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異性に対する"ピンとこない"の正体(「傲慢と善良」を読んで)

読み終わったのは7月末だけど、ずっと書けなかった。

衝撃の一冊。のめり込んで、一気読みした。

読みながら印をつけていて、その印をひとつずつ、追っていくことにする。


この息苦しさが自分がまだ「どうでもいい」段階にないことの何よりの証明だった。

P.61

挙式予定の結婚式場が、アユと同じ場所であることを友人に告げられたシーン。この時点で架のことが嫌いになった。アユのことを特別な恋人ではないと思っていたと言っている。アユと一緒にいるのは楽しかったけど、これまで付き合ってきた恋人と変わらないと思っていたと言っている。はあ、自分がそんな風に思われていたら発狂するね。常に恋人の圧倒的一番でありたい。もうこの先、君を超える人に出会えるわけないよ、と何が何でも思われたい人生なので。

アユのことを「まだ」二十六じゃないか、って言うのも気色悪いですね。二十六って、どちらかというと「もう」だからね。ていうかそもそもね、結婚を迫られて引くような男は、付き合う前に言うべきだね。すぐに結婚する気はありませんが大丈夫でしょうかってね。

アユが、花嫁姿と、できれば孫を早く親に見せてあげたくて、と打ち明けたあと、「…そうなんだ」と返した架。気持ちがますます引いていくだって?やっぱりね、付き合う前に、ちゃんとすり合わせをすべきですよ。私の恋人も、「結婚する気はない」と付き合う前に正直に言っていたし、私もそれを受け入れた上で、この人と関わろうと決めたんだから。

「女って怖い」と架は思ったらしいが、普通にあんたの方が怖いが???

家族のように思いたいなら、家族になるべきだったのに。

P.67

こんな傲慢男なら、真実ちゃんはもしかすると自分から去ったのかもな…と思えてきたのがこのあたり。

誰かと一緒に生きたい。

P.69

「一緒にいたい」と「一緒に生きたい」って明確に違うと思っていて、一緒に生きるということは支え合う責任が発生するんだよね。ただ一緒にいるだけなら、ふわふわやわらかい恋愛で、済んじゃうんだもん。

それなのに、七十点くらいの気持ちであの子のこと引き止めるのは残酷だと思わない?

P.94

美奈子たちとの会話。真実ちゃんに70点をつけた架に対するこのセリフ。そもそもこの視点ってすごいよな。

自分を100点と評価する人と70点と評価する人、確かに前者と一緒にいた方が幸せになれそう。でも、自分が100点だと思う相手と70点だと思う相手なら、100点をつけれる相手を選んだ方が幸せになれるよね。相手に対する評価と自分に対する評価、どっちを優先させるべきなんだろう。ここが完全に合致する相手となら、間違いなくうまくいくってことか。

小野里さんにマチアプへの興味を示されたら、無料のものはまだ放置したまま、画面にアイコンが残っていると見せた架、ガチでやばいですよ。そんなの普通に許されないから。付き合ったなら即消せ!

会うまでのやり取りは、毎回テンプレのような無個性なものになって当然だし、そこに過剰なアピールは必要ない。

P.110

いやいやいや、異議あり。マチアプ芸人時代、いかにプロフィールとかやりとりに個性を出すか、ということを考えてやっていたし、それが間違っていただなんて思いたくない。実際変わったことを書けば変わった人とマッチできるし、私は変わった人が好きだし。ってあー、やばいやばい、必死になってしまう!

流されるのを嫌がって個性を捨てられないなら、そもそも婚活に向いていない、とか架に言われると、本当に悔しいな。普通の人に惹かれる自信がなかったから、それならちょっと変わった人を探して、変わった恋愛がしてみたいと思ったっていいじゃない。

小野里さんは、うまくいかない時、自分を傷つけない理由を用意しておくのが大事なことだと言う。合点がいく。うまくいかなくても「私が個性的で中味がありすぎるから引かれてしまった」と、確かにこれまで思ったことがある。あれは無意識に自分を守っていたんだ。まあ、でも、個性的で中味がありすぎることが、プラスに働くことのほうが、実際のところ多かったと思うけどね?(まじで必死)

「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」

P.129

どういう恋愛がしたいのか、その先に何が見えているのか、自分のポリシーを明確にもっておくと強い。私は、この辺の見切りは早めにつけられるタイプだと思っている。

「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方がとても強いんです」

P.133

なんで彼氏ができないんだろう~と嘆くと「理想が高いんじゃない?」と返されることはよくある。すると決まって「高くないよ!?」と慌てて否定する。大変身に覚えのある、あのやりとりだった。傷つきたくない、変わりたくない。確かに根底には常にそれがあった。と懐かしんでしまう。

「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」

P.137

この本を読んで一番、衝撃的な言葉。吸い込んだ息をたしかにそのまま止めてしまう。私は自己評価が高いから、ピンとこない異性と親密になりかけたとき、もっと高い相手でなければ私の値段とは釣り合わない。声には出さないものの、明確にこんなことを考えていた気がする。そんな時ふと、今の恋人の顔が浮かぶ。なんとも言えない感情になる。相手の価値の方が、自分より高いと思えばこそ、そこには言葉と気持ちに対する感謝が生まれるとある。たしかに、そう。付き合った当初、いちいちまじでありがたいと思っていた。

場面は変わって、真実の実家にて。架が、真実の母校を誇りに思う母に「だから、真実に最初、好意を持ってくれたの?」と聞かれるシーン。キツすぎる。真実が消えたのは、この親に苦しめられたことが原因のひとつなんだなと瞬時に悟る。

しなくていい苦労ならしない方がいいに決まってる。という真実母の持論、いやいやそんなことはないね、と私は思う。苦労しなきゃ、強くならないよ。

相手のいいところではなく、断る理由になるような悪いところ――選ばない理由の方をむしろ探してしまう

P.251

頷きすぎる。この4年間の自分はまさにそうだった。恋人になれない理由ばかり探して、日記として使っているTwitter(頑なにXとは呼ばない)に必死に書き綴っていたな。

真実の、二人に対する態度は傲慢だったと。

P.280

傲慢で何が悪い?真実のインスタを見て、架以外の、自分が納得できなかった男たちをなきものにしていることを架が知ったシーン。自分の意に沿うものしか見えない恋は孤独か?いやいや恋とはそういうものじゃないのか。

美奈子たちから、ストーカーが嘘であることを知らされるところで、私はそれでも真実ちゃんのことを信じようとしてしまった。あまりにも自分を重ねすぎているんだ。でもやっぱりさ、39歳が、異性の親友をここまで大切に想っていることがもはや歪だと思うの。美奈子が70点のことを真実ちゃん本人に言ったことも本当に許せない。地獄に落ちるべき。いや、待てよ。でも、もし自分が美奈子だったら、言わずにいられるか・・・?

マイナスのことを書くときでさえ、自分のことを「似合う」って言葉で肯定することに美奈子が突っ込んでいたけど、そのあたりの分析はさすがすぎる。真実ちゃんは確かに、自己愛が半端ない。自己愛が強すぎるとやっぱり恋愛ってしづらくなるんだ。

死ねばいい、と思ったんじゃなくて、ただ気付いてほしくて。

P.350

キッチンから、刃物をもってきた真実ちゃん。わかるよ、わかる。死んでほしいとかじゃない、ただ、起きて、抱きしめてほしかったんだよね。

どんなにいい人でも、自分が、相手を恋人として見れないことが悔しくて、反対に、あの人に恋できるどっかの誰かが、うらやましく思えること、たしかにあった。そういう意味での羨みを、たしかに感じたことがある。傲慢だけど、苦しかった。違和感や嫌悪感なく抱かれることができる人のことが羨ましかった。相手とキスをしたいと思えない、という理由だけで断ってはいけないのか。という真実ちゃんの言葉が、そんなに古くない自分の記憶を呼び起こす。

恋愛対象として見られる相手と出会えるのは、それくらい、得難くて貴重なことだった。

P.369

そう思えたから、本気で思えたから、大切にしようって、恋人になった相手は大切にしようって、決意したんだよな。

たったひとつ、わかることは――。

私がそんなふうに、見下すように「相手として見られない」と思ったその誰もが、私なんかと結婚しなくて、おそらく正解だったということだ
彼らにちゃんと向き合えた人と結婚できて、きっと幸せだろうということだ。
そして、思う。
私は、架くんにちゃんと向き合っていただろうか。
架くんは――私とちゃんと、向き合ってくれていたのだろうか。

P.374

花垣さんとのデートを振り返る真実ちゃん。最初の期待が大きすぎたからか、会うたびに何かを残念に思って、少しずつ、だけど確実にがっかりすることが積み上げられていったという。一度気になると、その小さな違和感がしっかりと根付いて、もう決して引っこ抜けないくらい肥大化してしまうんだよね。だからやっぱり不満はため込みすぎるべきじゃない。自分がため込み型かつ書き殴り型なタイプだからこそ、そう思う。

相手を理解しないのに、理解されたいと思う気持ちは、傍から見ればきっと傲慢に見えるのかもしれない。

P.437

だけど。私も無理だったよ。

70点をつけられたことをずっとずっとひきづっている真実ちゃん。自己愛とプライドの塊。妥協されたくなんかない。あなたがいいからって、100点でも足りないくらい。そのくらいの気持ちで、愛されたいよね。

この人のこの、気負わない鈍感さに、夫であるけれど違う人間であることに、これから何度救われるのだろう

P.493

鈍感であることに、傷つけられる。けれど同時に救われる。人の弱みは強みでもある。これを読んで、自分の考えや生き方が大きく変わったわけではない。けど少しだけ、肯定された気がしてしまう。

真実ちゃんは別れても結婚してもどちらでも幸せに近づけると思った。だからどんな終わり方でもよかった。

強くなるというのは、人生の選択肢が広がるということ。

おもしろかったな。映画もたのしみだ。

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