宮部みゆき著「蒲生邸事件」を読んで
雪が降るような寒い頃から、桜の咲く時期に読みたい一冊。
1994年、浪人生の孝史は時間旅行ができる能力を持つ男・平田と共に1934年の二・二六事件真っ只中の帝都にタイムトリップし、蒲生邸での事件に巻き込まれていく。SF、歴史、ミステリー、少しの恋愛(?)ありのまさにエンターテインメント。
事件が進むにつれてワクワクすると同時に、日本の歴史、特に戦争についても考えさせられる。
二・二六事件が起きた当時の民衆に思いを馳せる。この中で描かれているように野次馬をしたり、批判をしたり、あるいは何も分からなかったり…今の日本人と同じなのかな。皆それぞれの立場で必死に生きていたんだろう。数年後、恐ろしい戦争と苦難の時代が来るとも知らず。
作中、「大きな事件や事故は細部の修正はできても必ず起きる。歴史の流れは決まっている」という話が出てきてはっとした。
2020年に発生したパンデミックを機に日本人の価値観やライフスタイルは大きく変わった。もしこのパンデミックがなくても、何かをきっかけに変わっていたのだろうかと。もし何も起きず、何も変わっていなかったらと思うと少し怖い。
戦前、そして戦後、蒲生邸の人々の生き方が切なくもすがすがしい。どんよりと重苦しい雪空のような空気が全編に流れているが、ラストはさわやかでほろりとする。
季節が巡るたびに、何度も読み返したくなる一冊。
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