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王神愁位伝 プロローグ 第1話
<あらすじ>
所有者の願い全てを叶える伝説の書物、「王神愁位伝」。
人々が太陽族・月族に分かれ争いが絶えない世界で、「王神愁位伝」は人々の欲望を掻き立て、数々の悲劇を生んできた。
そんな世界で、名もなき非力な少年は全ての記憶を失くし、月族の奴隷として虐げられる日々を過ごしていた。
しかし”とある出来事”により、奴隷の生活から抜け出し太陽族で保護される。
そこで出会った仲間たちと共に、「王神愁位伝」によって生まれた数々の悲劇に巻き込まれ、争いの裏に隠された真実が明らかになっていく。
謎多き少年はこの世界の破壊者か、それとも救世主となるのかー
希望と絶望が交錯するダークファンタジー。
<領地図>
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<主な人種>
![](https://assets.st-note.com/img/1721737573985-6PcOVwu0yJ.png?width=1200)
<言い伝えられている簡易年表>
![](https://assets.st-note.com/img/1721741568697-O86s3xdEQK.png?width=1200)
第1話 〇喜
{ 皇の印典 一節 }
この世界の空には神々が住んでいる。
ー 灼熱のごとく光輝き、大地を明るく照らす太陽神。
ー 静かに優しく輝き、冷たい空気を大地に届け、休息を促す月神。
偉大な二神はある日、この世界に興味を持ってしまった。
火・水・雷・風の自然現象から始まり、木や花、虫や動物・・・中でも、人間。二神が一番興味を持ったのは人間だった。
基本この世界に存在するものは、神々が想像している域を中々超えてこない。大体は想像通りに動く。
しかし人間は、たまに神々の想像の域を超えた行動や結果を導いてきた。
そんな人間を特に二神は気に入り、許しを得て人間の右腕にとある印をつけた。
ー 太陽神は、太陽の刻印。
ー 月神は、月の刻印。
どの人間が自分の印をつけた人間なのか確認し、観察するのが二神の楽しみになった。
いつもの日常に飽き飽きしていた二神に、人間はどんな娯楽を提供してくれるのかと。
二神がこの世界を観察し始めて100年経った頃から、人間は右腕の刻印ごとに族を作り、太陽族と月族で対立をし始めた。
どうも人間である私たちは、自分たちの族こそがこの世で一番優れた種族だと示したがる。証明するため、誰もがあの書物を欲望のまま求めて彷徨うのだ。
対立が発展し、500年を経った頃からは、戦争を起こしている。
度々休戦など交えているものの、再度戦争は勃発し続け、千年過ぎた今も太陽族・月族は争いあっている。
{ 皇の印典 一節 終 }
"アオ―ン・・・アオ―ン・・・!"
この世界の北東部。暗い暗い森の奥。
所々から、狼たちの遠吠えが響いている。
森が鬱蒼と茂る辺鄙な場所に、高くそびえ立つ塔の一角があった。
その一角の建物は、木のつるなどの植物で作られているのが特徴的だ。
中の敷地には左右に2つの塔と、中央に大きな高い塔が並んでいる。3つの塔とも苗木を土台として造られ、ツタなどが絡みついていた。
地面も芝生で覆われ、新緑の香りを漂わせるが、木々が空を遮っているため、敷地全体が薄暗く何処か物騒な雰囲気をかもしだしていた。
両端にある2つの塔の東側。
——耳をすますと、子供が息を殺しながら泣く声が聞こえてくる。
その塔は細長く、頭部はまるで鳥の巣のように大きな円形になっている。
この塔に入ると、大人1人が登れるくらいの長い螺旋階段が続き、登りきると頭部の部屋にたどり着く。その部屋は2~30人と居られるくらいの広さだ。一切ものはなく、あるとすれば数枚の毛布くらいだった。
また、塔の中のどこもかしこも木のつるや枝で覆われ、暗闇が広がっている。窓など見当たらない。
そんな場所に、30人くらいの子供たちが閉じ込められていた。大体5~15歳くらいの子供たちだろうか。皆幼いという共通点の他に、子供たちの右腕には太陽の刻印があり、右肩には大きく数字が刻まれていた。
「・・・ふ・・ふぇ・・・」
「・・・お・・・お母さ・・・ん・・・」
「ぅう・・・ぐすっ・・・」
子供たちは薄汚れた茶色の服を着て、顔を歪ませている。
そんな泣いている子供たちの中で、隅っこに体育座りをしている少年がいた。
他の子供たちと同様、茶色の汚れた服を着て、右腕には太陽の刻印がある。茶色の服から見せる痩せ細った右肩には、大きく数字の3が刻まれていた。
しかし、その少年は他の子供たちのように泣きもせず、無表情のまま座っていた。
特徴的な鮮やかなオレンジ色の髪は、手入れをしていないこともありボサボサである。しかし、黄色に輝く瞳と相まって太陽を彷彿とさせる外見であった。
そんな黄色い瞳は生気を無くしたように瞬き一つせず、感情など持ち合わせていないかのように虚ろだ。
泣きべそをかく他の子供たちなど気にも止めぬように、その少年は微動だにしない。
"ダン・・・!ダン・・・!ダン・・・!"
すると、塔の細長い階段から豪快な足音が聞こえてきた。
木の苗が複雑に絡まったこの階段は、歩きづらさを極めているが、そんなことは今の子供たちには関係ない。
子供たちの問題は、その足音が近づいていることだ。
「ひっ・・・!」
「あ・・あ・・・」
近づく足音に子供たちは余計に怖がり始め、声にならない悲鳴と絶望感を漂わせる表情を浮かべる。
"バンッッッッッ!"
暫くして、この部屋唯一の扉が荒々しく開いた。
真っ暗な部屋に入ってきたのは、小麦色の肌に銀髪が特徴の青年だった。
顔の真ん中に横長の傷跡があり、鋭い黄金の瞳は怖がる子供たちの恐怖心をよりかきたてた。
その青年の右腕には月の刻印があり、なによりその青年の頭と尻には、銀色の毛で覆われた大きな耳と尻尾がついていた。人の形はしているものの、まるで狼のようだ。
また、その狼の青年の周りには、同じく銀色の輝く毛で覆われた狼が3匹いた。全体は銀色の毛で覆われているが、尻尾や足の先は深い青色であり、綺麗なグラデーションになっていた。
子供たちの10倍以上はあるのではと思わせる大きな身体と、その大きな口から覗く鋭い牙は恐怖心を煽る容姿だった。
狼の青年は、震える子供たちをギロッと見て機嫌悪そうに舌打ちをついた。
「っち。なんで俺がこんな下等種族の相手をしなきゃいけねぇんだよ。今すぐにでもこいつらを嚙み殺してぇのに。」
イライラしながら狼の青年は手を床につけると——
”ドドドドド・・・”
苗木でできた床が動き出し、中からトゲの付いたつるをが伸びてきた。そして、あっという間に鞭のようなものが完成していた。
出来た鞭を、狼の青年はイライラしながら床にたたきつけた。
"パァァァン!!"
「おい!クソども、労働の時間だ!!番号順に並べ!!」
狼の青年は大きな声を上げ子供たちに向かって言うも、子供たちは余計怯えきって立てずにいた。その様子に痺れを切らし、狼の青年は鞭を子供たちにあげようとする。
しかし——
"ザッ"
「あ?」
いつの間にかオレンジ髪の少年が、狼の青年の目の前に立っていた。
オレンジ髪の少年は、狼の青年や大きな狼など恐怖も感じないという表情で、じっと見つめていた。
「・・・サンバン。」
「・・・あ?」
オレンジ髪の少年がボソッと言う。
「サンバン。俺のバンゴウ。」
感情など失くしたような黄色い大きな瞳でじっと見つめられ、狼の青年はどこか居心地の悪さを感じた。
「てめぇ・・・。」
興がさめたように狼の青年は一旦鞭を下げるも、黄色い瞳を向け続けるオレンジ髪の少年に痺れを切らし、鞭をあげた。
"パァァァン!"
「・・・っ」
"ドタッッッ!"
見事に少年の頬に的中し、その場に勢いよく倒れる。
「ったく!てめぇらみたいな下等種族が!俺たちをジロジロ見るんじゃねぇ!!」
興奮しているのか、狼の青年は耳と尻尾をピンと立てていた。
狼の青年が怒鳴ると同時に、周りの子供たちは更に泣き始めた。
「うっせぇんだよ!!さっきからピーピー!!」
さらに狼の青年がイライラしていると——
"ムクッ"
オレンジ髪の少年が起き上がり、痛そうな表情もなく、また黄色い瞳で狼の青年をじっと見つめた。
その様子に、狼の青年はタガが外れたかのように、オレンジ髪の少年を鞭で何度も叩き始めた。
"パァァァン!パァァァン!"
「お前のその目、気持ち悪りぃんだよ!!こっち見るんじゃねぇ!!」
鞭に何度も打たれ、オレンジ髪の少年は身体中血がにじみ出るも、狼の青年は手を止めなかった。
その様子に、子供たちは口を塞ぎながら、目の前の恐怖に怯えるしかなかった。
—— 次は自分かもしれない。
暫くムチで叩き続けていたが、オレンジ髪の少年の意識が遠のいていく様子に、狼の青年は手を止めた。
「ッチ。死んだか?別にてめぇ1人が死んだとこで何も変わりねぇけどな。」
そして、狼の青年の視線は怯えている子供たちに移る。
子供たちは必死に目線が合わないように顔を下に向けると、狼の青年は再度舌打ちをした。
「ったく、めんどくせぇ。オルカ様の指示じゃなきゃ、こんなことすっかよ。クソが。」
そして、扉に向かうと狼の青年は鞭を叩きつけた。
「クズども!労働の時間だ。グズグズしてんじゃねぇ。そいつと同じ目に遭いてぇのか!」
横たわるオレンジ髪の少年を指し子供たちを睨みつけると、そのまま扉から出て行った。
怯えながらも子供たちは、急いで狼の青年の後を追って部屋を出た。
残ったオレンジ髪の少年は鞭で打たれすぎたのか、全身腫らしながら意識を失っていた。
そんな少年を助けられるものなど、ここには誰もいなかった。
ーー次回ーー
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