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心理学で読み解く未解決事件の謎(なぜ犯人は捕まらないのか?)

第1章:なぜ未解決事件は人を惹きつけるのか?心理学的考察

 未解決事件——この言葉を聞くだけで、心がざわつく人は少なくないだろう。何年、時には何十年も犯人が捕まらず、真相が闇に包まれたままの事件。私たちはそうした事件に、得体の知れない恐怖とともに、抗えない興味を抱いてしまう。

 私もかつて、一つの未解決事件に心を奪われたことがある。幼い頃、テレビの特集番組で見た「行方不明の少女の事件」——当時の私はただの怖い話として受け止めていたが、大人になってから再び調べてみると、その事件には不可解な点が多く、関係者の証言も食い違っていた。「なぜ、これほどの情報があるのに犯人が捕まらないのか?」と考え始めると、いつの間にか事件の深みに引き込まれていた。

 本章では、なぜ未解決事件が人々を惹きつけるのかを心理学的観点から考察し、その魅力と恐怖について掘り下げていく。


1. 人間の本能としての「謎を解きたい欲求」

 私たちは本能的に「わからないこと」に対して興味を抱く生き物だ。これは心理学において「情報ギャップ理論」として知られる。人間は、知っていることと知らないことの間にギャップが生じると、それを埋めようとする欲求が生まれる。

 例えば、映画や小説のミステリー作品が人気を博すのもこの理論によるものだ。未解決事件は、現実世界における究極のミステリーであり、答えの出ていない「未完の物語」だからこそ、人々の関心を引き続けるのだ。

 「次に何が起こるのか?」「真相はどこにあるのか?」という疑問が尽きない限り、人はそれを追い求めてしまう。私があの少女の行方不明事件について調べ続けたのも、まさにこの心理が働いていたからに違いない。


2. 恐怖と好奇心が生み出す「スリル」

 未解決事件には、単なるミステリー以上の要素がある。それは「現実に起こった出来事」であり、フィクションではない点だ。犯人がまだ捕まっていないという事実は、「もしかしたら自分の身近にも潜んでいるかもしれない」という不安を引き起こす。

 心理学者ジークムント・フロイトは、人間には「タナトス(死への衝動)」と呼ばれる無意識の欲求があると述べている。これは、危険なものに惹かれる本能とも解釈できる。ホラー映画や都市伝説が好きな人が一定数いるのも、タナトスの影響だ。

 私がテレビで見た未解決事件の再現VTRに釘付けになったのも、恐怖と好奇心が入り混じったスリルを感じていたからなのかもしれない。そしてそのスリルこそが、多くの人々を未解決事件の世界へと引き込んでいくのだ。


3. メディアとネット社会が加速する未解決事件への関心

 未解決事件への関心が高まる背景には、メディアの影響も大きい。テレビの特番やドキュメンタリー番組だけでなく、YouTubeやSNSでも未解決事件を扱うコンテンツが増えている。特にネット掲示板やX(旧Twitter)などでは、一般人が「探偵気取り」で事件を分析し、独自の考察を展開しているのを見かけることが多い。

 心理学的に見ると、こうした「自分も事件の解決に関与したい」という欲求は「代理的満足」と呼ばれる現象に関連している。他者の経験を通じて、自分もその一部になったような気分を味わうことができるのだ。

 例えば、ある未解決事件の謎をネットで考察し、共感を得ることで「自分もこの事件に貢献している」と錯覚する。この感覚が、さらに深みにハマる要因となる。


4. 犯人が捕まらないという「不公平感」

 人間には「公正世界仮説(Just World Hypothesis)」という心理的傾向がある。これは「世界は公平であり、悪いことをした者は罰せられるべきだ」と考える傾向のことだ。

 しかし、未解決事件はこの公正世界仮説を裏切る。「なぜ犯人が捕まらないのか?」「なぜ被害者だけが苦しみ、加害者は自由なのか?」という不満や憤りが、人々の関心をさらに煽る。特に、被害者側の視点に感情移入したとき、この気持ちは強くなる。

 私も、かつてある事件の遺族のインタビューを見て、怒りを覚えたことがある。残された家族が涙ながらに「どうか犯人を見つけてください」と訴える姿を見たとき、「こんなことがあっていいのか?」という気持ちが込み上げてきた。未解決事件に興味を持つ人々の中には、こうした「正義感」から事件を追い続ける人も多いのだ。


5. まとめ—未解決事件の心理的魅力と、その先にある真実

 未解決事件が人を惹きつける理由を、心理学的な視点から解説してきた。

  • 「謎を解きたい」という本能的欲求。

  • 恐怖と好奇心が生み出すスリル。

  • メディアやネット社会の影響。

  • 公正世界仮説が裏切られることによる不公平感。

 こうした要因が複雑に絡み合い、私たちは未解決事件に関心を抱かずにはいられないのだ。

 しかし、ここで重要な疑問が生まれる。なぜ、これほど多くの人が関心を持ち、時には事件の分析まで行うのに、それでも未解決のままなのか? そこには、心理学的な盲点や捜査上の落とし穴が隠されている。

 次章では、未解決事件が解決しない理由を、犯人の心理や捜査の盲点から掘り下げていく。 事件の背後に潜む「見落とされがちな要素」とは何なのか? その答えを探っていこう。

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