隣人のゴキブリを駆除した。そんな夏の思い出。
いつも通り大学から夜9時過ぎに帰宅した。その日は気分が良かったのか悪かったのか分からないが、酒とつまみを買い、そのまま風呂にも入らずに酒を飲んでいた。
だが飲み始めてから10分ほどしたころ、いきなりドアのチャイムが鳴った。最初は「こんな時間に誰だよ」と腹立ったのだが、僕の性格上すぐにネガティブな気持ちに変わってしまうので「なんかクレームかな」「申し訳ないことしたな」と思いながら恐る恐るドアを開けた。
すると目の前には可愛らしい
フクロウみたいな顔をした女性が立っていた。
僕は「どうかしましたか?」と聞くと小さな声で
「ゴキブリ駆除できますか?」
とその人は言った。この人は隣に住む人であった。初めて見たので判らなかったのだ。僕はてっきり何かを注意されると思っていたため、拍子抜けしてしまった。そして「そんなん自分で何とかしろよ」と思い断ろうとしたところ、こんな時間に尋ねたということは自分で駆除できないんだと察したので、面倒であったが依頼を受けることにした。
靴を履き、隣人宅に向かう数秒間の間に「隣人の若い女性から“ゴキブリを駆除してほしい“という三流漫画、アニメ、ドラマにしかない非現実的なシチュエーションしか見たことがないな」ということを考えていた。
そうして久しぶりに1人暮らしの女性宅の入ったのだが、あまりにも自分の部屋との清潔さに驚くと同時にどうやって寝返りするんだと言わんばかりにぬいぐるみがベットの上にあった。それと同時に床一面にジュースがこぼれたままであった。
そしてどこにヤツがいるのかを聞いたところ、天井にポツンと確かにヤツがいた。そしてゴキブリを何とも思っていない僕は脚立と少し長めの両面テープを手に付け、数秒でヤツを外に逃がすつもりで捕まえたと思ったのだが、逃げて部屋を動き回れたら厄介だという気持ちが勝ってしまい、潰すような形になってしまった。
まだ少し動いているヤツを見て申し訳ないことしたなと思ったが、少し後ろに立っていた女性からとてつもない勢いで感謝された。その後、たわいもない話をした後自分の部屋に僕は帰った。
そうしてまた酒とつまみに手を出した。
「あれ?」
「三流作品だとこの後には作り過ぎた料理や何かケーキやプリンの1つぐらい貰えるか展開だな」と安い発泡酒を飲みながら考えていた。
それから1週間が経った。それからなんの音沙汰も無い。姿を見てもない。「上手くいかないもんだな」と飯を食いながらこのことを知り合いやバイトの人にこの話をした。するとみんな揃って「そんな展開って本当にあるんだ?」と同時に「その後何にもなかったの?」とも言われた。やはり周りにいるみんながこんな経験などしたことないので驚いていた。
だが現実はこんなものである。虫を1匹駆除したところで自分に好意を持ってくれる人を見つけることなどできる訳がない。
そのようにこんな話をバイト先で諦めた後、今の学生はゴキブリをティッシュやテープ1枚で駆除する人は稀だということもわかった。頑張ってゴキジェットを使うか誰かに頼るからしい。圧倒的にゴキブリに触れることができる人が少ないらしい。蜂よりも苦手という声が多いことに驚いた。
「なんで害のない方が苦手なんだよ」と思いながら掃除当番であった為、掃除をしていたところゴキブリがバイト先のバックルームにいた。今までは駆除しようと思い、逃したり、駆除したりしていたのだが、今回は見つからない所に逃している自分がいた。
なぜこんな対応を取ったのかは未だにわからない。そんな夏休みのほとんどを大学のゼミ室で1人で過ごしていた大学生の唯一の思い出であった。ちなみに夏休みにイラついた1番のことはあまりにも半導体不足で部品の納期が遅れていることで、研究の進みが遅くなったことだ。
読んでくださりありがとうございました。
(2022/09/04)