呪い活用計画は失敗に終わる
ジョギング用のシャツをもらったんです。通気性がよくて、本当に爽やかに走れるんです。独特な青い色もすぐ気に入りました。そのせいか、ちょっと軽やかに走りすぎたようです。ジョギングコースで最も急な上り坂に差し掛かった時のことです。急に右のふくらはぎに激痛が走りました。肉離れです。とてもじゃありませんが、走れる状態ではありません。幸い、家まであと少しでしたので、足を引きずりながら歩いて帰りました。
しばらくは日々の運動を散歩で誤魔化していましたが、そのうち足の痛みも消えてきました。そろそろいけるかもと思いまして、私はお気に入りの青シャツを着てジョギングを再開したんです。コースを3割くらい走ったところで異変が起きました。再び、右ふくらはぎに嫌な痛みが。どうやら再開は早かったようです。私は足をひきずって、真っすぐ家へ帰りました。
せっかくの青シャツで、2度も肉離れを起こしてしまいました。しかも、この段階で肉離れ率100%を誇ります。これだけで人は「この青シャツが肉離れを誘発しているんじゃないか」と思ってしまいます。肉離れでへこんでいるならばなおさらです。理論的におかしいと思いつつも、青シャツのせいにしてしまいそうな自分がいるんです。3度目の肉離れを起こしたら、いよいよ青シャツの呪いだと考えるに違いない。いいシャツをもらったのに、何たることでしょうか。
ただ、こうも思いました。「着て走ると肉離れになる」という呪いがもしあったとしたら、肉離れになりたい時に使えるのではないかと。あんまり行きたくない用事ができた時にでも青シャツを着て走れば、肉離れを理由に欠席できるチャンスが生まれるわけです。足を使うタイプの用事だったら高確率で休める。仮病でもない。これは使えると思ったわけです。
こうやって活用法を思いついて自ら肉を離そうとする時に限って、いくら青シャツで走っても肉離れしないんです。呪いが発動しない。そんなもんないんですから当然なんですが、なんかガッカリです。せっかく肉離れ活用計画を立てたのに。
そこで思い出したことがあるんです。子供の頃に読んだ本で座ると死んでしまう呪いの椅子を知ってひとり怖がっていたんです。他にも世界には見たら死ぬ絵、使ったら死ぬ剣、入ったら死ぬ部屋などがあると知り、世の中にはそんなに死の呪いがあるのかとビビり倒したんです。
でも、今になって思うんです。世の中には様々な事情により、自らの手でこの世から去ってしまう方がいます。もしくは去りたくてたまらない方がいる。もし、死の呪いが100%発動するならば、この世から旅立ちたい方が利用しないはずがありません。事実、あの樹海もあの崖もそういう名所になってしまい、地元自治体が対策を講じるまでになっています。樹海も崖も旅立ち率100%ではないのに、名所になっている。呪い発動率100%ともなれば、例えば入ったら死ぬ部屋に入る人がちょこちょこ現れるに違いありません。名所化してしまって、地元自治体が問題視し、対策を練るはずです。
そんな話が出てこないところを考えると、やっぱりそういう呪いはないのでしょうし、あったとしても効果は100%に程遠いのでしょう。呪いの本を読んで震える過去の私に言ってやりたい話です。