ジョブ型雇用を考える。職種別採用を機能させるには人材マネジメント全体の俯瞰が必要?!
過去のジョブ型雇用の記事の続きものということで、今回は「職種別採用」について取り上げたい。
ジョブ型雇用は、「仕事内容(ジョブ)と処遇(報酬や働き方)を明確にしたうえで会社と社員の合意により成立する雇用形態のこと」である、と前回整理した。
仕事内容を明確化したうえで会社・社員が合意する必要があるため、採用も自然と職種ごと(ジョブごと)に行われることになる。
これ自体は何も目新しいことではない。中途採用では、従来から、求人票や職務記述書(ジョブディスクリプション)などが作成され、ジョブを明確化したうえで、そのポジションに適切な人材を市場から見つけ出そうと、エージェントなどを利用しながら人材獲得に各企業が腐心してきた。
この職種別の採用を、新卒採用においても全面的に導入しようというのが、近年の新たな試みといえるだろう。
従来、新規学卒者の採用は、「総合職」「一般職」といったかたちで行われ、職種自体の区別(営業、SE、コーポレートなど)は基本的にはなされてこなかった。
これは、キャリアや将来のビジョンについて必ずしも明確なイメージがない若い新入社員の実情と、順繰りに異動・昇格を行うことで人員の欠員を補充する玉突き人事により要員管理をしてきた伝統的な日本の企業のニーズに、共に合致したものであり、それが一つの日系企業の競争力を形成してきたとも言える。
しかし、時代は変わり、学生の頃からキャリアの方向性を見定め、早期に特定領域の専門性を深めたいと希望する新入社員が一定規模で顕在化してきた。
また、データサイエンティストやサイバーセキュリティのような、いわゆる「ホットジョブ」と呼ばれるジョブにおいては、その人材獲得競争は極めて熾烈であり、ジョブごとに特別な処遇を設けなければ、企業の事業競争力を維持・向上させる優秀人材の確保は難しくなっているのが実状である。各社が特定領域の高い専門性を有する人材に対して、特別な処遇を設定するケースもしばしばニュースをにぎわせている。
こうした新入社員と企業、双方のニーズの変化があいまって、新卒採用についても、職種別に採用を実施する動きが活発化している。
KDDIでは、OPENコース(従来の総合職の位置づけ)とWILLコース(職種別採用)を設け、新入社員がいずれかを選択できる仕組みを取り入れている。自身のキャリアややりたいことが見えていない学生にも配慮した採用のしくみであるように思う。
2021年4月入社は約4割がWILLコース(職種別)であったが、2022年4月には5割となる見込みであり、職種別採用が学生にも浸透しつつあるようだ。
徐々に浸透しつつある職種別採用だが、懸念点もある。
一つ目は、本人のキャリア志向の変化への対応だ。
新規学卒時点では自分に合っていると思ったキャリアの方向性も、実際に働いてみると、違和感を感じたり、より自分に向いていそうな道を見つけたりすることで、職種を変えたいとう希望を本人が持つことは十分あるだろう。そうした際に、社内公募制のような本人希望で異動ができる仕組みがあれば、自社内での「転職」が可能になり、人材の流出を一定程度抑制できると考えられる。入社の時点で職種を選択するほどキャリアへの意識が強い人材であれば、(社外への)転職も容易に選択しやすいと考えられるため、本人希望に柔軟に対応できる制度を整備していくことが、人材の中長期のリテンションには重要なポイントとなるだろう。
二つ目はマネジメント人材の育成(サクセッションプランニング)だ。
管理職、特に複数の事業・機能組織を横断して管掌するようなトップマネジメントには、多様なキャリア経験が求められる。
従来の日系企業であれば、会社都合の異動を複数回重ねることで、一定の多様なキャリア経験を社員に積ませることができた。その中で早期に昇格が見込めそうな優秀人材に対して、マネジメント登用への白羽の矢が立つといった手はずだ。ただし、こうした日本型のマネジメント人材育成方法は、必ずしも戦略的・計画的なものではなく、場当たり的に異動を行った結果、偶然そうした人材がみつかる、といったケースが多いのが現状かと思う。経営・事業の戦略などに応じて必要な人材を狙って育成するといった意識が必ずしも強くないのが実状ではないだろうか。
こうした、網羅的で強制的な会社都合の異動により、自然とマネジメント人材が「みつかる」といったことは、ジョブ型雇用における職種別採用では起こりにくい。入社時から職種が定まり、本人合意がない限り異動が原則発生しないため、経験の幅は狭くなりやすいと考えられる。
そのため、従来以上に、戦略的・計画的にマネジメント人材を育成していく重要性が高まる。自社の経営・事業に必要な人材像とそれに必要な経験を早期に定義したうえで、本人合意/本人希望に基づく異動により、多様な経験を積ませていく必要がある。
職種別採用それだけでは、ジョブ型雇用における人材マネジメントを、十分に機能させることは難しい。社内公募制やサクセッションプランニング(経営・事業に合致したマネジメント人材の定義とその戦略的・計画的な育成)など、他の施策との合わせ技により、初めて十分な機能を果たす。
盲目的に職種別採用に走るのではなく、視座を上げて人材マネジメント全体を見渡した上で、自社に必要な施策を検討することが肝要になるのではないだろうか。
※(前回もとりあげたが)本書で触れた人材マネジメント全体として機能するジョブ型雇用の詳細については以下の本が参考になる。ご興味がある方はご覧いただければと思う。
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