栗原心愛さんの死(4) 面前DVーー友田明美氏に学ぶ

▼「栗原心愛さんの死」の2回目で、「面前DV」という言葉に触れた。

▼具体的に面前DVがどれほど怖ろしいか、友田明美氏の『子どもの脳を傷つける親たち』から引用しよう。

▼この本を読むまで、筆者はなんとなく、「直接の暴力のほうが、間接的な暴力よりも、受けるダメージが大きい」と思っていた。なんとなく。

しかし、そうではない、ということが科学的に実証されつつあるらしい、ということを知って、衝撃を受けた。この本を読んだ人のなかには、同じような印象を持った人が多いのではないかと思う。

「マルトリートメント」の定義

▼『子どもの脳を傷つける親たち』は、まず「マルトリートメント」という言葉の定義から始まる。

〈「虐待」と聞くと、メディアなどで取り上げられるような、事件性のあるものばかりを思い浮かべ、自分には一切関係のない話だと思われる方が多いかもしれません。しかし、冒頭でお話した子どもの脳への影響は、日常のなかに存在する「不適切なかかわり」によっても起き得ます。

 虐待という言葉がもつ響きは強烈で、ときにその本質を見失うおそれがあるため、わたしたちの研究では、強者である大人から、弱者である子どもへの不適切なかかわり方を、「虐待」とは呼ばずに「マルトリートメント」(maltreatment)」と呼んでいます。

 このあと順を追ってお話ししていきますが、言葉による脅し、威嚇(いかく)、罵倒(ばとう)、あるいは無視する、放っておくなどの行為のほか、子どもの前で繰り広げられる激しい夫婦げんかもマルトリートメントと見なします。〉(14-15頁)

▼たとえば、まさに今日、各紙が報道した以下の記事などは、「虐待」という言葉が強烈だと感じる。

〈児童虐待、通告8万人突破 過去最多 警察庁〉
2019/02/07 10:19毎日新聞

〈親などから虐待を受けた疑いがあるとして、全国の警察が昨年に児童相談所(児相)に通告した18歳未満の子どもは8万104人だった。7日、警察庁のまとめで判明した。前年より22.4%増えて過去最多。統計がある2004年から14年連続で増え、初めて8万人を超えた。(中略)

 虐待の内容でみると、言葉による脅しや無視など子どもの心を傷つける「心理的虐待」が5万7326人(前年比23.4%増)で、全体の約7割を占めた。暴行などの「身体的虐待」は1万4821人(同20.1%増)、食事を与えないなどの「育児放棄」(ネグレクト)が7699人(同20.3%増)、性的虐待は258人(同2.8%増)だった。〉

▼しかし、マルトリートメントという言葉には、まだ実感がない。

本書が突きつける「事実」2つ

▼本書を読んだ読者が新しく得る知見は、おそらく68頁に載っている、以下の二つだろう。

・子どもの脳は、マルトリートメントを受けることで変形する

・マルトリートメントの内容(種類)によって、脳の変形する場所が違う

最初にこの頁を読んだ時、二度見してしまった。虐待によって、こどもの「脳が物理的に変形する」のだ。しかも、変形する場所が、虐待の種類によって異なるという。

具体的には、本書を手に取ってほしい。

明かされつつある「面前DV」の真実

▼心愛さんの死に至る年表の、最初に出てくるのが、糸満市での面前DVだ。先に紹介した、2019年2月1日付の毎日新聞「栗原心愛さん一家と、関係機関の動き」によると、行政に対して親族から「心愛さんが恫喝(どうかつ)されている。母がDV受けている」という相談があった。

この意味について考えるために、必要最小限の箇所を引用しておく。

〈面前DVがもとで生じるトラウマは、子どもの脳にどのような影響をおよぼすのでしょうか。

 わたしがアメリカ・ハーバード大学と共同研究を行ったところ、子ども時代にDVを目的して育った人は、脳の後頭葉にある「視覚野」の一部で、単語の認知や、夢を見ることに関係している「舌状回(ぜつじょうかい)」という部分の容積が、正常な脳と比べ、平均しておよそ6%小さくなっているという結果が出ました。

 その萎縮率を見てみると、身体的なDVを目撃した場合は約3%でしたが、言葉によるDVの場合、20%も小さくなっており、実に6~7倍もの影響を示していたのです。つまり、身体的な暴力を目撃した場合よりも、罵倒や脅しなど、言葉による暴力を見聞きしたときのほうが、脳へのダメージが大きかったということです。

 DVの目撃による深刻な影響は、別の調査でも明らかになっています。詳しくは第二章で触れますが、ハーバード大学の関連病院の一つであるアメリカ・マサチューセッツ州マクリーン病院において、身体的虐待。精神的虐待とトラウマ反応との関連を調査したマーチン・タイチャー氏の研究によると、トラウマ反応がもっとも重篤なのは、「DV目撃と暴言による虐待」の組み合わせだということでした。〉(63-64頁)

▼この文章を読んで、衝撃を受ける人は多いと思う。最も深刻な影響を与えるのは、「両親のDVを見ること」プラス「暴言」だという。こども本人への物理的暴力ではないのだ。

少し後に、もう一度、この結論が繰り返されている。

〈つまり、身体的マルトリートメントやネグレクトを受けた人よりも、親のDVを目撃し、かつ、自分もこころない言葉で罵(ののし)られるなどのマルトリートメントを受けた人のほうが、トラウマ状態が深刻だったのです。〉(96頁)

友田氏は、今回の事件報道に接して、どう感じているのだろうか。(つづく)

(2019年2月7日)

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