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新作落語脚本展示場(12)『オムライス根問』

私のサイト「なかむら記念館 落語別館」がこの3月末をもって閉鎖するため、そこで公開していた新作落語脚本を順次noteに移してまいります。
これを含めてあと2本、エクストラ編を加えると3本。

12本目は『オムライス根問』。2017年1月公開。持ち込み用に作った小咄程度の掌編です。

 ~ ~ ~

<登場人物>
・ご隠居
・八五郎

 ~ ~ ~

八五郎「ご隠居、オムライスのことなんですがね」

ご隠居「何事だい八っつぁん、いきなり」

「オムライスの『ライス』は飯のことだと分かりますが、『オム』ってのは何です?」

「何かと思えばそんなことか。八っつぁんはオムレツを知らんか」

「オムレツ? あの卵を溶いてはんぺんみたいにした?」

「食べ物を食べ物で例えるな、ややこしい。まぁそうだ。
あのオムレツがごはんに乗っているからオムライス。
つまり『オム』とは卵のことだ」

「なるほど、すると『オム』が付く料理はみんな卵ですか。
では『オムすび』ってのは、ありゃ卵料理ですか?」

「あ…あれはその、形状が卵に似ておる。だから卵料理だ」

「苦しいね、どうも」

「偉そうに仰るが、八っつぁんはオムライスの元祖を知らんだろ」

「元祖?  オムライスに元祖だの本家だの、土産物屋みたいなのがあるんですか?」

「オムライスの元祖は東京銀座の『煉瓦亭』という洋食店だ。
しかし『煉瓦亭』のオムライスは具入りの卵焼きのような料理であったというな」

「そうなんですか。随分変わっちゃったもんだねぇ。
変わったと言えば、最近のオムライスってのは、どの店に行ってもみんな卵がフワフワのやつばっかりで、昔みたい に卵の皮でくるんだやつはとんとお見限りですよね。
ありゃ一体全体、どうした訳です?」

「確かに最近はどこも卵がフワフワしておるな。
あれはまぁ、流行のようなもんだ」

「流行ですか。私なんざぁ古い人間ですから、昔ながらのくるんだオムライスの方が好みですよ。
あのフワフワが乗っかってるだけのやつはどうも…」

「いやいや八っつぁん、あの形だから流行ったんだ」

「そうですか?」

「ああ、流行なんてのはみんな、乗っかるもんだ」


 <完>

 ~ ~ ~

「根問(ねどい)」とは、ここでもたびたび出てきた落語形式で、2人の会話によってワンテーマを掘り下げる噺のこと。
定型なので初心者には作りやすいかも。

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