鴎外記念館は生誕地でございます島根県は津和野町にもございます。
更に、ウィキペディアを確認すると、ベルリンにも森鴎外記念館があるとのこと。
つまり、森鴎外はひとりで3館も持っている形となっています。3館達成は偉人の中でも限られており、さすが鴎外と言うほかありません。
さて、この手の施設は往々にして入館料が存在します。館の運営には費用がかかりますから当然と言えば当然です。もちろん、森鴎外記念館も入館料がございまして、文京区の方の公式サイトをチェックしますと、一般300円(20名以上の団体は240円)、中学生以下は無料、「身体障害者手帳」「愛の手帳(療育手帳を含む)」「精神障害者保健福祉手帳」をお持ちの方とその介護の方(1名)も無料と、公的機関らしい市民に優しい価格設定となっております。
その中に気になるものがございました。この手の施設には時折、有効期間内なら何度でも利用できる、いわゆる年間パスポートみたいなものが存在します。文京区の方の森鷗外記念館もまた、1年間利用可能なパスポートを1200円で販売しています。まさに年パスです。しかし、年パスの名前が「鴎外パス」なんです。
鴎外が亡くなったのは1922年、森鴎外記念館が開館したのは2012年ですから、没後90年が経っております。5年後の未来だってなかなか予想できないんですから、90年後の世界なんて鴎外と言えどもザックリ当てるのだって不可能に近いでしょう。それにしたって、まさか自分の名を冠した年パスが発売されるなんて、鴎外にとって想定外も想定外に違いありません。そもそも鴎外からしてみれば「年パスとは何ぞや」レベルでしょう。ビックリしすぎて私も森鴎外を下の名前で呼んでますし。
そこで気になったんです。他に偉人の名を冠した年パスはあるのかと。とりあえず、文学にしぼって、全国文学館協議会に参加している文学館の中から、人の名を冠しているものを片っ端から調べました。
果たして一葉パスや犀星パスは存在するのか。結論としては、鴎外パスのオンリーワンでございました。津和野町の方の森鴎外記念館は年パスを発行しておらず、ベルリンの方の森鴎外記念館は入館無料。まさにオンリーワンです。
そう考えると、鴎外パスは年パス界でも画期的なことなのかもしれません。そもそも入館料が無料という施設も多い中、年パスを売っている施設ともなるとかなり限られてきます。そんな年パスでも偉人の名を冠して売ろうと思わせるものが鴎外にはあったということでしょう。「すげえぜ鴎外」という畏敬の念を禁じ得ません。
尊敬の仕方が間違ってるかもしれませんが、とにかく尊敬しているとしか言いようがありません。ノリで鴎外パスを買ってみようかと思えるほどには「すげえぜ鴎外」と思っています。本当に。