都会の暮らし・未来を変える都市農業のポテンシャル(後編)
分割になりました前編では、
・都市農業と地方農業の違い
・農業が、都市のエリア価値を高める可能性
を紹介させていただきました。
後半は、都市と農業の関係性をもっと掘り下げて、具体的な取組も紹介したいと思います。
1.自然を求める本能
そもそも。都市環境が人工的になると、人は「自然を求める行動」をとることが分かっています。
例えば
①自然と身体の関連性
広島大学の田中教授は、横浜・川崎を舞台に
「都市環境の人工化が人間の健康に及ぼす影響」の研究で、都市部で自然が豊かなほど、精神が健康である相関を示されています。
②購買意欲の変化
他にも、人口密度が高くなると植物などを買う行動をとることも分かっていたり、
※資料は共に都市農地活性化支援センターより
③幸せホルモンの増加
農作業に至っては、ストレス増加ホルモンが減少して、幸福度が高まるホルモンが増えることも、JA全中と順天堂大学によって実証されてます。
つまり人口密度が高く、人工的な都市環境では、より自然や農業に対するニーズは高まることが、明らかになっていると。
2.歴史にみる都市 × 農村のコラボ
この行動は目新しいことではなく、歴史からも垣間見えます。
こちらは1898年に出版・1902年に改題再版された、今も読み継がれるエベネザー・ハワード著「明日の田園都市」を少しご紹介です。
①都市と農村の結婚
舞台は、産業革命で都市化が進むイギリス。
工業化が進む都市。人口が集中して、便利だけど高い家賃、遠距離通勤、そして生活環境の悪化や失業、スラム化のリスクも。
一方で農村。美しい風景はあるけれど、閉鎖的なコミュニティと農業による低賃金・長時間労働。ある種の停滞した生活を余儀なくされてました。
それぞれの短所を補い・長所を分かち合う、経済的に自立する都市があっていい。「まちと田舎が結ばれなけらばならない」と、新たな選択肢のタウンカントリー(田園都市)が提案されました。
②今も活きるアイデア
もちろん時代背景や国も違うので、何もかも通ずるわけではありませんが、当時から素敵なアイデアが散りばめられています。
実際に図面にされた田園都市のアイデア。
すごく一部ですが、こんな提案がされています。
・住民で支払う地代で街を維持する
・流通ロスや交通量、電力を極力抑える都市設計
・廃棄物を農業に活用して一大産地も維持する
・職住近接で緑や公園に囲まれ、学校も近くに
・公共施設は礼拝堂や学校、集会所も複合利用
・地元で高単価な製品を作って域外へも販売
※高賃金を維持して薄利多売を防ぐ
公共施設がコンパクトにまとまって、障害者の方向けの施設や農園も考慮されてます。
輸入に頼らないことで、輸送費やマージンも抑える工夫を、ということまで書かれています。
改めて都市の生活を考えると、気付かされること、大切なことが多いです。
③本当の富とは
そして興味深いものを抜粋しますが、
公と民の明確な線引きはなく、その領域は実験により探し求め、絶えず変化を続ける。
公共領域は、コミュニティや時代ごとで組み合わせ、増やしたり減らしたりする誠実さと責任の所在を明らかにする組織づくりが必要。
そして大都市は、今の形で永続的に続くと無条件に考えてはいけない。富は儚いもので、ハードは50年程度しか持たない。
人間の健康と幸福にとって何が望ましいかを考え、それを上手く生産できるよう人々を組織する。富とは、文化と景観なのかもしれない。
都市経営に重要な要素である、公民連携や組織づくり、文化や景観にも言及しています。
エベネザー・ハワードは計画に終わらず、その後にレッチワースやウェリンといった田園都市を実現しました。
お気づきかもしれませんが、日本では渋沢栄一に影響を与え、田園都市株式会社(のちの東急)を設立。たまプラーザに代表されるような「多摩田園都市」が開発されました。
奇しくも人口減少やコロナ禍で、郊外の在り方・暮らし方が重要になっているのは確か。
改めてハワードの田園都市から、多くの示唆があると感じています。
それでは、これまで紹介した点について、具体に取り組まれている事例を紹介させてください。
3.都市と農業の融合に挑むまち
都市と農の価値の最大化を目指す、東京都国立市にある「NPO法人くにたち農園の会」と「株式会社 農天気」の皆さま。
「農の未来をもっと面白く」のコンセプトで都市農業にある6つの価値「食・結・学・癒・遊・美」を活かした独自の田園都市を創られています。
◆取組
貸農園やイベントなどコミュニティ農園を中心に
・地域のママ・パパと子育て支援
・大学生が運営する農泊体験
・これらを複合させた体験型観光
など、農を「拠点」に幅広く活動されています。
◆個人的に素敵な点
①的確なキャッシュポイント
収穫後の野菜は鮮度が落ちて続けるため、収穫の瞬間が1番美味しくて価値が高い(例外あり)。その強みと集客力の強いコンテンツを組み合わせて、付加価値の高いサービスを提供されています。(畑で婚活や大人の田んぼ倶楽部など)
一方で、保育や放課後クラブなど子育て支援は利用し易い料金設定で提供されています。
しっかりと収益も確保するからこそ、公的なサービスも含めて、持続可能な経営が可能になるのだなと感じます。
②地域との関係・資源の再構築
地域のママ・パパ、大学生など、経営者である小野さんに賛同される方が一緒に活動されてます。
畑の近くにあるアパートをリノベーションした、学生が運営するゲストハウス。古民家を活用した、地域の方による子育て支援拠点も。
元々地域にあった田畑や住宅、その資源を地元の人たちと共有して、畑"単体"でなく、エリア一帯の価値を高めています。
都市経営でも農業でも、木を見るのでなく「森」を見ることが、ホントに重要ですね。
③日本の課題を見据えた経営
こうした取組で意識されているのは
・職、住、食、学が近接する田園都市モデル
・子どもが多く、多文化が共生する街へ
・行政に頼るより、むしろ支える地域事業
ニューノーマル、少子高齢化、人口減少、財政難など日本が迎える課題へアプローチすることで、将来まで選ばれる街を目指しています。
もともとドイツの学園都市ゲッティンゲンをモデルにしている景観の素晴らしい国立市ですが、それをより進化させるポテンシャルを感じました。
小野さんの取組はこちらでも紹介しております。
詳しくはこちらから是非!
※川崎市での講演動画・資料、出版書籍です。
4.農のあるリノベーションまちづくり
続いて、埼玉県草加市のリノベーションまちづくりと、そこに参画される地元農家さんで、小売店舗も構えるChavi Pelto(チャヴィペルト)さん。
◆取組
草加市は、平成27年度からリノベーションまちづくりをスタートさせ、2年後に「そうかリノベーションまちづくり構想」を策定。なんと、この構想に「農」を含めていることが、大きな独自性のひとつ。
◆個人的に素敵な点
①都市農業に見せる「本気」
まず構想の上位概念に「農」が含まれているのは、私は他のエリアで見たことがありません。
例えば、リノベーションまちづくりは行政だと、都市計画や商業振興の分野。農業は扱う法律が全く違うので、国はもちろん自治体も、部署がほぼ分かれていることでしょう。
すると残念ながら、政策に連続性や一体性といった繋がりがなくなります。ところが草加市さんは
ベッドタウンにおける新しい都市型コミュニティの形成を図り、地域に暮らす 一人ひとりに合った、快適な暮らしのスタイルを創造する。
と構想に方向性を示すことで、人が都市でどんな暮らしをしたいのか、という視点で「農」を含めているので、不要な縦割りを無くしたアプローチを可能にしています。
そしてリノベーションまちづくりの部署と同じ部内に「都市農業振興課」を新設されたことにも、その本気度が伺えます。
②まちづくりに賛同される農家さん
草加市で農業を営むChavi Peltoさんは、野菜とデリの部門でオーガニック認証(JAS有機)を受けられています。
まずオーガニック認証は厳しい検査をクリアする必要があり、簡単に取れるものではありません。しかも都市部で、安心・安全かつ新鮮野菜が購入できるのは、とっても大きな魅力。
その経営だけでも素晴らしいことなのですが、行政の構想にも賛同されて、生産された野菜を地域の飲食店や、リノベーションまちづくりで創業したお店にも提供。
すると「オーガニック野菜を食べられるお店」として差別化されることで、地域の魅力に相乗効果が生まれています。
③地域の繋がりを育てるチームワーク
昨年の視察でお話を伺って、地域住民・土地所有者・農業者・商業者・行政職員と、時間をかけた丁寧なコミュニケーションによって
コアメンバーが「自分たちのまちは、自分たちで良くしよう」という想いが、同じ方向を向いているのを肌で感じました。
地域で世代を超えてコミュニケーションを取り続けるのは、大変なことも多いはず。
でもそこを大切に、コツコツ積み上げた信頼関係があるから、事業が大きくなっても揺るがない、そんなまちづくりに発展するのだと感じました。
5.それぞれのグリーンリノベーション
2つの事例を紹介しました。都市のなかで農を活かしたまちづくりには、大きな可能性があると感じています。今後も注目していきたい!
さらに都市農業は、教育としての意義もすごく大きいと感じています。
都会で暮らしていると普段食べているものは、お金を払えば当たり前に手に入ると思いがち。
そこには野菜やお肉を一生懸命つくってくれている人がいる。そんな産地に支えられないと、都市の生活はまず成立しません。
好きなものを食べられるのは何故か。
その成り立ちを、農業を通して知ることは、都市と地方の補完関係を認識する大切なきっかけになるのです。
こうした都市間のデザインは、デンマークの事例でも紹介しているので、ご興味あればこちらも!
そして、川崎市でも農家さんや周辺の皆さんが、地域を変えようと動き出されています。例えば、昨年お仕事でご一緒させてもらった
若手農家チームで都市農業をブランディングする「畑から、台所へ。」の皆さん
川崎産ワインの醸造や、地産地消で農業に新しい可能性を追求される「カルナエスト」さん
農地が少ない都市部で、集団営農で大規模化して高品質の野菜を提供する「レインボー農人」さん
農家さんと管理栄養士さんによる、
かわさき野菜のレシピも作っていただきました。
都市農業だからこそ、産業として、まちづくりとして、色々なカタチがあって良いはずです。その「価値」を「地域」と掛け合わせて、如何に高められるか、次の世代にバトンタッチできるかが重要だと感じます。
農業は食から教育など様々な分野に繋がる、ポテンシャルの高い産業。少し視点を広げるだけで、今までになかった価値を生み出すことができる。
そして、私たちの生活に本当の豊かさを与えてくれるのは、身近にいる地域の生産者や小売店の皆さんであり、その感謝を。
そのことを皆さんと共有したく、前後編にわたって書かせていただきました。
読んでいただけて、とても嬉しいです。今回も、ありがとうございました!!
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